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訪問者(1)

 天空城に用意された自室に戻ると、そこには見知った顔があった。


「お帰り。ちょうど紅茶を淹れたところだ。一緒にどうだい?」


 テーブルにバッチリと用意されたお茶セット。

 淹れたての紅茶のいい匂いに包まれた室内に、当たり前のようにラフがいた。


(しかもすごく寛いでいるし)


 ついさっきまでの、生きるか死ぬかの緊迫感からかけ離れたその光景に思わず脱力する。


「おや。大分疲れているようだね」

「……ていうか、死にそうだったわ」

「それは大変だったね」


 椅子に座り思わず突っ伏す私を、言葉とは裏腹に面白いものを見るように眺めている。


「ていうか、ラフが何で私の部屋に?」

「もちろんユーミに一目だけでも逢いたくて。いてもたってもいられなくてね」


 ……そういう割には、優雅にお茶を飲んで寛いでるってどうなんだろ?


「君が精霊に会いに言ったと聞いてね。とても心配していたんだよ」


 私の胡乱な眼差しを受けて、大げさなほど肩を竦ませてみせる。

 下手な俳優より整った顔立ちで妙に優雅だから、そんな芝居がかった動作も品よく見えてしまうから恐ろしい。


「それは心配おかけしまして」

「とんでもない。無事でなによりだ」


 胡散臭くはあるけれど、心配は本当にしていてくれたみたいだ。

 それだけのことでも嬉しかったりする。

 この城にいる人たちは、話しかければ答えてくれるし、廊下で会えば会釈もしてくれる。

 けれど、関わりたくないというオーラが常にヒシヒシと出ているのだ。

 無視するわけじゃないけど完璧な拒絶。

 ここで普通に接してくれるのは、キアヌくらいなものだもの。


「それじゃあ、早速炎を見せてもらおうかな」

「へ?」

「大精霊アシェラの炎。君はそれを授かったんだろ? ぜひ見てみたい」


 ニコリとほほ笑み言い放つラフ。


「見たいって言われても。どうすればいいか分からないんだけど」


 今日はともかく疲れただろうから休息をとるように……って、珍しく優しいキアヌの言葉に甘えて、すぐにこの自分の部屋に来たんだもん。


「簡単だよ。手を翳しイメージすればいい。魔力を具現化させるのはイマジネーションだ」

「でも今はすごく疲れてるし~」

「問題ないよ。体の疲弊は魔力に影響ないから」


 ニコニコと笑顔で言われると何とも逆らいづらい。


(うっ。騙された。ラフは手に入れた力を見たくて待ってたんだ)


 そんなことを察したものの、こうも期待に満ちた目を向けられちゃったら、嫌だとも言えない。


「えっと、手を翳してイメージ……する?」


 先ほどラフがした仕草を真似して手を突き出して、炎を想像してみる。


 ポンッ。


「!」


 何とも間の抜けた音と共に、私の手のひらの上に消えかけのロウソクくらいの炎が出て来た。


「ふむ。本当に炎が出たね」

「出たけど小さくない?」


 手のひらに収まりきらないくらいに大きいものをイメージしたのに。

 これじゃあ、灯り代わりになるのかすら怪しい。


「初めはそんなものだよ。何かに活用するには、それなりに複雑な公式を組み立てる必要がある。本来この世界の住人も何かしらの精霊の加護を受けているけれど、その魔力を引き出し使いこなせるのはほんの一部なんだよ」

「みんなが魔術を使いこなせてるってわけじゃないんだ」

「そういうことだ。加護を持たない君が、精霊自らにその力を授けてもらった。それだけでもすごいことだ」

「あはは。本当に命がけだったけどね。キアヌが居てくれなかったら、どうなってたか……」


 キアヌがいなければ、最初の段階でマグマに落ちて溶けて終わってた。

 そうなっていたらと考えるとゾッとする。

 そんな最期、あまりにも間抜けすぎる。


「へぇ。キアヌとは仲良くやっているようだね」

「何とかね。相変わらず毒舌だけど、悪い子じゃないのよね。いざとなると心配してくれるし。ちょっとツンデレキャラなだけなんだよ」

「ツンデレ?」


 この世界にはない単語なのかもしれない。

 ラフが不思議そうに首を傾げる。


「まぁ、直訳するとテレ屋ってこと。それにしても、キアヌはどうして私の補佐なんて引き受けたんだろ? 今日の件で分かったけど、けっこう……ていうか、かなり命がけな仕事だよね? キアヌって確か、この世界の偉い人の孫娘なんでしょ?」


 そんな子なら、尚更こんな不確かで危険な仕事をしている意味が分からない。


「だからこそだよ」


 優雅な手つきで紅茶をカップに注ぎなぎながら、ラフは言葉を続ける。


「最初の国の代表者を見ただろ? あそこに女性の姿はない」

「そういえば……」


 目深にかぶられたフードで顔は分からなかったけれど、体系や動作でみんな男性だってことは分かった。


「女性であるキアヌがあそこに昇り詰めるのは並大抵の努力では無理だ」

「女性だからダメなの?」

「そう決まっているわけではないが、前例がないし、そもそも長であるキアヌの祖父がそれを認めていない。今回のことも、キアヌが半ば無理矢理に決めたことなんだよ」

「つまり、私がホープを使いこなせるようになれば、キアヌの実力も認めてもらえるってことなんだね」

「そういうことだ。代表者は各貴族の血縁者が占めている。キアヌの家系も然り。だけど、キアヌの一族には今、次世代に引き継ぐべき男子がいないんだよ。キアヌが男子であったならと、意味もない嘆きを零すものも多い。だからこそ、女であっても劣らないという今の自分の実力をしめしたいんだろう」


 そう言い終えると、紅茶が注がれたカップを私の前に置く。


「そんな理由があったなんて知らなかった。うわぁ。私、責任重大だね」


 キアヌから向けれる、“覚悟”とか“自覚”を持てっていう言葉は、それはきっとキアヌ自身が自分を戒めていることでもあるんだ。


(自分の人生かかってるんだもん。そりゃあ、厳しくもなるわよね)


 それを差し引いても私への態度は冷たすぎると思ったけれど、ほんの少しでもキアヌのことが分かった気がした。


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