十四話〈クロスオーバー:エルアート〉
ヘカトンケイルは魔獣の骨を砕き、魔獣は生涯をとじた。しかし、何度も何度も繰り返しても魔物は無限に湧いてくる。人間の体力は有限なのに、魔獣の数は増えるばかり。
「エルア、ちょっといいか」
「なによ縁。雑談なんかしてる場合じゃないでしょ」
そんな会話をしながらも二人は魔物を倒していく。
空中戦は尽とアランが担当していた。尽は魔法力が高く、アランの持つハミルトンは飛行が可能だからだ。アランの後ろには結が乗り、祠導術を行使し続けていた。結の祠徒の中には、味方の身体能力を上げるものもあった。
「清とクオリアを見ろ」
エルアが視線を上空に向けると、清とクオリアはどちらも静止していた。視覚に影響する祠導術を使っているため、遠くにいる二人も明瞭に見える。
清は刀を納め、身をかがめるところだった。
「ありゃ負けだな」
「縁起でもないことを……」
清先輩が放つ一撃を、クオリアは難なく回避した。切っ先を指で受け止め、そして清を切り伏せた。
間違いなく、今のは渾身の一振り。遠目から見てもわかるほどに速く、そして強力な一撃だったはずだ。それを簡単に返してみせた。
負けを証明するように、煌めく赤を従えて真っ逆さまに落下する少女。【死地を恐れぬ戦乙女】は続いているのか、まだ真紅の魔法力をまとっている。
尽が一目散に飛び出して、地面との直撃だけは避けた。
「こりゃまずいな」
「詰まされているのがわかってるでしょう!? 私たちの中で一番強い会長がやられたのよ!?」
「まだ詰んでねーよ。一番強いのは俺だからな」
「さっき負けたでしょうが!」
上空からの敵を縁が撃ち落とし、四足で走る魔物をエルアが地面に埋めた。
「俺は本当の縁じゃないと言ったな。つまり、本当の縁が俺の中にいる。そしてそいつこそが、この中で最強だ」
「やけに自信満々ね」
「あいつは伊達に天才と呼ばれていたわけじゃない。年端もいかない頃から、魔導術で世間を渡ってた。確かに、ある一定以上の時間が経てば、自分と同世代の魔導師は成長してくるだろう。だが、あいつを越せるほどの実力者はそうそう現れないはずだ」
「で、どうやって本物を出すの? 表に出たくないから、今でも尚引きこもっているんじゃないの?」
「引っ張りだす。他の人格も、祠徒も、なんとか縁を表に出したいと思っているはずだしな。そのためには少しばかりの時間が必要だ」
縁……いや、パトリオットはニヤリと笑う。含みがありすぎて、なにを考えているのかすら聞きたくない。そう思ったエルアだが――。
「時間を稼げ、と」
「清はすぐに復帰する。今は回復力もかなり高いからな。お前は俺の護衛をしろ」
「雑魚がいくら弱くても、私一人でやれって言うのはちょっと……」
「お前ならやれる」
大きな手が、エルアの頭を撫でた。優しく、それでいて力強い。最初は大声で吠えようかと考えたエルアも、素直に撫でられていた。
信頼されるということに対し、素直に嬉しいと感じていたからだ。
「私が持つ祠徒の中で、一応最高ランクはSよ。だけど攻撃ができるような代物ではないし、元々私は攻撃が得意じゃない」
「誰が攻撃しろって言ったんだよ。時間を稼げって言ったんだ」
「もっと難しいわよ!」
「なんとか祠徒でやりくりしろ。お飾りだろうがなんだろうが、お前は【祠導の魔女】だ」
エルアはその呼び方が好きになれなかった。たくさん祠徒を使役できるだけで付けられた異名。魔導術を上手く扱えないことに対しての侮蔑とも取れる。
「そう渋い顔すんな。いいじゃねーか別に」
「なにがいいの!? 嫌なものは嫌なのよ!」
「キツイ性格の割に無駄に悩む奴だな。割り切れよ。私は祠導の魔女だぞ、強いんだぞって、無い胸くらい張れよ」
「無い胸は余計よ! それに、そう簡単に割り切れたら苦労しないわ!」
「お前の苦労は知らん。じゃあ頼むわ」
パトリオットはそう言ってから座り込む。片足を抱き込んで目を閉じた。
「もう! 勝手にしなさいよ!」
その自己中心的な姿に、怒りを露わにする。しかし、その怒りもすぐに収まっていた。言いたいことは山ほどあれど、それは今やるべきことではないと悟ったからだ。
こうなったら、こいつに賭けてみるしかない。癪ではあるが、文句はこれが終わってからだ。
そう自分に言い聞かせ、ヘカトンケイルの柄を強く握った。
「さあ来なさい、雑魚の相手は私一人で十分よ」
ヘカトンケイルを持つ手は震えるが、気持ちは妙に昂っている。
自分も戦士なのだろうなと、エルアは思う。窮地に立たされてもなお、自分に与えられた使命には、信頼が重く乗っているのだ。
ああ、これは武者震いなどだと、そのときようやく気がついた。
「私、Mっぽいのかしら。なんてね」
縁から離れての戦闘はできない。寄ってきた魔獣を、手早く、迅速に処理する。それだけを考えていた。
「いくわよ! 私の盟友たち!」
エルアートは全ての祠徒を召喚した。
黒い魔獣たちの群れにも屈しない、銀髪の少女が武器を振るう。




