2章 異世界ライフスタート!(1)
私の異世界生活決定直後、絶世の美女がやってきた。
ウェーブがかった長めの明るい金髪。
肌は透けるように白く、大きな瞳はくっきり二重で赤みがかかった茶色。
スッと通った鼻筋、綺麗に整えられた眉。
ともかくすべてが完璧で、まるでハリウッド女優が雑誌から飛び出してきたかのような感じ。
女の私ですら見惚れてしまう超絶美人さんだ。
「ふふ。始めまして。私はジュリアっていうの」
「は、始めまして。ユーミです」
声まで綺麗だし。
でも、彼女に目がいく理由はそれだけじゃなかったりする。
スレンダーなのに胸が大きい。
スタイルがいいって話なんだけど、その服装がすごい。
簡単に言ってしまえば、赤のニットワンピースなのだけど、胸元がガッツリと開いていて、胸が見えるか見えないかっていうギリギリ。
下はこれも恐ろしいくらいの短い丈で、太ももまで惜しげなく半分以上見せている。
それでも厭らしい感じはないし、完璧なプロポーションだから、まったく違和感がない。
(ちょっと落ち込む)
よれたパジャマ姿で小汚い私と彼女が並んで一緒にいるなんて、あまりにも滑稽すぎるよ。
そんなことを思って、密かに暗くなっている私を、ジュリアはジーッと見ている。
「あ、あの……」
あまり見られたくない。
ていうか、むしろここから逃げだしたいほど、居たたまれない。
「なんて可愛らしいのかしら」
と、ため息と共に漏れたジュリアの言葉に耳を疑う。
「え? あの??」
「すごく可愛い! サガラ、こんな可愛い子だなんて一言も言ってなかったじゃない!」
我関せずって感じで、剣の手入れをしていたサガラは、ジュリアの言葉に、面倒臭そうに顔を上げる。
「相変わらず、ジュリアの趣味はよくわかんねー。ま、ともかく適当に頼むわ」
「頼むってなに? 何の話?」
私にはまったく説明がないんだけど、どういうことよ。
「サガラに、あなたの洋服を持ってきてほしいって頼まれたの」
そう言われれば、ジュリアは大きなトランクを持っている。
「あ、でも、私お金とか持ってない」
なにせ体一つで飛ばされてきたから、本当に何も持っていないし、そもそもコチラの世界のお金なんてなお更ない。
「お金なんていらないわよ。だってサガラの大切な子だもの。そんなこと気にしないで」
「ジュリア……」
ジュリアは本当の天使かもしれないと思う。
なんていい人なんだろう。
「ただの特売品なんだけどな」
と、入れなくてもいいツッコミを入れるサガラ。
(なんて余計な一言をっ。けっこう気にしてるのに!)
私が軽く睨むと、サガラはフッと鼻で笑う。
「ふふ。サガラってば、こんな可愛い子を見つけだすなんて。さすがだわ」
嫌味……じゃないのよね?
こんな絶世の美女に言われても、何だか素直に喜べない。
というか空しい。
「本当はもっと使えそうなのがよかったんだけどな。こんなのしかいなかったんだよな」
こちらは明らかに嫌味だ。
私を見てワザとらしく肩を竦めて、ため息を付くサガラ。
「こんなので悪かったわね。あなたデリカシーなさすぎ!」
「デリカシーねぇ。そういうのは、人を選んで使うもんだろ?」
そんなことを言いながらまたも鼻で笑う。
「それってどういう意味なわけ?」
「そのままの意味じゃん」
む、むかつく。
なにこいつ。
ちょっとイケメンだからって、性格悪すぎるわ。
「まぁ。二人はもう仲良しさんなのね」
ジュリアがニッコリと天使の笑みでそんなことを言う。
「「どこが」」
うっかりサガラとハモッてしまった。
「うふふ。以心伝心ね」
いやいや、だから違うし。サガラも苦い顔をしている。
ジュリアは、相当な妄想癖があるらしい。
「そ、それで、服ってどんな感じ? 見せてもらってもいい?」
なんだかこのまま話をしていても不毛な気がするから、サクサクッと話を進めてしまおう。
「もちろん! 可愛いのをたくさん持ってきたから着てみてね」
ウキウキとした感じでトランクを開ける。
中には、派手派手……いやいや、カラフルな服がいっぱいだった。
「この赤い服とかお勧めなの。あら? 私とおそろいみたいね。ふふ。それでも嬉しいけど」
うん。可愛い。確かに可愛い服だ。
けど、それが実際私に似合うかは別な話だ。
そんなキラキラワクワクした瞳で見つめられても、私にこんな可愛すぎる服を着る勇気はない!
「さぁ! その服を抜いてどんどん合わせてみましょうね♪」
「あはは。お、お手柔らかに」
しぶしぶパジャマのボタンに手をかけようとした時、ハタッと重要なことに気が付く。
「て! サガラもいるしココで着替えるとか無理。どこか別室に……」
「バーカ。お前の貧相な体見たってどうってことねぇつーの」
その言葉に、私は服と一緒においてあった靴をサガラに投げつける。
「痛っ! てめー、何しやがるっ」
「サガラ、女の子はデリケートなのよ? 少し席を外してくれるかしら」
涙目の私の頭をヨシヨシとなでながら、笑顔ながら有無を言わさない声音でサガラに言い放つ。
「へいへい。サッサッとしろよ」
ため息一つついて、サガラはその部屋を出て行く。
やっぱりあいつは最低だ。
これからココであいつと一緒にいなきゃなんて、うまくやる自信がないわ……。