十四話
俺がカイに借りたのは、エルファが操縦していたものよりもずっと小さなモービルギアだった。
それでもコクピット内部に違いはなく、簡単なレクチャーを受ければ俺でも操縦できるだろう。
これがこうで、あれがああで。そんなことをしているうちにオペレーターからの指示が聞こえてきた。まあ、聞いた限り飛び立ってしまえばオートパイロットで動いてくれるという親切設計だから大丈夫だろう。着陸の時さえちゃんと操作できればいいらしい。
ほぼ自動で発進して大空へと飛び立つ。なんというか、自分で操縦しなくていいとなると感動が少ないな。
ポルトス大陸までに、俺はいろいろと考えなければいけない。
二人には言わなかったが、ポルトスへと向かうにはそれなりの理由がある。
各大陸からミュレストライア兵が集められているだろうという予想がまず一つ。行く場所がない以上は他の大陸であると考えるのが普通だ。逆にポストスでなければ、上空か海中しかない。
二人に調査を頼んだのは念のため。それと誰にもついてきて欲しくなかったからだ。
本来ならばエベットへと戻って、イクサードの状態を把握すべきだとは思う。いいように使う、と言えば聞こえは悪い。けれどアイツがいなくてはこちらの戦力はボロボロだ。近いうちにイクサードを一度送り返すか、優秀な義体師を呼び寄せるべきか。
「おいリン、聞こえてるか」
首輪に触り、ミュレストライアへと通信を送った。
『ああ、聞こえてるよ。なにか用か?』
「イクサードがやられた。ヤツを送り返すのと、有能な義体師を送ってもらうのではどっちの方が簡単だ?」
『なんだそりゃ、イクサード様がやられたなんて初耳だぞ。まあいい、どちらかと言えば後者の方がいいだろうな。義体師を要求するってことは、それだけマズイ状態なんだろ? 義手義足なんかの調整を考えるならば前者だろうが、王子ならイクサード様をこき使うのが目に見えてる。それなら義体師を送り、そっちで戦闘なんかを繰り返す中で調整をした方がいい。労力は一緒だしな』
「なるほど、お前はなかなか頼りになるな。全部終わったら褒美をやろう」
『やめろ、死亡フラグか。しかもどっちにも言えるフラグだぞそれ』
「あー、悪い悪い」
『しかし褒美は期待しておく。忘れるなよ』
「できるだけ覚えてるさ。それじゃあ早急に義体師を頼む」
『承知した。王子たちを送った場所に、優秀なのと機材一式を送っておく。が、また数日間は世界間移動ができなくなるってことを理解しておくように』
「了解、エルファたちにはそう説明しておこう」
そこで通信が切れた。が、タイミングが良いと言っておけばなんとかなる。
着陸準備の操作をすると自動で高度が落ちていく。そして広い場所を検知し、また自動で着地した。飛行機の形態からヘリコプターに近い形態に変形できるからこそ、真下に向かって着地できる。
森のど真ん中。にもかかわらず周囲には木がない。まるでこういう事態を想定しているかのようだが、こういう場所があってもおかしくはないか。一応身を隠すために森の中に着地したが、これが吉と出るか凶と出るかはわからない。
コクピットを出て自分の足で草を踏みしめた。
「よお、久しぶりだな」
突如、背後から声を掛けられた。
「まさかこんな場所で顔を合わせることになるなんてな。顔を見たかったわけじゃないが」
聞き覚えがある、その声の主に向かって振り返った。
真っ黒な外套、真っ黒なズボン。真っ黒な髪の毛に、吸い込まれそうなほどに黒い瞳。
「随分な言いようだな。実の兄に向かってかける言葉じゃない」
腕を組んだ立ち姿から威圧してくる。口角を釣り上げる見下したような笑い方は昔から変わらず、自尊心と侮蔑を同時に感じた。
きっとここだろうなというのはわかっていた。他の大陸からの物資もここに搬入されたに違いない。
他の誰にも言わなかったのはライオネルがいると思ったからだ。コイツと会話をするのも、コイツと戦うのも、嫌な思いをするのも俺一人で充分だ。
