(7)
「何か知ってるの!?」
何の進展もない、傀儡である時夜を元に戻す方法。
ラフはそれを知っていて、私を此処に連れてきたってことだろうか?
「私は天才魔術師と呼ばれているんだ。知らないことはないよ」
テーブルに置かれた紅茶に優雅に口をつけそう答える。
「何が天才魔術師だ。詐欺師の間違い……」
「うわっ」
言いかけたサガラの横を、淡い光の玉が掠めていく。
それは、ラフの人差し指から放たれたものだった。
「すごい……」
「ラフは魔術師の中でも群を抜いた存在なんです。血筋もよく【上の方】と呼ばれる、特級階級なんですけど、少々意地の悪い……いえ、きまぐれな方で。サガラはよく、面倒ことに巻き込まれているんですよね」
確かに変わった人だと思うけど、悪い人には見えないし、それに何より、縋れるものは藁でも縋りたいというのが本音だ。
「あの、何でもいいから知っていることを教えて! お願いします」
「あぁ。構わないよ。私もそのつもりだったし」
頭を下げた私に、あっさりとしたラフの答えが返ってくる。
「ありがとう!」
「ただし、交換条件がある」
少しだけ意地悪な笑みを浮かべて私を見る。
「私に出来ることなら、何でもするわ」
炊事洗濯系なら何とかなるんだけど、そうそううまくはいかないだろうなぁと。
緊張した面持ちでラフの回答を待つ。
「……」
「……」
サガラもザットも、何も口を挟まず静観している。
二人は、私の気持ちを分かりすぎるくらいに分かっていてくれているし、特にサガラは憮然とした表情をしているけれど、黙ってくれている。
「けっこう。それじゃあ……」
「うん」
部屋の中に緊張した空気が流れているけれど、ラフは言葉を区切りまたものんびりと紅茶に口をつける。
カチャリと、ソーサーとカップがぶつかる音が響き、ラフはゆっくりと私へと視線を戻す。
「ユーミはサガラを捨てて、私の元に来る……なんてどうだろ?」
それはもう清々しいほどの爽やかな笑みと共に、ラフからそんな言葉が飛び出してくる。
「な、なにそ……」
「馬鹿馬鹿しいっ。帰るぞ」
「へ? サガラ、ちょっと待ってよっ」
唐突にサガラは、私の腕を掴んだまま出口へと歩き出す。
「誰があんな奴にやるかよ」
「……」
ボソッと呟いたサガラの言葉が耳に届く。
なぜかその言葉がくすぐったい。
私を掴むその手が嬉しいのはなぜだろう?
「まぁ、そう慌てることもないだろう」
「!」
あと数歩で出口というその時、ラフの言葉と共に扉が勝手に閉じてしまった。
たった一つの出口が閉ざされる。
「何のつもりだ、てめぇ」
「冗談だよ。そんな必死にならなくても、盗らないから安心したまえ」
殺気立ち噛みつくように言い放つサガラに、まったく動じず楽しそうですらある。
「ラフ。“傀儡を戻す方法”っていう話も冗談なの?」
「いや。それはきちんと実のある話しだよ」
「それなら話してくれない? 私はサガラのところを離れるつもりはないけれど、それ以外のことなら、どんな交換条件でも呑むわよ」
そう言い放つ私に、探るような目を向ける。
ふざけているようで、この人の目はどこか真剣みを帯びている気がするのだ。
真意がどこにあるか分からないけれど、少なくとも遊びでただ私を連れてきたわけではないように思う。
だから、向けられた目を真正面から受け止める。
「へぇ。驚いたな。見た目が変わっているだけの普通の子だと思ったけど、なかな胆が据わってるんだね。うん。気に入った。じゃあ、ゲームの続きをしようか」
「はぁ!? 何がゲームだっ。いいから、サッサとここから出しやがれ」
「待って。いいよ。ゲームをすることに何か意味があるんでしょ?」
胡乱な目をするサガラを制し、ラフへと言葉を向ける。
「ご名答。あと一勝。それが出来ればすべてを話そう」
「了解。勝負しよう。サガラ、もうちょっと待ってて」
改めて席に着く。
向かい側にはラフがいて、不敵な笑みを浮かべている。
「どういうことなのでしょう?」
「知るかよ」
心配そうなザットと苛立つサガラをしり目に、私は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「では、始めよう」
ゲームは至って単純。
お題を決められ、中央に置かれたカードから、それぞれ五枚カードを引き抜く。
その五枚をお題の絵柄に早く揃えられた方が勝ち。
頭脳戦というよりは、直観力と運で決まる勝負だ。