(5)
パアァンッ。
恐怖で目を閉じた私は、何かが弾けるような音で目を開ける。
キラキラと舞い落ちる光。
それがどす黒い破片が霧散したものなのだと気づくのに、暫くかかった。
「やっぱりな。こんなこったろうと思ったぜ」
呆れたような不機嫌な声。
だけど、その聞きなれた声は、このうえない安堵感をもたらす。
「サガラ!」
数メートル先にサガラの姿があった。
いまだ茫然としている私をジッとみる。
「すっげー間抜け面」
「なっ」
「無事だから安心しろ」
つっけんどんに言い放ったサガラの手の中には、ザットの姿がある。
「よかったぁ」
思わず詰めていた力が一気に抜けてフラフラとする。
「チッ!」
けれど安心したのもつかの間、時夜がサガラめがけて第二刃を放つ。
今、サガラの手の中にはザットがいる。
避けることも剣で砕くことも難しい。
「お痛がすぎるわね」
鮮やかな金色が目に飛び込んできて、綺麗なソプラノが響く。
その瞬間、サガラの周りに透明な膜が出来上がり、刃は一つ残らず弾かれ消えていく。
「ジュリア!?」
驚きの声を上げる私に、ふわりとしたほほ笑みを向け小さく頷く。
思わず駆け寄ろうとした私の腕を、時夜が掴み引き寄せる。
「行かせない」
苛立ちを滲ませた声を出し、掴む手に力が込められて、あまりの痛みに顔をしかめる。
「女の子を乱暴に扱うなんて、万死に値するわ。ユーミを放しなさい」
「ジュリア。ザットがひどい怪我をしているの。ザットのこと助けて」
「あいつは俺が何とかする。ジュリアはこいつ頼むわ」
私の言葉に、サガラはザットの身をジュリアに預ける。
その姿を見たジュリアは表情を険しくする。
「ザットをお願い……」
「ええ。大丈夫。必ず助けるわ」
私へと優しいほほ笑みを向け、サガラへとも視線を向け頷くと、そのまま瞬く間に、ジュリアの姿は消えた。
それは多分、魔法というやつなのだろう。
少なくとも、ザットは危険な場所から遠ざかった。
そのことに安堵する。
「ユーミを放せ。くそガキ」
「それは“王”としてのご命令ですか? サガラ……いや影獣(えいじゅう)王」
時夜は私の肩を抱いたままクスリと笑う。
「黙れ」
たった一言だっていうのに、その声は今までに聞いたことがないくらいに、暗く冷たい。
ビリビリとサガラの怒りが伝わってくる。
「サガラ?」
私を一瞥したその目には、微かな動揺がにじんでいた。
けれどそれも一瞬のことで、次の瞬間には、時夜を威圧するかのように強く睨んでいる。
「お前の狙いは俺なんだろ? そいつは関係ねーだろ。さっさと放せ」
「そうでもないんだよな。オレとユーミは同じ世界の住人っていう強い絆があるんだ。だから、優美は俺と一緒にいるべきなんだ」
どうしてか思うように体を動かせない。
もしかしたら、さっきの金縛りみたいのを無理矢理解いた所為かもしれない。
それをいいことに、時夜は後ろから強く私を抱きしめる。
「てめぇっ」
冷たいサガラの視線にさらされて、ひどく居たたまれない気持ちになる。
「くそっ」
「ふぅん。攻撃しないんだ。やっぱりね」
「時夜、どうしてこんなことするの? もうやめてよっ」
「……優美がキスしてくれたら、やめてもいいかな」
「え?」
「!?」
唐突だ。
本当に唐突な言葉だった。
まさかそんなことを言われるとは思わず、私は信じられない気持ちで時夜を振り返る。
ニコニコと笑いながら、その目が、冗談なんかじゃなくて本気なんだってことを物語っていた。
「わ、わかった」
意味が分からないけど、こんな物騒な事態が収拾するなら、そのくらい安いもんだ。
大したことじゃないわよ。
そう自分に言い聞かせ、覚悟を決めた。
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