(5)
「さあ、約束通り、ウィンに会わせてよね」
そんな私の言葉に、ククルはふて腐れたようにそっぽを向く。
「今のってちょっとずるくない? なんかいまいち、納得できないっていうかさ~」
「往生際が悪くってよ! サッサと約束を守りなさいなっ。大体、私をこんなところに連れてきて……あら? 何ですのこれは」
頭に乗せられたままの花冠に気が付いたキアヌが、怪訝な表情でそれをとる。
「まぁ、綺麗な花冠ですわね。けれど、なぜこんなものが?」
「あ、それはキアヌのために一生懸命ク……」
「あー!! 余計なこと言うなっ」
不思議そうに小首を傾げるキアヌへと説明しようとすると、真っ赤な顔でククルはまたも私の口を手で覆う。
(なにこれ。面白い……)
小生意気なククルが、思い切り狼狽えている。
これはあれだ。
キアヌが好きだから、普段は思い切り粋がっているけど、それを知られるのは、死ぬほど恥ずかしい。
素直になれないお年頃みたいな?
「なんだよ。気持ち悪い目で見るなよな」
何ていうか、理由が見えてくるとククルも憎めない。
可愛く見えてしまうから不思議だ。
「なんですの、一体?」
理由が飲み込めていないキアヌが怪訝な視線を向けて来る。
「ううん。何でもないよ。それより、話を戻すけどいい加減、ウィンに会わせてよ」
「知らないよ。僕、ウィンの居場所なんて知らないし」
「なっ」
「えぇ!?」
投げやりに放たれた言葉はあまりにも衝撃的なもの。
「あなたはこの空間の管理者なのでしょう!? 知らないはずがないでしょうっ」
「そうだけど、知らないんだから仕方ないだろ」
「仕方なくないわよ! 約束が違うじゃないかっ」
「だって……まさか、僕が負けるなんて思わなかったしさ」
バツが悪そうに明後日の方向を見ながら、ククルはそう言い放つ。
「……」
ブツブツと呪いの言葉が聞こえてきて、隣りを見れば、目が据わったキアヌが魔術を発動させている。
「キアヌ! お、落ち着いてっ」
「うふふ。落ち着いておりますわ。落ち着いて、このふざけた大嘘つき野郎を抹殺しようとしていますけれど」
「いや! それ落ちついてるって言わないよ!?」
「だ、だって仕方ないじゃないかぁ。うわーん!!」
「えぇ!?」
怒り狂うキアヌに大泣きするククル。
なんか修羅場だ。
私にどうしろっていうの?
「その子を許してあげてくれないか?」
途方に暮れていたその時、唐突に声が降ってくる。
「誰?」
「私は風を守護する者。風の中に存在する者……ウィン」
「ウィンですって!?」
「人と関わりたくないという私の気持ちを知っていたから、何とか君たちを遠ざけようとしたのだろう。……それ以外にも、思うことがあったようだけれど。その子の行いは私の咎でもある。すまなかった」
「ち、違う! 悪いのは僕だ。ウィンは何も悪くないだろ」
風に乗って聞こえてくる声にククルがそう反論する。
「……悪いのは嘘を吐いた僕なんだから」
その言葉に、キアヌはそっと息を吐き、作りかけていた魔力の塊をおさめる。
「もともと、私たちはウィンに会うのが目的。約束通り会えたのですから、嘘ではないでしょう」
「青髪のおねーさん……。ご、ごめんなさい」
瞳を潤ませながらククルがペコリと頭を下げる。
「別に。もういいですわよ」
一時はどうなることかと思ったけれど、何とか話がまとまってホッと胸をなで下ろす。
「ところで、ウィンはどこにいるの?」
さっきから声しか聞こえなくて姿が見えない。
こんなにもはっきりと声が聞こえるのに、姿がないってどういうことだろう?
「私は君たちの目の前に存在している。精神体だけだけれどね」
「精神体?」
「肉体を持つと色々と行動が制限されてしまうから、好きではないんだ……といっても、今はそうも言っていられないね」
唐突に突風が吹き抜け、その場に大きな竜巻が出来上がる。
気を抜くとその渦に巻き込まれてしまいそうだ。
思わず目を閉じて、風が収まったのを感じ、目を開けるとそこには男の人が立っていた。
「あなたがウィン?」
私の問いにほほ笑みを浮かべる。
「初めまして。稀有なる力を秘めた少女」
赤い炎で容どられたアシェラと似ている。
精霊に性別があるのかは謎だけど、華奢ながら男の人を容どられている。
緑に光るその姿は人とは違うけれど、やっぱり綺麗で、見惚れるくらいの美青年だ。
「ウィン!!」
ククルは一目散にウィンへと飛びつく。
「この姿で会うのは久しぶりだね」
ウィンは優しく愛おしそうにその頭を撫でる。
私よりもずっと長く生きているとは言っていたけれど、見た目通りククルはやっぱり子供なんだ。
そんな場合じゃないけど、微笑ましい光景に和む。
「君たちには大変な想いをさせて、すまなかったね」
「ううん。これも力を貰うための試練だと思えば、どうってことないわ」
実際はヨロヨロボロボロでかなり強がりではあるけれど、結果よければすべてよしだ。
「ありがとう。では、早速だけど、私からの試練を受けてもらうよ。それに合格すれば、風の魔力をあげる」
「えぇ!? また試練?」
サラリと言われた言葉に愕然とする。
よく考えればアシェラの時にもあったことだし、予想は出来たことだけど、今のこの状態で乗り越えられるのかすごく不安だ。
「頑張ってくださいまし」
「ファイトだよ。黒髪のおねーさん」
キアヌからはもちろん、なぜかククルからまで声援をもらってしまった。
「あはは。頑張るよ。ありがと。二人とも」
ここからは、私一人で何とかしなくちゃいけない。
出来ることなら、アシェラの時みたいな痛いことじゃないこと祈りつつ、ウィンへと向き直る。
「じゃあ、ユーミは私について来て」
ウィンはそう言うと、花畑の奥へと誘うのだった。




