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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【マクランディ編】
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二話

 その光につられたのか、森の中を進んでくる複数の気配を感じた。草をかき分ける音や、ジャリジャリという地面を踏む音が近づいてくる。


「数まではわからないな」 

「囲まれたわね。私の祠徒を使えば一瞬でけりをつけられるけど」

「いや、やめておこう。この世界の生物を見ておきたい。気配からしてそこまで強くなさそうだしね」


 攻撃態勢に入ろうとするエルアートを制し、相手の動きを確認する。


 木々の間から一匹また一匹と現れるそれは、スーベリアットで言うところの犬や狼に近い見た目をしていた。明らかに違うのは口が四つに割れていること。首の部分にエラのようなものが付いており、そこで呼吸をしている点だろう。定期的に動いていることから予想したのだが、本当に呼吸をしているかはまた別の話だ。


「どうするのエニシ。結構な数だよ、これ」

「だから、ドサクサに紛れて密着してくるなって。炎属性の魔導術を使うわけにはいかないし、ここは風属性で切り抜けよう」


 できれば殺生はしたくないが、これも運命だと思って諦めてもらおう。


 右手を前に出し、手のひらに空気の渦を作り出す。それがある程度の大きさになったのを確認して上に投げた。


「結べ、風の糸よ」


 頭上数メートルに到達し、一瞬にして解けていく風の渦。真空波が糸のようになり、犬のような魔獣の身体に巻き付いた。そして肌を裂き、肉や骨を断ち切る。


 瞬く間に、周囲は鉄の匂いで満たされた。この世界でも生体の構成はあまり変わらないらしい。


 口元を抑えるエルアートの手を取り、僕たちはその場所を離れた。


 これでこの辺の魔獣の強さはなんとなくわかった。おそらくは一番弱い魔獣なのだろうけど、集団であの程度ならばそれを超える強さの魔獣もそこまで強くないはず。もしも犬のような魔獣よりも明らかに強いならば、きっとこの森には犬のような魔獣は生きてはいかれないと判断した。


 地図を見ながら四人は歩みを進める。


 歩きながら、僕の十手もエルアートのヘカトンケイルもまだ到着していないことを伝えた。彼女は「短剣があるからなんとかなるわ」と流していた。


 時々現れる魔獣を倒しながら進み森を抜けた。カラスのような六つ目の鳥。脚が妙に太いウサギ。時には木が動き出して攻撃されることもあった。


 森を抜けた先にはあったのは草原だった。目の前に広がる草原は、草の背が高くないにも関わらず夜風になびいていた。葉が柔らかいのだろうか、妙に涼やかな感じがする。この状態でも涼しいのだが、その光景は更に涼しさを増長させるようだ。


 シャクシャクという音をさせながら、月明かりを頼りに進む。魔導術で明かりを作らなくなったせいか魔獣には遭遇しなくなった。


 遠くまで広がる草原は、風が吹く度にいろいろな顔を見せる。遠くに見える山々を見ればスーベリアットでは見られない景色に感動さえ覚えた。今の第三世界は自然というものがほとんどないからだ。


 最初の森の時点でも衝撃的ではあったが、ここに来てそれが余計に強くなった。ここまで雄大な世界があることが素直に素敵だなと思った。


 草原を歩き続け、目的地へと近づいていく。草原が終わり、地面が露わになって、それでも僕たちは歩き続けた。


 そして、大きな建物がようやく見えてくる。まだ距離はあるというのにビルのような建物が見えるのだ。背はあまり高くはないが大きめの建物なんだろうと思う。その反面、この場にそぐわないような気がしていた。


 近づく度にわかるくらい、目に見えて様子がおかしいのだ。


 蒼い夜空に一瞬だけ灯る様々な色の光。光っては消え、光っては消えを繰り返す。人の足音が密集している雑踏と、誰かしらの叫び声が耳に届く。


「ちょっと縁、あれまずいんじゃないの?」

「わかってる」


 エルアートの言葉が引き金になり、歩調が速くなっていく。


 少しずつ歩幅が大きくなり、気が付くと走るまでに至っていた。


 あれがエピスコポスの建物なのだろうが、建物の前では大人数での戦闘が行われている。服装や正確な人数はわからないが、建物側にいる集団が押されている感じだった。


 目測約二百メートルまで近づいて、腰に携えた剣を握った。


『縁、今から十手とヘカトンケイルを送るが準備はいいか?』


 そこで父さんから通信が入った。


「エピスコポスが襲撃されてるみたいなんだけど、後じゃ駄目かな」

『すぐ終わる』


 目の前に淡い光が出現したかと思えば、チラチラと線状に映像が走る。そしてその線が増えていくと、ようやくどんな物質であるかを認識できるようになった。線が増える度に構成されていく物質はやがて完全な形になり、重そうな音を立てて地面に落ちた。


