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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【エレメンタルセブン編】
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最終話〈クロスオーバー:波佐間清〉

 五回戦。今日最後の試合に相応しいのではと、波佐間清はつま先を鳴らした。


 目の前にいる赤崎火群(あかざきほむら)に、恨み辛みが篭った瞳を向けられている。


「そう睨むなよ。私たちの仲じゃないか」

「私はお前と仲良くなった覚えはない」


 ボリュームのある真紅の髪の毛が風に揺れた。ウェーブが強くかかった髪の毛は炎が燃えているようにも見える。


「そう言うなよ。これでも五年間、同じ学びやで過ごしたじゃないか」

「クラスメイトでもないお前に馴れ馴れしくされる覚えはない」


 そう言われ、清は頭を掻いた。


「お前はなぜエレメンタルセブンなんて集団を作ったんだ」


 いつもの調子で、清はそんな問う。エレメンタルセブンというグループができてからずっと気になっていたことだった。


「去年も言っていたな」


 火群はそれを受け入れ、空気は少しだけ穏やかになる。


「お前が三年の時だったか。まだ入学もしていない者を入れて組織されたエレメンタルセブン。お前は校内でも有名なほど口を開かない。喋らず、そこに佇んで睨むばかり。そんなヤツが徒党を組んだんだ、訊きたくもなるだろう?」

「話してやってもいい。が、それは私を倒してからにしろ」

「去年とは返答が違うんだな。去年は完全に突っぱねられた」

「今の状況からすれば、隠すことなどなにもない。お前が勝ったら、全部隠さず話してやる」


 ニヤリと、清は口を歪めた。


「その言葉、忘れるなよ」


 二人の会話が終わったのを見計らい、教師が前に出てきた。


「それでは、始め!」


 教師の言葉と同時に、一瞬で空気が変化する。


 どちらが攻撃したというわけでもなく、二人は変わらずに立っているだけ。しかし、気迫が衝突し、見えない壁を作っていた。


 純粋な魔導力を身体から出し、空気を制圧し合うような攻防。もうすでに戦いは始まっているのだ。


 どちらともなく動き出し、お互いに後退する。


 清は光で作った刀を握る。


 火群は炎で剣を練り上げた。


「はああああああああああああ!」


【深淵礼装】を使い、レガールの拘束を解く。全身を隈なく強化し、地面を目一杯踏みしめた。


「ワルクレーネ」


 応えるように火群は祠徒を召喚した。しかしそれは、本来火群が持っていた祠徒ではない。第一世界から呼び寄せた違法なる祠徒だった。


 召喚はしたが、従えたままで祠導術は発動しなかった。


 中央に向かい突進する二つの影。振りかぶる剣が激突し、それだけで暴風が巻き起こる。


「【爆ぜる紅炎(ライオットブレイザー)】」


 至近距離で炎属性の祠導術を発動した火群。その身に爆炎をまとわせて、清の剣撃を追い返す。


 舌打ちをしながら後退する清を、火群は嬉々として追従した。


 幾度となく打ち込まれる剣閃をさばくことしかできない。その上、気付けば炎に囲まれていた。


 徐々に逃げ場を失っていく清。


 一度受けるのをやめ、無理にでもと攻撃に転じた。


 振り下ろされる剣を払い、下段からの切り上げを放つ。しかしそれを読んでいたかのように避けられてしまった。


「落ちたな」


 腹部に衝撃が走ったかと思えば地面から浮き上がる。吹き飛ばされ、結界へと背中を打ち付けた。


 何度か咳をした後で前方を見た。


 炎の中から歩み寄る火群を、この時初めて恐怖の対象として認識した。


 この五年間、彼女のことをことごとくねじ伏せてきた。実技考査では常に戦い、四年の中盤からは決勝で戦うことも多くなった。これも運命なのか、などと楽観視していた感は否めない。


 しかし、負けること自体に抵抗はなかった。


 元より波佐間清という少女は普通の少女だった。安瀬神縁という少年を知るまで魔導術の成績はど真ん中。努力という過程を経て才能を開花させたが、それまでは普通だったのだから。


