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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【エレメンタルセブン編】
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一話

 教師が教科書を読み上げているが、前の学校で習った部分を復習するのも億劫になる。


 窓の外に視線を放り投げ、少しばかり思考を巡らせた。


 ジャックザリッパーの件が終わって、俺は生徒会にも少しずつ馴染み始めていた。強引な清に引っ張り回されたり、エルアに追い回されたりもした。


 俺が第一世界の住人であるとわかっているのに、アイツらはどうしてこうも平然としていられるのか。


 俺よりも縁の方が強いのに、どうして本当の縁を求めないのか。


 数日間考えてみたが、答えはまったく出てこなかった。それどころか、泥沼に沈んでいくような感覚さえ覚えていた。


「寝てるのか唐変木」


 窓から正面に視線を移すと、不機嫌そうなエルアが立っていた。


「なんだ、もう終わってたのか」

「ちょっと前にね。アナタ、授業聞いてなくても大丈夫なの? 来週は期末考査じゃない。期末考査が終われば全校実技考査もあるっていうのに」

「学力の方なら心配いらん。前の学校じゃど真ん中だったが、それでも一応進学校だったんでな」


 俺はカバンを持って立ち上がりドアへと向かう。


「実技考査の方は?」


 そんな俺の後ろをエルアが追ってくる。なんというか、これも日常の光景になりつつあった。


「まずどういうものなのかがわからん。教師からは説明されたが、実際見てみないとなんとも言えない」


 期末考査はただの筆記試験だが、全校実技考査は「誰が強いか」を決める、言ってみれば競技のようなものらしい。全校生徒がトーナメント形式によって上を目指すという仕組み。一対一で行われ、勝ち負けの他にも有効打や戦い方などで教師がポイントを設定。学級実技順位はポイントが高いヤツが上に行く。


 ただ強ければいいというものでもなく、そこに行き着くまでの過程も重要視される。ポイント制でもあり、有効打を打ち続けたり、相手の考えを逆手にとることで教師たちの評価があがるというもの。


 転校して間もないため、この学校にどういう人間がいるのかも把握できていない。強いヤツも弱いヤツもまったくわからないのだ。


「おい」


 と、昇降口へと到着した時、目の前に大男が現れた。「おい」という言葉が俺に対してではないと思いたかったが、どうやらそうもいかないみたいだ。


「なにか用か? 俺は今から帰るんだが」


 見上げる程に身長は高く、優に二メートルは超えているのであろう。厳つい顔立ち、太い眉毛、口は横一文字に結われていた。胸板も異常なほどに厚く、エルアの腰回りほどあろうかという二の腕には目を疑った。


