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「くぅ~……い、痛いわねっ」


 が、これが思った以上に痛い。

 涙目でジンジン痛む拳をさする。


「おいっ! それは殴られた俺のセリフだろうがっ」


 殴られたサガラから渾身のツッコミが入る。


「だから、殴る方も痛いんだってば。こんなことなら、その辺に転がってる石で殴ればよかったわよ」

「それは、痛いだけじゃすまねーだろ。俺がっ。てめーは人を何だと思ってやがる」

「何もどうもサガラはサガラでしょ」

「は?」

傀儡かいらいだとか影獣えいじゅう王とか仕事のことだとか、衝撃過ぎてびっくりしたけどさ。でも、だから何? そういうのひっくるめて、今ココにいるあんたなわけじゃん。それなら、私が怖がる要素なんて何にもないわよ。ムカついたら怒るし、嫌だったらちゃんと言うし……」

「……」

「つらそうなら側にいる。悩んでいるなら、一緒に考える。頼りないかもしれないけど、私はそうしたいんだよ」


 サガラは傀儡かいらいを殺すことが仕事。もしそれが真実だとしても、少なくともサガラはそのことで苦しんでいる。

 そのくらい私にだって察しが付く。

 側にいるのに、近づくと突き放される感じがしていた。

 でもそれはきっと、自分のことを知られて離れていくのが嫌だったからなんだ。

 それはつまり、離れてほしくないという想いがあるってことだと思うのだ。

 我ながらポジティブではあるけれど、私はそう思う。というか、そう思うことにした。


「意味わかんねー。お前、馬鹿じゃないか? こういう場合、普通関わりたくねーだろ。サッサと逃げるだろ」


 心底呆れた顔でサガラはぶつくさと文句を言う。


「馬鹿はあんたでしょ! なんで私が逃げるのよ。大体、サガラには私がいなくちゃダメでしょ?」

「はぁ!? な、何言って……」

「ザットから聞いたわよ? 私が来る前はまともに家でご飯食べてなかったんでしょ? それに、家の掃除だってしてなかったし。日常生活能力低すぎ。私がいなくちゃ、まただらしない生活になっちゃうでしょ?」


 つい説教口調になってしまった私に対し、サガラはひどく間の抜けた顔をして聞いていたけれど、次の瞬間たかが外れたように笑い出す。


「ちょ、ちょっと、何でそこで笑うのよ!?」

「俺、今すげー重大な話したんだぜ? それがなんで、飯とか掃除の心配なんだよ。はははっ。お前、やっぱり馬鹿だわ」


 笑い出すと止まらないらしい。

 本気でお腹を抱えて笑っている。

 サガラって笑い上戸なのか?


「お前ってホント変な奴」


 ひとしきり笑い終えたサガラはぼそりと呟く。


「何とでも言ってよ。でも、やっぱり私は時夜のこと諦められない。だから、お願い。もう少し時間をちょうだい。元に戻す方法を考えたい」

「無理だな。あいつが俺の前に現れれば、俺はあいつを殺す」

「そんな……」

「だけどよ、あいつも深手を負ってる。しばらくは大人しくしてんだろ。俺も忙しいんだ。あいつばっか追ってる場合じゃねーしな」


 そっぽを向いて放った言葉は、サガラが譲れるギリギリのところなのかもしれない。


「ありがとう。サガラ」

「礼を言われる筋合いはねーよ。それより、これだけは約束しろ。絶対一人でトキヤに会おうなんて考えるな。あいつは、お前に気味が悪ぃほど執着してやがる。何をしでかすかわからねーからな」

「……うん。約束する。今度トキヤに会う時は、助ける方法を見つけた時だから」


 私は新たな決意を胸に、自分に言い聞かせるようにそう答えた。


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