壊れたココロ(1)
逃げる。
逃げる。
逃げる。
ここがどこで、どうして自分がこんな目に合うのか、何度考えても分からなかった。
「何でだよっ。くそっ」
道なき道を転がるように走りながら、吐き気と眩暈に息が詰まる。
それがもう丸二日何も口にしていない所為なのか、四面楚歌の状態に精神が病んでいる所為なのか分からない。
「何で……」
人の気配がなくなり、やっと草むらから這い出し青空を見上げる。
いつもと変わらない日だった。
学校に行って授業を受けて、放課後はバンド仲間と練習に明け暮れて。
いつかメジャーになる。
毎日に不満はたくさんあって、それでも夢があり希望があった。
それが一変したのはほんの数日前。
帰路へ着く途中、いつも通りの帰り道。
目が眩むような光に包まれ、唐突の浮遊感。
足元に地面がなくなっていた。
いや、足元に唐突に“穴”が開いていた。
不信に思うその前に、体は重力に従い落下していた。
そして気が付けば、そこは知らない世界。
人はいる。
けれど言葉が通じない。
通りがかりの男を捕まえて、何とか身振り手振りで現状を説明したところで、相手の態度は急変した。
閉じ込められ、抗議すると殴る蹴るの暴行を受け、拘束された。
そして抵抗を諦めた頃、別の人物へと引き合わせられた。
去る男の手には、小さな皮袋が握られていた。
そこでやっと理解する。
自分は“売られた”のだと。
恐怖と絶望が胸にのしかかり、足元がグラグラと揺れ、目の前が真っ暗になった。
(これは夢だ。こんなの認めないっ)
恐怖はやがて怒りに変わる。
怒りは生きる活力になる。
隙を見て死にもの狂いで逃げた。
逃げ続けて、ここまで来たが、体力も気力も付きかけている。
「死にたくない……」
涙が滲む体が震える。ただ無性に寒くて寂しい。
なぜ、自分がこんな目に合うのか。
いくら考えても答えは出ず、怒りや悲しみが覆いかぶさるばかりだ。
やがて混沌とした感情は、この世界への憎しみで埋め尽くされる。
(コンナ世界 無クナレバ イイ)
雲一つない快晴の空を瞳に映しながら、心が壊れる音を聞いた気がした。