 制服のタイは青。つまりは一個上の先輩ということになる。


「お前が安瀬神縁だな」

「そうだが、見たところアンタは上級生みたいだな。人に名前を名乗らせといて、自分は睨んで威圧するだけか? 随分とできた教育をしてるみたいだな、アンタの家は」

「ちょ、ちょっとやめなさいよ縁! すいません先輩! 今度言い聞かせておきます!」


 小さな体躯が、俺と大男の間に割って入った。


「いや、俺が悪かったのだ。エルアートは気にしなくてもいい。俺の名前は綾部善。お前と同じ部屋にいる綾部尽の弟だ」


「弟? でもアンタは先輩だろ? 俺やエルアは三年でタイの色は赤。でもアンタと尽のタイは青だ。もしかして双子か? 二卵性にしてはあまりにも似てないが」

「同学年だが双子ではない。俺は綾部家に拾われた養子だからな」

「なるほどな。で、その弟がなんの用事だ」

「すぐにそういう口の利き方を――」


 エルアの頭を掴み、無理矢理横へと移動させた。こういう時、体重が軽いというのは助かるな。


「お前の強さは兄貴から聞いている。が、やはりこの目で確かめないと気が済まないのだ。兄貴や会長を信じているが、それでも俺は確かめたい」


 目を閉じ、ため息を吐いた。暑苦しそうな気はしていたが、こうもストレートに言われると呆れざるをえない。


 瞼を開けると、強い眼光が返答を待っていた。


「悪いな、そういうのはお断りだ。もしも俺とやりたいんなら、実技考査で勝てばいい」

「転校して間もないというのに、この学校で勝ち上がる自信があるのか?」

「なんとかなるだろ。トップには立てなくても、そこそこまでいけると思うが」

「お前はまだ三年で、その上には上級生がたくさんいるのだぞ」

「年が上だからなんてのはどうだっていいんだよ。実技考査ってのはそういう場所なんだろ? だったらなんら問題ない」


 若干慌て気味なエルアに「行くぞ」と言って、俺は善の脇をすり抜けた。少し間をおいてから、パタパタと軽い足音が背中を追ってきた。


「その言葉、忘れるなよ」


 という善の言葉だが、俺の足を止めるには至らない。


「アンタもな」


 俺はそう返した。


 帰り道、エルアに小突かれながら寮への道を歩いたのは言うまでもない。


 ジャックザリッパー事件が終わっても尚、俺たちが一緒にいるのには理由があった。


 結局のところ、生徒会に入った以上は警邏を続けなければならないこと。パートナーは解消されず、俺たちは今でも見回りを続けていた。


 卒業まで続くんじゃないかと、そんな考えが脳裏をよぎった。


 下校まで一緒にいる必要はないと思うのだが、清の言いつけなのでエルアも断れなかったらしい。


『できるだけ一緒にいてパートナーを理解しなさい』


 実にムチャクチャな生徒会長だ。


 寮で少し時間を潰してからエルアと合流。暇つぶしと言えば読書しかないのだが、まあ読書は好きだから問題ない。


 ジャックザリッパー事件の時よりも警邏の回数は減り、一週間で二日程度になっていた。


 銀色のケースを持った銀髪の少女と西地区を闊歩した。なにもないのは、こちらとしても非常にありがたい。


 できれば平和であればいいと思う。しかし、今までの人生を振り返ればそれは難しいのだろうなと、気持ちは沈んでいく一方だった。厄介事が好きなのは俺じゃなく、安瀬神縁本人なのだから。






 アランには無理矢理麻雀やカードゲームに付き合わされる。


 清には呼び出されて街中を引っ張りまわされる。


 エルアには毎日小突かれる。


 そんな日々を過ごしながらも期末考査は終了。次の日には実技考査が始まった。そんなに急がねばいけないのか。


 明日の朝、名簿順にくじを引かされるらしい。実技考査の対戦相手を決めるくじらしいが、名簿順というのは少し納得がいかない。周囲も納得していないようだが、学校が決めたことに対しては口出しできないということだろう。


 一番最初のくじで、トーナメントのブロック分けをする。ブロック内の生徒全員でバトルロイヤルを行い、人数が半分になってから正式な対戦相手を決定する。つまり現時点では対戦相手イコール複数人数なのだ。ブロック内で結託することもできれば、逆に孤立することも可能。他人と協力することなどもポイントとして換算されるみたいだった。


 しかし、協力関係をちゃんと築けるかどうかはまた別の話だ。裏切られることもあるだろうし、裏切ることだってある。その匙加減がなによりも難しいだろう。


 授業が終わり、放課後を迎えた。今日は当番でないため、寮に帰ればゆっくりできる。


「よし、遊びに行くぞ兄弟」


 立ち上がった瞬間、アランが肩を組んできた。うざったく思ってすぐに腕を外すが、今度は腕を組んでニヤニヤと笑っている。


「俺はお前みたいな弟をもった覚えはない」

「なに言ってんだ、俺が兄貴だよ」

「もっと嫌だろ、お前みたいな兄貴とか」

「まあまあ、そんなことはどーでもいいんだよ。どうだ、これからどこか行かないか? せっかく午前中で帰れるんだし、飯食った後でさ」


 いつの間にか結とエルアもアランの後ろで待機していた。


「お前ら暇なのか? 明日から大事な実技考査だろうが。結果を残せれば学校でも優遇されるし、内心もよくなるだろ。就職にも有利に働くはずだ」

「でもさ、今日なにかしたからって明日超強くなるわけじゃないだろ? じゃあ好き勝手にやっちまおうってわけさ。期末考査も終わったことだしな!」


 言いたいことはわかる。勉強もそうだが、前日はどっしりと構えていた方がいい結果がでることもあるだろう。


「わかった。それじゃあ――」

『えー、三年五組の安瀬神縁、エルアート=ファランド、アラン=マーキット、此之峰結。四年二組の綾部尽。四年四組の綾部善、山本汐里の七名は至急生徒会室に集合してください』