 これは、精密機械なんかの転送は不可能だな。


「ありがとう。落ち着いたらまた連絡するよ」

『ああ、健闘を祈る』


 ケースを開けて、十手を右手に持つ。剣は右側へと移動させた。


 エルアートもヘカトンケイルを両手で持ち、準備万端と言わんばかりに鉄鎚を三度ほど振り回した。


「僕とリュノアが前衛、エルアートとルキナスが後衛だ」

「私は前衛の方がありがたいんだけど、まあいいわ。それより、そのエルアートっていうのやめてくれる? 長いからエルアでいいわ」

「オーケー、今度からそう呼ぶよ」


 左手で剣を抜き臨戦態勢に入った。


「普通剣が右手なんじゃなくて?」

「僕にとってはこっちが本命さ」


 十手を掲げ、エルアに笑いかけた。彼女は「はいはい爽やか爽やか」なんて小さく言っていたが、あまり気にしない方向でいこう。


 全身を強化し一歩前へ。


 レガールのないこの世界は、僕らにとっては水のようだ。そして僕らは魚なんだ。


 ほら、瞬く間に戦場のど真ん中に到達できる。


 白い司祭服を着た人たちの前に立ち敵を迎撃する。相手は深緑色の軍服で、胸にはなにかの魔獣をモチーフにしたワッペンがつけられている。四足でタテガミがなびき、ライオンのような見た目をしていた。


「な、なんだ貴様は!」


 目の前の軍服姿の青年がそう言った。


「そのうちわかるよ」


 僕はそれだけ返し、彼を思い切り蹴り飛ばす。


 周囲の視線が集まった。そうだ、僕を見ろ。そうすれば彼女たちが動きやすくなる。


 司祭服、つまりエピスコポス側の人間は戦闘が苦手だ。逆に軍服、おそらく第一世界の連中は戦い慣れしている感じである。


 それならば手加減はいらないだろう。


 基本的には剣撃メインで散らしていく。


「爆ぜろ、炎の礫」


 米粒ほどまで縮小した魔法の塊を剣から出す。物体に接触すると爆発する仕組みだ。


 少しだけ後退する彼らを追従し、今度は十手で強打していく。


「切り裂け、風の刃」


 僕を無視して侵攻しようとする奴は風属性の魔導術で追い払った。


 周囲の掃討を確認して疾駆する。剣や十手を薙いでは、司祭服と軍服の接触部分を剥いでいく。


 一度立ち止まった際に背後から剣で切りつけられそうになる。が、即座に反応し身をかがめて回避する。身体を捻った時の遠心力で蹴りを食らわした。


 俺の行動を見ていたからなのか、エルアたちもまた司祭服と軍服を割るように立ちまわっていた。


 ある程度二つの間が分かれたのを見計らい、十手を強く握りしめて魔導力を集中する。


「閃け、光の剣よ」


 棒身と鉤の間から光の剣が伸びていく。だが実際は剣と言うよりも光線に近いものがある。


「これで終わりだ……!」


 相手は個人ではなく複数。一撃で全員を掃討するつもりで、思い切り横に薙ぎ払った。


 切れ味よりも打撃に特化させてあるため、そう簡単に死ぬこともないだろう。


 右腕への負担はそこそこに大きいものの、右から左へと移動させるくらいは問題ない。


 その一撃が終わる頃、目の前は平地と化していた。立つ者はおらず、全員が地面に伏している。


「捕虜にするのならば今のうちです」


 そう背後の人たちに言うと、彼らは慌てた様子で軍服の人たちを拘束し始めた。


「上手くいったな。さすがはエニシだ」

「ありがとうリュノア。そっちも無事みたいでなによりだ」


 リュノアの武器は己の拳。遠距離の魔導術を一つも使えず、補助や強化をしてその身一つで切り開くというタイプだ。


「アナタ、私たちのことちゃんと考えて攻撃した? 結構ギリギリだったんだけど」

「一応見ていたつもりなんだけど、エルアはアクティブだから、こういう戦い方はなかなか難しいな」

「最初に言ってくれたら従うわよ。一応アナタの祠徒なんだし」

「従うっていい方はあまり好きじゃないかな。一緒に戦ってくれよ。主従じゃなくて仲間としてさ」


 エルアの頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうにモジモジとしていた。身長的に手を乗せやすいのでついつい撫でてしまう。


「おいてかないでよー」


 と、ルキナスが最後に合流した。


 彼女はリュノアとは対照に近距離が苦手である。味方を巻き込まんばかりの攻撃系魔導術を得意とする。大衆戦闘ならば僕よりも得意だろう。

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