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(2)


(うわぁ。全部食べた)


 いつ箸が止まるだろうとドキドキしていたら、驚くことにお弁当を綺麗に完食した。

 相当お腹が減ってたらしい。


「……これは、何と言うシェフが作ったんですの?」

「え?」


 キアヌの問いに、思わず間抜けな声が出てしまう。


「私、こんなおいしい料理を作れるシェフがいるだなんて知りませんでしたわ。あなた、知り合いですの?」

「あ、知り合いっていうか……私?」

「え?」


 今度は、キアヌが戸惑いの声を上げる。


「あはは。作ったのは私……なんだけど」

「なっ。冗談はよしてくださいましっ。どうして、あなたがこんなもの作るんですの?」

「此処に来るまでは、家事全般が私の仕事だったから。料理だけじゃなくて、掃除洗濯もやってたんだよ」


 仕事……って胸を張るには、ちょっと大げさな気がするけど、家事全般をするかわりに、サガラのとこに居させてもらってたわけだし、間違ってないわよね。


「……」

「ん? キアヌ?」


 沈黙したキアヌは何だか微妙な表情で私を凝視している。


「私、少しあなたを誤解していたようですわ。てっきり、サガラ様やラフ様にちやほやされて、今まで遊び暮らしていたのだとばかり思っていましたわ」

「はい? なんでそうなるのよ」

「……そう思いますわよ。サガラ様は、異世界人であるあなたを保護したのでしょう? 一人住まいにあなたを招き入れて。そのうえ、わざわざこんなところまで付き添いでいらっしゃって。ラフ様もあなたを見る目が、他の方々の時と違いますし」

「保護じゃなくて、市場で買われたのよ。家に置いてもらう代わりに家事全般をやるってことで。それから、二人きりじゃないわよ。ザットも一緒に暮らしてたし」


 ラフの見る目が違う……っていうのも異世界人に興味があるからってだけだろうし。


「そういうことでしたの」

「うん。そういうこと」


 キアヌの言葉を復唱して、私は大きく頷いてみせる。


「ですわよね~。サガラ様がこんなちんちくりんな子を相手にするなんてありえませんわよね。わたくしともあろうものが、早合点してしまいましたわ」

「ちんちくりんて……」

「あら? ごめんなさい。心の声が漏れてしまいましたわ」


 謝るところはそこ? ていうか、ちんちくりんって言葉二度目なんですけどっ。


「別にいいけどさ。元気になってよかった、よかった」

「ヘラヘラしないでくださいまし。あなたに心配される筋合いなんてなくってよ」


 相変わらず可愛くない態度に、思わず笑顔を引き攣る。

 ちょっと元気になったと思ったらこれだもん。

 あぁ。本当に前途多難だわ。


「……でも助かりましたわ」

「へ?」


 キアヌの呟きに思わず目を丸くしていると、空になった弁当箱を押し付けられる。


「長い休憩になってしまいましたわね。続きを始めますわよ」


 立ち上がったキアヌはその場を後にする。


(今、ちょっとだけ笑顔だった?)


 天使顔負けの可愛い笑顔を見た気がする。


「何をボーっとしていますの!?」

「あ、うん! 今いく」


 前途多難ではあるけれど、希望がないわけじゃない。

 きっと何とかなる。


「よし! がんばろう」


 改めて気合を入れ直し、キアヌの下へと向かったのだった。


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