表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/77

7章 決断(1)


「行くことねーからな。つか、行かせねーから」


 家に辿りつき、ずっとムスッと黙り込んでいたサガラが、おもむろに断固とした口調でそう言い放つ。

 ラフが言っていた[ホープ]という力。

 それを使いこなすためには、この家を離れ修業に行かなければいけないのだという。


『決心がついたらいつでもおいで』


 一通りの説明を終えると、ラフはすんなり私たちを解放してくれた。


「……」

「何で黙るんだよ。あんな戯言真に受けるんじゃねーよ」


 私が[ホープ]の修業に行く決断をした際は、ラフがサガラから私を買い取るともいっていた。

 しかも、サガラの言い値で構わないからと。


「サガラは、私にここにいてほしいの?」


 嬉しさ半分。驚き半分だ。

 ラフの申し出は、サガラにとって悪い話じゃないはずだ。

 それなのに、サガラは私を引き留めてくれる。

 それは、サガラにとって私は必要な存在なんじゃないかって、ちょっと自惚れてしまう。


「なっ。俺はただ、あの悪徳魔術師にお前が騙されたら、寝覚めが悪ぃって思っただけだっ。お前がいねーと、クッキーも食えなくなるし……」

「クッキー……」


 って! 引き留められる理由がお菓子ってどうなの!?

 サガラへ胡乱な眼差しを向ける。


「いや、クッキーだけじゃねーよ。俺は……」

「僕は嫌です! ユーミがいなくなるなんて絶対に嫌ですから」


 歯切れ悪く言葉を転がすサガラの横から、ザットが涙目で、私の前へと飛び出してくる。

 ザットがこんな風に断言するのは珍しい。

 それだけ、私のことを思ってくれているのだと思うと、何だか嬉しくて胸が熱くなる。


「ありがとう。ザット」

「ふん。この話はもう終わりだ。腹減った。飯にしようぜ」


 ザットの小さな頭を指で撫でていると、サガラが面白くなさそうに鼻を鳴らして言い放つ。


「そっか。お腹減ったよね。あ、洗濯物も取り込まなきゃ! ちょっと待ってて」


 日が暮れかけてすでに夕闇が迫っている。

 外に干しっぱなしの洗濯物を思い出して、慌てて外へと飛び出す。

 扉を閉めて、二人の姿が見えなくなると、小さく息を吐き出す。


(困ったな。ちょっと泣きそうかも)


 サガラやザットがいるこの家は、どうしようもなく居心地が良くて仕方がない。

 ここを離れるということは、暫くの間は二人とも会えなくなるっていうことだ。

 そんなこと、私に耐えられるだろうか?


「だけど、私は時夜を助けたいんだ」


 それが不可能に近いことであっても、つらくて大変なことであっても、一縷の希望にしがみつきたい。

 今ここで、自分に出来るかもしれないことを放棄したら一生後悔する。

 そう。私の決心はもうすでに決まっていたんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