(5)
「とまれっ!」
ひたすらユーミの足取りを追って来たサガラとザットは、市場を抜け、更に先へ先へと突き進み、暫くして思わぬ壁にぶつかる。
「ここから先は【上の方】の住まいである。通すわけにはいかぬ」
唐突にあるのは高くそびえたつ壁と、重く頑丈な門と屈強な門番たち。
「困りましたね。まさか、【上の方】の住まいに続いてるなんて……」
【上の方】 それは身分の高い者たちの総称。
王家に連なる血族や富を蓄えた豪商などは、一般市民とは一線を引きある一定の地区に住居を構えているのだ。
そこに入るためには、身分証を示す必要がある。
「はっ! 俺が誰か分かってんだろ!? いいからそこどけよっ」
サガラはその異質な存在から、名も顔も知れ渡っている。
【上の方】とも浅からぬ付き合いがあるのだ。
顔パスで通れても不思議はない。
「ダメだ! 誰も通すなとの命令を受けている」
「……なるほどな。そういうことかよ」
門番の言葉に、サガラはひきつった笑みを浮かべている。
「これは、あの野郎の仕業か」
「え? あのサガラ?」
「しっかり付いてこいよ、ザット!」
「なっ」
「うわっ」
言うが早いか、サガラは門番二人を蹴り倒す。
騒ぎに気付いたその他の護衛が駆けつけてくるが、それらをかわしなぎ倒し、蹴りを入れて問答無用で強行突破していく。
「サ、サガラ、無茶苦茶です~」
これではまるで押し込み強盗だ。
清く正しくがモットーのザットは半泣きになりながら、それでもサガラの後を必死に付いていく。
サガラは迷う居なく一つの屋敷へと入る。
広大な庭と、サガラの家の十倍はあろうかという豪奢な建物。
何の躊躇いもなく屋敷のドアをけ破り、中に侵入する。
「うわっ。勝手に入ってしまっていいんでしょうか? サガラ~」
ザットの半泣き声を無視して、サガラは屋敷に入り、驚き目を剥いている、使用人らしき男を締め上げる。
「てめーんとこのふざけた主はどこにいやがるっ。それと、黒髪の女見てねーか!?」
「ひっ」
「さっさと言え!!」
「二、二階の奥のサンルームに……そ、その方も一緒かと……」
鬼の形相のサガラを前に、男は恐怖に戦きながらそう答える。
「ユーミですよね!? もしかして、此処の主って……」
ザットの問いを聞き終える間もなく、サガラは階段を駆け上がり、奥へと進んでいく。
ほどなくして、ガラス張りの六角形の部屋が見えた。中に入ると、手入れの行き届いた草花が生い茂り、小さな噴水まである。
ガラス張りの天井からは、万遍なく太陽の光が降り注いでいる。
そこはさながら、空に浮かぶ庭園のようだ。
「あ、サガラ!」
部屋の中央には、優雅で重厚感あふれる白いバラをモチーフにしたテーブルとチェアーがあり、その一つに座るユーミの姿があった。
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