(6)
その時、ひどく小ばかにしたような声が耳に届く。
「あほらしい。付き合ってらんねーつーの」
剣を鞘に収めたサガラが、睨むように私を見ている。
(え? お、怒ってる? しかも私? なんでよ!?)
あまりにも怒りを全面にだしているサガラに思わずたじろく。
「……」
サガラは、無言のまま私たちの元へと一直線に向かってくる。
「丸腰で何のつもりだ?」
どす黒い刃が、今度はサガラに向けて作りだされる。
「サガラ、危ないから逃げてよっ」
「……」
「気でも狂ったか?」
何のためらいもなく、刃はサガラめがけて飛んでいく。
ザシュッ!
嫌な音がした。
「ぐぅっ」
刃はすべてサガラへと突き刺さる。
「きゃあっ」
それはサガラの肌を傷つけ、赤い血が滴り落ちる。
黒い服で分かりづらいけど、腕も足も血だらけだ。
地面にどす黒いシミを作り上げている。
「あはははっ。まるではりねずみだな。いい様だ」
「そりゃどうも……とっ」
「なっ」
体中に刃を受けたままのサガラが、一瞬視界から消えた。
「え?」
消えたと思った瞬間には目の前にいて、何が起きたか理解する前に、後ろにいた時夜を素手で殴り倒していた。
あれだけの傷を受けていながら、サガラのスピードと力は尋常じゃなかった。
ほんの瞬く間に、時夜は地面に仰向けに倒れ込んでいた。
私の目の前には、血だらけのサガラが立っていて、あっという間に抱え上げられ、時夜から離れるように、数メートル先で下される。
「このアホがっ。なにあいつの言いなりになってやがんだっ」
降ろされたと同時に文句を言われた。
「だ、だって、そのそうすればやめてくれるって……」
「んなわけあるか。あれはあいつのただの嫌がらせだろうがっ」
「嫌がらせ? なんで私が時夜にキスするのが嫌がらせなわけ?」
「それは、俺が……」
「?」
言いかけて、なぜかサガラはフリーズして大きく首を振る。
「いや、それはねーだろ。何で俺がこんな奴を……」
「なに? ちょっと、一人で納得してない……」
「ユーミ!?」
またフラフラとしてきた。
ボーとして体にうまく力が入らない。
「悪ぃ、言いすぎた」
耳元に、いつになく気遣わしげなサガラの声が優しく響く。
地面に立っているのにフワフワする。
そんな状態だから、サガラは私から体を離さずにいる。
そう。別に抱きしめられているとか、そんなんじゃないはずだ。
何でだろう?
時夜の時は何とも思わなかったのに、サガラが相手だと妙に気恥ずかしい。
「へ、平気だから放してよ」
恥ずかしさも限界だ。
体を離そうとしたけれど、また引き戻される。
「ダメだ。まだ足元ふらついてんじゃねーかよ。いいから、俺の側にいろ」
てっきりいつもみたいに嫌味の一つも言われると思ったのに、サガラはひどく優しい声でそう言うと、すっぽりと私の体を包み込む。
(サガラが優しいなんて変だ。熱でもあるんじゃ……)
「サガラ!? 傷……傷は?」
ぼんやりとしていたけれど、サガラはひどい怪我をしていたはずだ。
慌てて体を離し、サガラの体を万遍なく確認する。
刺さっていた刃はなくなっているけれど体中傷だらけ。
こんな状態じゃ、立っているだけでもついらいはずだ。
「早く、手当しなくちゃ」
「平気だ。俺はこういうのはきかねーし」
「何言ってんの!? 血が出てるし、傷だらけじゃない。ごめん。私の所為で……」
二人はさんざん忠告したのに、全然信じなくて。
怪我をするなら、私がすればよかったのに。
ジワジワと涙が出てきた。
「な、泣くなよっ」
「だ、だって……」
「……」
「!?」
泣き出した私を、サガラが再度引き寄せる。
「ジュリアはああ見えて、治癒系魔法の上位取得者だ。ザットは必ず助かる」
「うん」
サガラの言葉に安堵して、ますます涙腺が緩んでしまう。
「だから泣くな。どうしていいか分からなくなるだろ」
声が耳元に響いて、サガラの腕に力がますますこもる。
サガラの温もりを感じて鼓動が早まっていく。
「も、もう平気だから……」
パニック状態から冷静になって、今サガラに抱きしめられているんだという現状に、再度パニックになる。
「チッ」
体を離した私に、サガラの小さな舌打ちが聞こえる。
(なんで舌打ち!?)
私が離れたから不満だった……と思うのはうぬぼれすぎだろうか?
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