(7)
「驚いた。あんたがあんな馬鹿な真似をするなんて」
意識を取りもどした時夜は、立ち上がり服の汚れを払い落としながら、忌々しげに言い放つ。
「お前にユーミをくれてやるつもりはねーからな」
サガラは、私を時夜から遠ざけるように前へと一歩出る。
手は剣の柄にある。
「なるほど。騎士きどりってわけだ」
「……」
無言のまま、サガラは剣を引き抜き、時夜へと向ける。
「サガラ、時夜と話をさせて」
確かに時夜のしたことは最低だ。
どんな理由があるにしろ許されるものじゃない。
だけど、時夜がしたことがやっぱりまだ信じられないし、だから話をしたいと思う。
「黙っていろ。こいつを見逃すわけにはいかねーんだよ」
「だけど!」
シュッ。
声を上げたその時、時夜のいる反対側から、炎がサガラめがけて飛んでくる。
「サガラ危ないっ」
「!」
寸でのところで、剣で炎を切り捨てる。
「誰だ! 出てこいっ」
シュッ。
再度炎が飛んでくる。
それを避け後ろに下がると同時に、時夜の前にベールをした人物が立ちはだかる。
「大丈夫ですか?」
ベールでその表情は見えないけれど、透き通るようなその声で、目の前に現れた人物が女性だと分かる。
「大丈夫なもんかよ。最悪だ」
悪態をつきながら、赤い髪を苛立たしげに掻き揚げる。
「時夜……」
「優美は騙されてるんだよ。君はサガラの正体をまだ知らないんだろ?」
「正体?」
「そいつが何者で、どんなことをしているのか。知れば……」
「うるさい! 黙れっ」
言葉を遮るように、サガラは剣を時夜に向かって振り上げる。
「……」
それを無言のまま、ベールの女性が小太刀一つで受け止める。
「今日は大人しくひいてやる。次は必ず優美をもらうよ。……カル」
カルと呼ばれた女性は、サガラの剣を押し返し、何か小さくつぶやく。
と、時夜の周りが小さく揺れる。
それは水に広がる波紋のように大きくなり、そのまま二人の姿は消え失せていた。
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