 そう言いかけた時、校内に放送が響き渡った。聞き間違いではなく生徒会長波佐間清の声だった。


 俺たちは顔を見合わせ、一様にため息をつく。


「清のことだ、大した用事じゃないだろう。さっさと済ませて帰るぞ」

「さっさと済ませて遊びに行く、の間違いだぜ」


 アランの戯言を躱し、俺たち三人は生徒会室に向かった。「俺! また俺置いてってる!」という声は無視した。


 生徒会室には四人の人間が座っていた。コの字型に並べられた机があり、正面には清と尽が座っている。右手には善と、山本汐里と思われる人物が座っていた。


「よしよし、ちゃんと来たようだな。こっちに座れ」


 清がに従い、俺たちは左側へ。机は大きめなので四人並んでも問題はない。


「それで、今日はどうしたんだ」


 清は机に肘をつき、口元で指を組んだ。


「この生徒会に果たし状が届いた。差出人は、エレメンタルセブンだ」


 空気が急に重くなる。周囲の反応を見る限り、そのエレメンタルセブンというのを知らないのは俺だけなんだろう。


「話の腰を折るようで悪いが、エレメンタルセブンってのはなんなんだ? 名前が胡散臭すぎてできれば訊きたくはないんだが」


 でもそうしなければ話が進まないような気がする。


「エレメンタルセブン、それはこの学校にいる七人の勘違い集団だ。別々の属性を一人ひとつ持っているんだが、魔導術だけじゃなく祠徒も属性で統一されている。例えばリーダー格の赤崎火群は炎属性の魔導術を得意とし、祠徒も炎属性だ」

「そういうヤツらが群れてるって考えでいんだな。でも、そんなヤツらがなんで生徒会に果たし状なんか出すんだよ。お前、なんかしでかしたのか?」

「失敬だな、私はお前とは違うぞ。ただな、私が部活動の申請を却下したんだ。たぶんそれが原因じゃないだろうか」

「部活動? もしかしてエレメンタルセブン部とか言うんじゃないだろうな」

「よくわかったな。私とのデート券をやろう」


 清が俺に向かって一枚の紙切れを差し出してきた。


【波佐間清とわくわくデート券】


「いらんわ。さっさと話を進めろ」


 それを手で押しのけると、彼女は不服そうに先ほどと同じポーズに戻った。


「まあいい、デートは無償でしてやろう。それでエレメンタルセブンなんだが、実技考査終了後のエキシビションで戦うことにした」

「か、会長それは!」


 最初に異論を唱えようとしたのはエルアだった。


「もう少し聞け。エレメンタルセブンは生徒会を舐めてるフシがある。そろそろ思い知らせてやらなきゃなと、そう思ったんだよ私は。そこで七対七でやろうと考え、お前たちを呼び出したわけだ」

「でも会長、私たち八人ですよね?」

「その点は心配いらない。八人でジャンケンして、負けたヤツが抜ける。ただそれだけだ。まあ抜けると言ってもなにもしないわけじゃないんだがな」


 清がニヤリと笑った。あの目、絶対良くないことを考えている。


「負けたヤツはなにをすればいいんだ?」


 誰かが突っ込まなければ話は進まない。仕方ないと、俺はそう言った。


「裏方だよ裏方。元々実技考査の時ってのは、ほんの少しだけ犯罪が増える傾向があるんだ。だから、七人が戦ってる最中に警察と一緒に街で警邏だ。実技の後で長時間の見回りかー大変だなー」


 パシーンと、平手で額を叩く清。


「それでは、ジャンケンを始めようか」


 彼女は静かに席を立ち、握りこぶしを突き出した。


 七つのため息が生徒会室を満たした。が、一人また一人と立ち上がる。


「じゃーんけーん――」


 清の号令に急かされ、俺は平手を目の前に出した。

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