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2015年/短編まとめ

伸ばした手は

作者: 文崎 美生

サァ、と柔らかく頬を撫でる風。


平和だなぁ、なんてくだらない事を考えては閉じかける目を擦る。


いつもはきっちりしてあるブレザーのボタンを外し、脱いでから下敷きにして、大の字に横たわった。


傍らには屋上の鍵。


目の前には青空。


深く息を吸い込んで、全て吐き出す。


青が身体に取り込まれていくようで、清々しい気分になる。


青空に伸ばした自分の手に意味なんてない。


届かないものだと知っても尚伸ばすこの手を、何度醜いと思ったことだろうか。


首元を締め付けるネクタイに指を通し緩め、第一ボタンを外せば小さな溜息。


それ一つでこの青空が汚れてしまうのではないかと思うくらいに、小さな溜息にはその大きさに似合わない重みがあったのだ。


疲れ、倦怠感、気だるさ、不快感、諦め、絶望、妥協、虚無感。


負の感情を詰め込んだ一つの吐息。


それだけで私の心を蝕み汚す事なんて雑作もない。


あんなに綺麗で透き通った青の空。


それに焦がれ手を伸ばしても一向に届かない。


太陽の光が眩しかった。


強く強く目を瞑れば瞼の裏に光が透けて見えたのだ。


赤く染まる視界はきっと生きている証。


青空に伸ばした手を強く握る。


強く強く、爪が刺さっても力を込め続ける。


「このサボり魔」


頭上から降ってきた言葉と、落ちてきた影は来客を意味するもの。


聞き慣れたその声は私の気分を下落させる。


急降下もいいところだ。


目を開けた先には良く出来た幼馴染み。


私にとって青空であり、手の届かない人間。


私を見下ろす彼の目を見て微笑めば腕から力が抜けて、手を伸ばすことが出来なくなった。

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