7章 決断(1)
「行くことねーからな。つか、行かせねーから」
家に辿りつき、ずっとムスッと黙り込んでいたサガラが、おもむろに断固とした口調でそう言い放つ。
ラフが言っていた[ホープ]という力。
それを使いこなすためには、この家を離れ修業に行かなければいけないのだという。
『決心がついたらいつでもおいで』
一通りの説明を終えると、ラフはすんなり私たちを解放してくれた。
「……」
「何で黙るんだよ。あんな戯言真に受けるんじゃねーよ」
私が[ホープ]の修業に行く決断をした際は、ラフがサガラから私を買い取るともいっていた。
しかも、サガラの言い値で構わないからと。
「サガラは、私にここにいてほしいの?」
嬉しさ半分。驚き半分だ。
ラフの申し出は、サガラにとって悪い話じゃないはずだ。
それなのに、サガラは私を引き留めてくれる。
それは、サガラにとって私は必要な存在なんじゃないかって、ちょっと自惚れてしまう。
「なっ。俺はただ、あの悪徳魔術師にお前が騙されたら、寝覚めが悪ぃって思っただけだっ。お前がいねーと、クッキーも食えなくなるし……」
「クッキー……」
って! 引き留められる理由がお菓子ってどうなの!?
サガラへ胡乱な眼差しを向ける。
「いや、クッキーだけじゃねーよ。俺は……」
「僕は嫌です! ユーミがいなくなるなんて絶対に嫌ですから」
歯切れ悪く言葉を転がすサガラの横から、ザットが涙目で、私の前へと飛び出してくる。
ザットがこんな風に断言するのは珍しい。
それだけ、私のことを思ってくれているのだと思うと、何だか嬉しくて胸が熱くなる。
「ありがとう。ザット」
「ふん。この話はもう終わりだ。腹減った。飯にしようぜ」
ザットの小さな頭を指で撫でていると、サガラが面白くなさそうに鼻を鳴らして言い放つ。
「そっか。お腹減ったよね。あ、洗濯物も取り込まなきゃ! ちょっと待ってて」
日が暮れかけてすでに夕闇が迫っている。
外に干しっぱなしの洗濯物を思い出して、慌てて外へと飛び出す。
扉を閉めて、二人の姿が見えなくなると、小さく息を吐き出す。
(困ったな。ちょっと泣きそうかも)
サガラやザットがいるこの家は、どうしようもなく居心地が良くて仕方がない。
ここを離れるということは、暫くの間は二人とも会えなくなるっていうことだ。
そんなこと、私に耐えられるだろうか?
「だけど、私は時夜を助けたいんだ」
それが不可能に近いことであっても、つらくて大変なことであっても、一縷の希望にしがみつきたい。
今ここで、自分に出来るかもしれないことを放棄したら一生後悔する。
そう。私の決心はもうすでに決まっていたんだ。