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「君にしてはえらく物分りがよかったね」


 ユーミが去った後、ラフはからかう様にサガラに言葉を向ける。


「どうせこんなこったろうと思ったさ。俺の存在を忌み嫌っているここの奴らが、俺を野放しにするわけねーだろ」

「ひとくくりにされるのは心外だけど、君を疎ましく思う輩が多いのは事実だね」

「ひどいです」


 ザットは悔しそうに唇を噛みしめる。

 サガラを忌み嫌いながらも、傀儡かいらいを駆逐するためにその能力を利用している。

 そのことで、サガラは更なる苦しみを受けているというのに。


「俺は今更そんなの気にしてねーよ。だけど、あいつは違うだろ」


 異世界人であり傀儡かいらいとは無関係のユーミ。

 それでも、黒髪に黒い瞳という“色なし”と呼ばれる容姿はいい印象をもたれないだろう。

 特に上層階級の者しか住んでいないこの場所では。


「本当に行かせてよかったのかしら?」

「仕方ねーだろ。あいつ、言いだしたら聞かねーし」


 猪突猛進。

 よくも悪くも一度決めたら止まらない。

 見てるこっちの心配なんておかまいなしだ。

 呆れながらも放ってはおけない。

 まったく性質が悪い。

 サガラは心の中で毒づく。


「なんにせよ、あとはユーミ次第ということだよ。君たちには、町での行動許可は出ているから、自由にしていてくれていいよ」

「まぁ! それなら、私はユーミの服を買いに行ってくるわ。あの子ったら、数着しか持ってきていないんだもの。ここなら種類も豊富だろうし、可愛い服を揃えてあげなくちゃ」

「……ザット。一緒に行って、ジュリアの暴走を止めろ」


 ウキウキとした足取りのジュリアに一抹の不安を覚え、サガラは即座に言い放つ。

 ここに来る前に、ユーミ用と称してジュリアは尋常じゃない量の服を持って現れた。

 しかもユーミが好んで着そうもない乙女らしさ全開の。

 半ば脅すようにして置いてこさせたというのに、ここでまたそんなものを買い揃えられたらたまったものではない。


「あはは。了解です。じゃあ、行ってきますね」


 サガラの想いを察したのか、ザットは笑いながら頷く。

 律儀にお辞儀をして、ジュリアの後を追って、部屋を出て行った。


「……ラフ」

「何だい?」


 いつになく真剣なトーンで名を呼ばれ、ラフはサガラへと向き直る。


「ユーミのこと頼む」

「あぁ。分かっているよ」


 向けられた視線で、その意図を読み取る。

 ここではサガラは、自由にユーミに接触は出来ない。

 何かあった時、頼れるのはラフしかいない。

 いくら護りが固い天空城であっても、傀儡かいらいの脅威がゼロというわけではないのだ。

 ラフの魔術の腕には、サガラも信頼を寄せている。

 ただし、全幅の……というには、些か性格に問題があるのだが。


「……手は出すなよ」

「……」


 続いての言葉には無言で爽やかな笑みだけを返すラフ。


「ちょっと待て! 何だよ、その返しはっ」

「私は守れるか分からない約束はしない主義だから。じゃあ、また後で」


 爽やかな笑みを絶やさず、ユーミがいる中枢部へと続く扉をくぐる。


「なっ。おい!」


 茫然としていたサガラは、慌てて追いかけようとしたものの後の祭り。


「ここはお通しできません」


 あえなく護衛に阻まれるサガラ。


「てめーはどうせそういう奴だよ!」


 サガラの叫び声が空しくその場に木魂したのだった。


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