(8)
「ちょっ、ちょっと、ストップ。キアヌー」
「……」
長い回廊を首根っこ掴まれ引きずられて数メートル。
人の気配がなくなったところで、ようやく解放される。
可愛い見た目に似合わず、恐ろしい怪力ぶりだ。
なんて思いながら、キアヌを見れば、冷淡な眼差しを返される。
「えっとね、これからよろしく」
あー、嫌われているなぁ。って、その視線だけでよーく分かる。
けど、そこまで負の感情全開だといっそ清々しい。
負けるもんかと、笑顔で握手を求める。
「わたくし、あなたにホープの力があるなんて、信じておりませんわ」
可愛い子が凄むと迫力がある。うん。なんかすごい迫力だ。
「私も半信半疑。ていうか、未だに実感はないことなんだけどさ」
「何ですの。それ? 自信がないのなら、このままお帰りいただいてもけっこうですわよ?」
思わず出てしまった本音を、キアヌにバッサリと切り返される。
「帰らないわよ。私だって覚悟して此処まで来たんだから」
「覚悟……ねぇ」
「うっ。なに?」
「あなた、異世界からいらした方だそうですわね?」
「うん。そうだけど」
「異世界の住人であるあなたが、どうしてこちらの世界の力を見につけようなどと思われますの? そんな覚悟をしてまで」
「……ホープの力で助けたい人がいるんだ」
時夜。
私と同じ世界から飛ばされてきた男の子。
異世界で出会うなんて、奇跡みたいな偶然。
私にとっては友達で弟みたいな存在で。
だけど、時夜は傀儡になってしまっている。
傀儡になってしまったら、本来の自分ではなくなってしまうと言う。
簡単に人を傷つける存在になって、そしていつか、サガラが殺す対象になるかもしれない。
そんなのを、ただ黙って見過ごすことなんて出来ない。
「だから、私はホープの力を身につけたいの。その力を手に入れられる可能性があるのなら、死ぬ気でがんばるわ! もう弱音は吐かない」
「そうですか。いい心がけですわ」
可愛らしい笑顔を浮かべ、今度はキアヌから手を差し出してきた。
「その覚悟、拝見させていただきますわ。……あなたにやり切れるとは微塵も思いませんけれど」
友好的に握手をしながら、キアヌは笑顔のまま低く囁くように言葉を放つ。
背筋にゾッと冷たいものが走り、思わずたじろいてしまう。
(くっ。ま、負けるもんか!)
すでに前途多難。悪い予感がしまくりだけど、ここで逃げ出すわけにはいかない。
キアヌの手を更に強く握り返し、私は決意を新たにするのだった。




