(5)
(大丈夫かな?)
一人取り残され静まり返ったその場で息を吐く。
まだ心臓がドキドキと大きな音を立てている。
「あの人、きっと時夜と一緒にいた人だ。確か、カルって呼ばれてて……」
ということは、やっぱり時夜が関係してるんだろうか?
そんなことをツラツラと考えていたから、それが目の前に現れるまで、まったく気が付かなかった。
<逃げろっ>
「!?」
キィンと耳に響く声と共に肩に痛みが走る。
「っ!」
「フーッ」
肩に触れると、服が切れていて、少し血が滲んでいる。
目の前には、血走った目と牙をむき出しにした男の人。
唸り声を上げ、ぎらついた瞳で私を捉えている。
(この人も傀儡!?)
ジリジリと間合いを詰められて嫌な汗がにじむ。
ガサガサ。
「嘘……」
その後ろからも、ゾロゾロと狂気を感じさせる目をした人たちが現れる。
(カルは逃げたんじゃない。ラフを私から引き離したんだ)
戦う力のない私が一人になれば、簡単に殺すことだって出来る。
そんな最悪な結論に達して、ますます血の気が引く。
「殺ス……殺ス……」
うめくように言葉を放ちながら、徐々に追い詰められていく。
まるで性質の悪いホラー映画だ。
「死ねるわけないじゃんっ」
踵を返し反対方向へ全速力猛ダッシュ。
恥も何もない。
死に物狂いで走る。
恐怖で足がうまく動かない。
何度も倒れそうになりながら、ひたすら前に前に傀儡たちから遠ざかるために足を動かす。
「きゃっ!」
足がもつれて派手に転んだ。
地面に打ち付けた膝や腕が痛みを訴えるけれど、そんなの構ってられない。
滲む涙を無視して、歯を食いしばり立ち上がる。
「見ツケタ、殺ス……」
「!?」
あっという間に追いつかれて、取り囲まれる。
逃げなくちゃと思うのに体が動かない。
怖くて震えが止まらない。
「サガラ……」
最後かもしれない時に、どうしてか顔が浮かんできてしまった。
会いたいと思ってしまう。