(4)
「ラフ様」
乗り物を降りた丁度その時、私たちの目の前に、一人の少女が現れる。
歳は私と同じくらいだろうか?
結い上げた青い髪に、同じように青い瞳。
目はパッチリとしていてくっきり二重。
長い睫とふっくらとした唇。
服装は黒を基調にしたワンピース。
フリルがふんだんに使われ、胸元には大きなリボン。
ふわりと裾の広がったフレアのスカート。
まるでフランス人形みたいに可愛い。
(ジュリアが女神なら、この子は天使みたいな?)
女の私でも、思わずキュンっとしてしまう愛らしさだ。
「やぁ、キアヌ。迎えは君だったんだね」
「はい。早くお会いしたくて」
両手を胸元で握り締め、とろけそうな笑顔を向けて来る。
と、視線がこちらへと向けられる。
「まぁ。こちらの方が、[ホープ]をお持ちだというお方ですのね?」
「えっと……」
「想像通りの方ですわ」
「えへへ。そんな……」
「わたくし、あなたのサポートを仰せつかりましたキアヌと申します。これから、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ……あれ?」
言いかけた私の言葉をまったく無視して、キアヌという少女は、私の隣りにいたジュリアへと手を差し出す。
(私の立場が……)
確かにジュリアの方がそれっぽいんだけど、あぁ、この中途半端に出しかけた手はどうすればいいのかしら?
「……」
軽くヘコむ私に追い打ちをかけるように、サガラが後ろで笑いを堪えている姿が目に入る。
隣りにいたら間違いなく蹴り倒していたわ。
「あー、コホン。キアヌ。ユーミはこっちだよ」
「え? ……えぇ!?」
たっぷり数秒の間を開けて、私を上から下まで見て、キアヌはあからさまに驚いたように声を発する。
「うそ! こんなちんちくりんのオマケみたいな……ではなくて、平凡を絵にかいたような特徴のない方が?」
言い直したけど、どちらもひどい言いようだよ!
悪意すら感じてしまうのは、私が卑屈になっているせいだろうか?
「はじめまして。ユーミです」
「失礼しました。キアヌですわ」
精いっぱいの笑顔(思い切り口元がひきつったけれど)で、未だ戸惑いの表情を浮かべたキアヌと何とか握手を交わす。
けれど視界の端には、まだ爆笑しているサガラの姿。
「サガラ! いつまで笑ってるわけ!?」
顔をそむけているけれど、サガラの肩はさっきから震えている。
「ま、あれだ。現実ってこんなもんだろ。泣くなよ」
近づいてきたサガラが、嫌な笑みを向けて来る。
こいつは絶対面白がっているんだ。
早くも一緒に来たことを後悔してきた。
「泣いてないわよっ」
むしろ笑い過ぎて、目に涙がたまっているのはサガラの方だ。
「帰りたくなったらいつでも言えよ」
睨む私の頭を、上機嫌でポンポンッとからかう様に叩く。
「誰が……」
「あなたはサガラ様ですわよね!?」
言いかけた私の声は、甲高いキアヌの声にかき消される。
「は? だったら何だ?」
唐突に言葉を振られたサガラは、不信感を露わに身構える。
「わたくし、サガラ様にずっとお会いしたかったのですわ! あぁ。噂通りの……いえ、それ以上に素敵ですわ」
私を押しのけ、抱きつかんばかりの勢いで、サガラへと接近している。
「なっ」
「わたくし、キアヌと申します。ここで出会えたことに運命を感じてしまいますわ」
キラキラとした瞳でサガラへと迫るキアヌ。
(何だろ? なんか嫌な感じ)
失礼な態度を取られたさっきより、今の方が何だかムカムカする。
焦った様子のサガラと目が合うけど、ツンッと思い切り顔をそむける。
「何だかすごい方ですね」
「そういえば、彼女はサガラのファンだった」
「えぇ!? サガラのファン?」
衝撃的な言葉だ。
「あれ? ユーミは知らないのかい? ああ見えて、サガラはけっこうモテるんだよ。彼も、後腐れない範囲で色々と手を出して……」
「ラフ! それは昔の話ですっ。ユーミが来てからは、そんなこと全然ないですから。ユーミ、誤解しないでください」
「そうよ! サガラはユーミ一筋なんだから」
ザットとジュリアが口ぐちに言い募る。
「……別に関係ないわよ。私はただの居候なんだし」
サガラを見ると、未だにキアヌに詰め寄られている。
嫌なら嫌で逃げちゃえばいいのに、そんな素振りもなく、ちゃんと相手をしているし。
よく見れば嬉しそうにも見えてくる。
(私には関係ないわよ)
心の中で呟いたその言葉は、まるで自分自身への言い訳のようで、尚更苛々とした。