(7)
「君にしてはえらく物分りがよかったね」
ユーミが去った後、ラフはからかう様にサガラに言葉を向ける。
「どうせこんなこったろうと思ったさ。俺の存在を忌み嫌っているここの奴らが、俺を野放しにするわけねーだろ」
「ひとくくりにされるのは心外だけど、君を疎ましく思う輩が多いのは事実だね」
「ひどいです」
ザットは悔しそうに唇を噛みしめる。
サガラを忌み嫌いながらも、傀儡を駆逐するためにその能力を利用している。
そのことで、サガラは更なる苦しみを受けているというのに。
「俺は今更そんなの気にしてねーよ。だけど、あいつは違うだろ」
異世界人であり傀儡とは無関係のユーミ。
それでも、黒髪に黒い瞳という“色なし”と呼ばれる容姿はいい印象をもたれないだろう。
特に上層階級の者しか住んでいないこの場所では。
「本当に行かせてよかったのかしら?」
「仕方ねーだろ。あいつ、言いだしたら聞かねーし」
猪突猛進。
よくも悪くも一度決めたら止まらない。
見てるこっちの心配なんておかまいなしだ。
呆れながらも放ってはおけない。
まったく性質が悪い。
サガラは心の中で毒づく。
「なんにせよ、あとはユーミ次第ということだよ。君たちには、町での行動許可は出ているから、自由にしていてくれていいよ」
「まぁ! それなら、私はユーミの服を買いに行ってくるわ。あの子ったら、数着しか持ってきていないんだもの。ここなら種類も豊富だろうし、可愛い服を揃えてあげなくちゃ」
「……ザット。一緒に行って、ジュリアの暴走を止めろ」
ウキウキとした足取りのジュリアに一抹の不安を覚え、サガラは即座に言い放つ。
ここに来る前に、ユーミ用と称してジュリアは尋常じゃない量の服を持って現れた。
しかもユーミが好んで着そうもない乙女らしさ全開の。
半ば脅すようにして置いてこさせたというのに、ここでまたそんなものを買い揃えられたらたまったものではない。
「あはは。了解です。じゃあ、行ってきますね」
サガラの想いを察したのか、ザットは笑いながら頷く。
律儀にお辞儀をして、ジュリアの後を追って、部屋を出て行った。
「……ラフ」
「何だい?」
いつになく真剣なトーンで名を呼ばれ、ラフはサガラへと向き直る。
「ユーミのこと頼む」
「あぁ。分かっているよ」
向けられた視線で、その意図を読み取る。
ここではサガラは、自由にユーミに接触は出来ない。
何かあった時、頼れるのはラフしかいない。
いくら護りが固い天空城であっても、傀儡の脅威がゼロというわけではないのだ。
ラフの魔術の腕には、サガラも信頼を寄せている。
ただし、全幅の……というには、些か性格に問題があるのだが。
「……手は出すなよ」
「……」
続いての言葉には無言で爽やかな笑みだけを返すラフ。
「ちょっと待て! 何だよ、その返しはっ」
「私は守れるか分からない約束はしない主義だから。じゃあ、また後で」
爽やかな笑みを絶やさず、ユーミがいる中枢部へと続く扉をくぐる。
「なっ。おい!」
茫然としていたサガラは、慌てて追いかけようとしたものの後の祭り。
「ここはお通しできません」
あえなく護衛に阻まれるサガラ。
「てめーはどうせそういう奴だよ!」
サガラの叫び声が空しくその場に木魂したのだった。