 一年生の時から強かったわけでもなく、先輩に足蹴にされたこともある。しかしそれを糧にし、己を磨き続けた成果とも言える。


 刀の切っ先を地面に突き立ててゆっくりと立ち上がる。


「まだ終わりじゃないんだろ?」


 と、火群が言う。


「まだ祠導術を使っていないからな」


【深淵礼装】の凄さが身にしみる。本来は使えないはずの【死地を恐れぬ戦乙女】が発動できるのだ。


 召喚し、赤い魔導力を纏う。


「そうこなくてはな。【極地を統べる戦乙女(フラジャイルエピック)】」


 ようやく火群も祠導術を使う。清とは対極に、青い魔導力を纏っていた。


 強大な魔導力で風を切って突き進む清。


 逆に、風に舞うような静けさで跳躍する火群。


 二つの刃が衝突し、その衝撃で地面にヒビが入る。つばぜり合いをする間もなく、受け止めては引き、移動しては打ち合うという繰り返し。時間は徐々に消費され、清の顔にも少しずつ焦りの色が見え始めた。


 清はこの間にも考えていた。【死地を恐れぬ戦乙女(クルセイドエイジ)】を使っているというのに、なぜついてこられるのか。【極地を統べる戦乙女】の能力がまったく見えてこないのだ。同じような能力なのかとは思うが、剣を交える度になんとも言えない違和感を感じていた。


 その違和感の正体を理解するまで、そこまで時間はかからなかった。


 打ち合う回数が百を超えた頃、自分の身体が重くなっていることに気がついた。戦闘中の高揚感によって麻痺していた部分が、疲労によって露見し始めた。


「ようやく気付いたか?」


 勝ち誇ったように笑う火群が動きを止めた。


「これは、一体……」

「相手の祠導力を吸収して自分のモノにする。それがこの能力だ」

「なるほど、それで重く感じるわけだ」


 このままでは勝てないなと直感する。


 ではどうしたらいいのかなど、考えなくても答えは出ていた。


 悩むことも多かった。だが悩むよりも遥かに多かったのは、試行錯誤を繰り返すという行為。純然たる知識欲、決して折れぬ探究心、それらを携えて前に進む実行力が彼女にはあった。


「結局のところ、私は魔導師でしかないわけだな」

「なにを言ってるんだお前は」


 呆れ顔の火群に、今度は清が笑いかける。


「魔導術の中には、つくり上げるのが困難ないし不可能と言われているモノだ存在する」

「基礎中の基礎だろう。重力や地震、ブラックホールや地球規模の地盤変動なんかがそれに当たる。あとは人体蘇生と時間操作も含まれるか」

「そう、祠導術では認められても、魔導術ではいまだに魔導式が構築されていない」

「それがどうした。回復のための時間稼ぎなら意味がないぞ?」

「解明し到達できたのなら奇跡と言われている。じゃあ、今からそのキセキというやつを見せてやろう」


 火群へと手を伸ばし、その手を下方へと振りかぶった。


 その瞬間、火群の身体が地面に引きつけられ、うつ伏せの状態になっていた。


「なにをした……!」


 困惑する火群は、腕に足にと力を入れて脱出を試みる。が、その腕や足も地面に吸い付けられているためもがくことさえもままならない。


「奇跡ではない、軌跡だよ」


 ヴァルクレスの召喚を解除し、風の球体を作り出す。


「こんなことが、一介の学生にできるわけがない!」

「できるんだな、これが」


 こぶし大の風の球体は、周囲の空気を巻き込んで大きくなっていく。


「私の勝ちだ、赤崎火群」


 肥大し続ける風の球体を火群の上へと放り投げ、清は彼女に背を向けた。


 球体はある一定の場所に到達すると、進行方向を変えて火群へと落下する。目にも留まらぬ速度で胴体を直撃し、彼女は目を白黒させた。


 顔を歪ませながら歯を食いしばって耐えるが、やがて重力に抗うことも忘れ、横っ面から地面に落ちた。


「重力を作ることや操作することは不可能だ。けど、周囲の重力を一点に集めることは可能なんだよ」


 研究や試行錯誤の末、清が出した答えだった。


 重力を強めたい場所を起点とし、周囲の重力を少しだけ拝借するというもの。これも簡単ではなく、限られた魔導師にしかできないだろう。


 奇跡には指を掛けられなかった。だが、今まで歩んできた軌跡は彼女を裏切らない。


「起きたら全てを話してもらうぞ」


 気を失っている火群にそう投げかけ、結界の外へと歩いていく。


 魔導師としての自信を確実なものにし、今日も彼女は気高く笑う。人によっては不遜や高慢に見えるその笑顔は、生徒会長としての求心力を象徴しているかのようだった。

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