(3)
「あんたが、ユーミって人かい?」
「はい、そー……えぇ!?」
唐突に聞こえてきた野太い声。反射的に答えかけ、いやいやと考え直す。
(ここは結界の中のはず。今、知らない人は入ってこないって思ったところじゃん!)
もしかして知ってる人なのかな?
なんて一縷の望みにかけて振り返り、激しく後悔した。
(だ、誰!?)
目の前にいたのは、横にも縦にも大きい、私の三倍はあるだろう大男だった。
「な、何のご用ですか?」
そう言いながら、ジリジリと後ずさりする。
(走って逃げる。いや、死んだふり……って、それは熊の場合じゃんかっ)
冷静を装いつつ、心臓はバクバクと音を立てて、思考が明らかにパニックだ。
「俺、あんたを迎えに来た」
「はい!?」
唐突な言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
「あんたに、会いたがっている人がいんだ」
後ずさった分だけ、相手もこちらへと近づいてくる。
これはちょっと、いやかなりまずい状況だよね!?
(はっ! さっそく渡された防犯グッズの出番!?)
懐を探り、手にすっぽりと収まる大きさの結界石を手に取る。
「てぃっ!!」
思い切り大男に向けて投げた……のだけど、結界石は思った先に飛ばず、大男の頭上を飛んでいく。
(焦って上に投げすぎた……)
ガックリと項垂れた時、予想外のことが起こった。
パシッ。
真上を飛ぶ結界石を、大男は手を伸ばし掴み取ったのだ。
「どうぞ」
「あ、どうも……じゃなくて!」
うっかりキャッチしてくれたお礼を言いかけてしまった。
(結界石が効かないってことは傀儡じゃない? え? じゃあ、この人って一体……)
「とりあえず行く」
「へ? ちょっ、嫌だ! 離してよっ」
考え込んでいた私を軽々と抱き上げる。
暴れてみるけれど、まったくビクともしない。
「すぐ付くから我慢。暴れるダメ。くつろぐいい」
「くつろげるかー!」
いきなり現れた大男に担ぎ上げられて拉致されかけているのに、くつろぐも何もあったもんじゃない。
(あ! 笛だわ。笛で助けを呼べばいいんだっ)
首に下げていた笛を力の限り思い切り吹いた。
「……」
「……」
沈黙がその場に流れる。
(鳴らない!?)
何度吹いても、音の欠片すら聞こえない。
(どうなってるわけ?)
半泣きで再度吹こうとした時、大男が動きだし、その振動で手を滑らせ笛は地面へと落下する。
「う、嘘でしょ!?」
私を軽々担ぎ上げたまま、大男はものすごいスピードで走る……というよりは、飛ぶように駆けていく。
あまりの出来事に、私はただただ茫然とするしかなかった。
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