表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/77

(8)

 時夜がいなくなってその場には、私とサガラだけになった。

 最初に見た、白い花が咲き乱れ雪景色のように綺麗だったその場は、跡形もなく散り踏み荒らされている。

今はほんの少し残った白い花が、心細げに揺れているだけだ。


「サガラ」

「なんだよ」


 サガラは、まだ辺りを警戒するように見回している。


「時夜のこと、教えて」


 私の言葉に一度だけ動きを止める。

 優しい風が私の頬を掠め、サガラの黒髪を揺らす。


「あいつのことは忘れろ」

「そういうわけにはいかないわよ」

「……」

「さっきの時夜は、私の知っている時夜とは違いすぎる。まるで、別人みたいだった」

「……」

傀儡かいらいってなんなの?」

「……知らない方がいいことだってある。お前が知っても、何とか出来るわけじゃねぇんだ。何も変わらない」


 傀儡かいらいという言葉に反応し、サガラは私を振り返り、淡々とした口調で言い放つ。

 向けられた目は冷めていて暗い。

 その目は、どこかさっきの時夜を思い起こさせてドキリとする。


「話を聞かなくちゃわからないじゃない。ここで聞かなくちゃきっと後悔する。知らないで後悔するより、傷ついたとしても知って後悔する方がマシだわ」


 サガラの目を真正面から見据える。

 もう覚悟はできている。

 私が時夜と知り合った所為で、サガラやザットは怪我をした。

 ジュリアだって巻き込んだ。

“知らなかった”じゃすまされない。

 時夜に何があって、私はどうするべきか決めなくちゃいけない。


「……」


 サガラは黙り込んだまま、一言も発さない。


「そんなに私が信じられないかな!? 確かに、私はこの世界の住人じゃないわよ。精霊だって魔法だって知らない世界の住人だわ。けど、だから知りたいの。楽しいことばっかりじゃなくて、嫌なことも大変なこともきちんと知っておきたい。子供扱いしないでちゃんと教えて」


 押し黙るサガラに詰め寄り言い放つ。


「ユーミの言う通りです。そろそろ教えておくべきです」


 口を噤んだままのサガラに変わって、まばゆい光と共に声が聞こえてきた。


「ザット!? 怪我は大丈夫なの?」


 現れたのはザットとジュリアだった。

 フワフワと羽をはためかせたザットの体には、先ほどまでの痛々しい傷が消えている。

 ただ、裂けた服や黒くなった血の染みが、確かに大きな怪我を負っていたのだということを物語っている。


「はい。ジュリアの治癒術は世界一です。傷も塞がりましたし、痛みもないですよ」


 空中で羽をはためかせて、一回転してみせ、戻ってくると深々とお辞儀する。


「ご心配おかけしました」

「ううん。よかった。ごめんね。私が迂闊に買い物なんて行かせちゃったから……」

「違いますっ。謝るのは僕の方です。まんまと、あの人に捕まって、ユーミを危険にさらしてしまいました。サガラにもジュリアにもご迷惑おかけしてしまいました。傀儡に捕まるなんて、精霊失格です」

「あら? 私はお役に立てて嬉しいのよ。それにね、あなたは暫く眠りについていたんですもの。力が戻っていなくても仕方ないわ。ほら、みんな無事だったのだから、何の問題もないわよ。ねぇ、サガラ」


 ニコニコとしながら、ジュリアはサガラへと同意を求める。


「あぁ。お前は、最後までユーミの居場所を教えなかったんだろ。責任感じることもねーよ。勝手にフラフラ出て来たのは、こいつなんだからよ」


 そう言いながら、鬼の形相でジロリと私を睨む。


(うっ。さっきまでの優しいサガラは幻だったのかも)


「ほら、ユーミをいじめないの。そもそも、きちんと説明しておかなかったサガラが悪いのよ」


 ジュリアは窘めるように言葉を向ける。


「お願い、聞かせてよ。サガラ」


 全員の視線がサガラに向けられる。


「……分かった。その前に、家に帰るぞ」

「そっか、傷の手当を……」

「もう治った。それより着替えだ。あいつの所為で服もマントもボロボロだ」


 そう言いながら、サッサと歩き出す。

 とても先ほどまで血だらけだったとは思えない。


「よかった。見た目より傷は浅かったみたいだ」

「……」


 安堵する私の横で、ジュリアが微かに表情を曇らせる。


「ジュリア、どうかしたの?」

「いいえ。なんでもないの。行きましょう」

「あ、うん」


 いつものように、綺麗な笑みを浮かべるジュリアだったけど、微かな違和感があったのだった。


 

拍手いただけるとやる気度アップします。お気に召しましたら、ポチリとお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