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(3)

 どうしてこんなに不安なのか分からない。

 だけど気持ちが逸って、自然と駆け足になってしまう。


「市場への道はこっちの方で……」


 けもの道みたいな一本道を走り抜け、市場へ続く通りに出る直前だった。


≪そっちじゃない。こっちだ≫


 突風が吹き抜けるのと同時に声が聞こえて、背中を反対への道へと押し出される感覚がした。


「え? な、なに!?」


 振り返ってみたけれど誰もいない。

 ぐるりと周りを見回してみたけれど、人の姿は皆無。


(空耳? 幻聴??)


 きっと気のせいってことで、市場へと踵を返してみたけれど、どうしても、もう一つの道が気になってしまう。


「……よし」


 暫く迷ってから、市場とは反対の道へと進む。

 何の根拠もないっていうのに、どうしてか、この道が正しいんだっていう確信がある。


(なんだろう? すごく変な感じがする)


 進めば進むほど、胸のあたりが嫌な感じにざわつく。

 しばらく走ると、開けた空間にたどり着く。

 そこは辺り一面真っ白だった。

 まるで、雪が降ったみたいだ。


(雪じゃない。これって花なんだ)


 よくよく見ればそれは、小さな白い花が咲き乱れた花畑だった。


(観光地に認定出来ちゃうくらいに綺麗。こんな場所があるなんて知らなかったな)


 そんなことをのん気に思った時だった。


 バアァンッ!!


「え?」


 目の前の花が何か大きな衝撃で散っていく。

 まるで降りしきる雪のように、たくさんの花びらが空を舞う様子は、幻想的で綺麗だ。


「!?」


 けれど、それに見惚れていたのはほんの一瞬だった。

 大きな衝撃のその中心に、見知った小さな姿が見えたのだ。


「ザット?」


 血の気が引く。

 多分、初めてそういう感覚を味わったのだと思う。

 ヒラヒラと雪のように舞い散る花びらの中、空にぽっかりと浮かんだ不気味などす黒い光がザットを包んでいる。

 ザットの身に着けている服はところどころ破けて、赤く血がしみだしている。

 ありえないくらいにボロボロな姿。

 目を閉じピクリとも動かない姿に息を呑む。


「何でこんな……」

「馬鹿な奴だよね。質問に答えれば、痛い目見ずに済んだのにさ」

「時夜?」


 声がして振り向くと、そこには時夜の姿があった。


「ど、どういうことなの?」

「優美に会いに行くつもりだったんだけどさ。迷子になっちゃって」


 バツが悪そうに苦笑しながらも、時夜は朗らかに答える。

 まるで、目の間の異様な光景なんて見えないみたいに、普段と変わらない明るい調子で。


「そうじゃなくて、私が聞きたいのは、どうしてザットが傷だらけなのかだよ」

「ザット……あぁ。あれか。まだ生きてるんだ。なかなかしぶといな。ま、聞く必要もなくなったしもういいか」


 ちょっと眉をしかめてザットを一瞥してから、パンッと手を叩く。

 と、ザットを覆っていたどす黒い光が消える。

 それと同時にザットの小さな体が落下していく。


「!」


 考えるより先に体が動く。


 駆け出し、危機一髪でその小さな体を、両の手の平で受け止める。

 手のひらの中で、クッタリと横たわるその姿を見て思わず声が震える。


「ザ、ザット!? やだっ、しっかりしてよ」

「……ユーミ?」

「ザット、一体どうしたの? 誰がこんなこと……」

「逃げて……ください。彼は“傀儡”かいらいなんです」

「え?」


 傀儡かいらい その言葉は、前にもどこかで聞いたことがある気がする。

 でも、それが何を意味しているのか、私にはまったく分からない。

 ただ、“彼”が時夜を示しているだろうことは、ザットの視線の先を追えば分かる。


「と、ともかく、手当しなくちゃっ」


 訳が分からないけれど、今はただザットを介抱することが最優先だ。


「どこに行くの?」

「時夜、どいて。ごめん。今は急いでいるから」


 行く手を阻むように近づく時夜を、私は真正面から見据える。

 時夜は、ザットが怪我をしたこととかかわりがある。

 声は知らず知らずのうちに固くなる。


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