(2)
「ごめんなさいね。ユーミ」
間逆センスのジュリアと攻防を繰り広げつつ、やっと服選びも終盤にさしかかっていた時だった。
「なにが?」
ジュリアに謝ってもらうようなことは何もない。
服選びを手伝ってもらって、何とか私とジュリアが納得する服を選ぶことが出来た。
空色の薄手のワンピースをキュッと太いベルトで絞めたもの。
スカートは膝上で胸元もけっこう開いているけど、それを白いロングのニットカーディガンを羽織ることで、体型を少しは隠してくれる。
足も細いしウェストのくびれもバッチリなのだからと、カーディガン反対のジュリアを何と宥めて、やっとこの格好に落ち着いた。
本当なら、空色のワンピースなんて可愛らしいセレクトは好きじゃない。
だけど、ジュリアの意見を取り入れて、ギリギリの妥協だった。
「このワンピースのことなら、私も段々気に入ってきたし、心配しなくても大丈夫だよ」
「ううん。その服は文句なしに可愛いから平気よ。そうではなくて、サガラのこと」
「あー、うん」
それは心配な方かも。
あいつとうまくやっていけるか、かなり問題だわ。
「あの子ったら18にもなって、子供っぽくてわがままなところがあるのよね。困ったものだわ」
そう言いながら、ジュリアはすごく優しい顔をしている。
「ジュリアはサガラの恋人なの?」
ずっと考えていたけれど、サガラとジュリアの関係が見えてこない。
長年一緒にいる恋人同士っていうのが、何だかしっくりくる気がする。
「やだ! それはまったくの誤解よ。サガラとは離れて暮らしているけれど、姉と弟っていう関係なのよ」
「えぇ!? だって全然似てないじゃない」
本当に似ていないのだ。
二人とも整った顔立ちをしているけれど、サガラは東洋系の顔立ちだけど、ジュリアはどう見ても西洋系だ。
根本的に違う。
「あ、もしかして、血は繋がってない……とか?」
「ううん。父も母も同じ。正真正銘血の繋がった姉弟よ」
なぜかそう言ったジュリアは、ほんの少しだけ悲しそうに見えた。
「ご、ごめん。無神経なこと聞いちゃって」
「よく驚かれるのよね。だから、けっこう慣れっこだから平気なの。気にしないで」
にっこり笑顔のジュリアだけど、このことはあまり触れられたくないのかもしれない。
「ふふ。それにしても、サガラから助けてほしいって連絡を受けた時は、どんな凶暴な異世界人かと思ったけれど……」
「凶暴?」
一体、サガラはどんな風に私を説明したのよ。
「あら、サガラから聞いていない?」
何のことか分からず、私はブンブンと首を横に振る。
「前に落ちてきた異世界人はすごかったのよ? 何でも人食い人種だったとか。捕獲者は、危うく食べられちゃうところだったの。時々、そういう異世界人が落ちてくるのよ。だから私はてっきり、そういう類の異世界人なんじゃないかって思ってたの」
なるほど。捕まった時の檻とか鎖とかは、そういうことだったんだ。
周りも妙におっかなびっくりだったし。
まさしく、取って喰われそうになったことがあるからだったのね。
かなり笑えない話だ。
ぼんやりそんなことを思っていると、ジュリアが私の手をギュッと握った。
「ユーミ。これから、サガラをよろしくね」
「あ、うん」
キラキラとした微笑を向けられ、私は思わず頷いてしまったのだった。