それに俺一人で飛び立ったのを見て、誰かが後を追ってきた可能性も低くない。賭けみたいになってしまったが、思い通りことが運ぶのは悪くない。
コイツにそれが通じるかどうかはまた別の話だってのが難しいところだったりする。
「兄だ? 俺をゲートにぶち込んで、そのせいでナスハはスーべリアットをさまようハメになったしシンドラは死んだ。クオリアだって死にかけた。一般人だって何人死んだかわからない。そんなヤツを兄なんて呼ぶと思うか? お前は父上だって殺したんだろうが。十二領帝や三嶽神を従えていい気になってんじゃねーよ」
「死は人の本分だ。人は生まれ、死ぬものだ。それがいけないというのならばお前は生物として生きる価値がない。それにいい気になっているわけではないぞ? これが当然なのだ。俺がこの地位にいるのも、たくさんの人間を従えているのも、全ては必然性によるものと言える」
「言えるわけねーだろ。お前の勝手にさせてやるわけにはいかないんだ」
「目覚めて間もないというのにヒーロー気取りか? ミュレストライアのことも、他の世界のことも詳しく知っているわけでもないのに? 俺と対等な立場だと勘違いしていないか? お前は、今も昔も、俺よりもずっと格下なんだよ」
「俺はお前のそういうところが嫌いだね。倒す、いや殺す。それが、俺が自分を証明するために必要なことだと思ってる」
右手に魔力を集中し【巣食う魔を掬う者】を発動。同時に身体を限界まで強化。
「悪いが、俺はお前とやりあうつもりなんてさらさらない」
そう言いながら、ライオネルが右手を前に突き出した。その瞬間、俺の使った魔術はすべて消し飛んだ。
「お前……! 俺の魔術を打ち消したのか……!」
「そういうのも研究した。いざという時のためにな。今だってそうだ。俺は単純にここにいるわけではない。遠くには兵だって控えさせている。お前のように闇雲に飛び込んだりはしないのだ」
『パトリオット様、聞こえていますか?』
俺たちの会話にエルファの声が割って入る。
「どうした? なにかわかったか?」
『ええ、大陸中から輸送された物資の詳細と行き先がわかりました。遥か北部の海上です』
読みが外れたというのも癪だが、なぜそのような場所にという疑問が湧いてくる。
「優秀な侍女だよな、エルファもナスハも。それでももう遅いんだ。見るがいい、これが第六世界〈マルキオーラ〉への嚆矢だ!」
ライオネルの背後、遠く離れた場所から光の柱が空へと向かって伸びていく。ゆっくりと伸びるその柱が、雲を突き抜けなにかにあたった。
ピシリと、空が割れた。まるでガラスのように、破片が地面へと降り注ぐ。
柱は尚も加速し続けた。これがライオネルの目的だったというのか。
「じゃあな愚弟。一足先に行ってるぞ。なんとかしようと思うのなら、死なずにちゃんとついてこい」
「貴様あああああああああああああ!」
無理矢理こじ開けた。第六世界がどんな場所かはわからない。けれど危険な場所だったのなら、ファーランガルへの被害は免れないだろう。
自分勝手だ。いつでも、どんな時でも。
頭はいいくせに、どうしてそういうことが考えられないのか。
もう一度身体を強化し、ライオネルへと疾駆した。
が、俺の拳はある人物の手によって止められた。
「なんで、お前がいるんだ」
三嶽神ディオーラ。しかも同じ顔が二つ。同じ身体が二つ。
「言ってなかったか? ディオーラは俺が作ったホムンクルスだ。縁のところにやったのは最低個体レベルのヤツだったし、お前の目の前にいる二匹だって最低個体だ。でもお前一人ではそいつらを倒せない。腐っても三嶽神だからな」
ライオネルが一瞬にして消えていった。アイツの忌術はテレポートではないはず。ということはあれも契術ということになる。単純な魔術では魔法力の消費が激しすぎるからだ。
二対一。しかも相手の方が格上。だがこんなところで負けるわけにはいかない。膝を折ることだって許されないのだ。




