(6)
「きちんと説明するべきじゃないでしょうか?」
ユーミが走り去り、あとに残されたサガラに向かって、ザットはおずおずと声をかける。
「……言っちまったら、俺のことも話すことになる」
吐き捨てるように放ったその言葉に、思わずサガラを仰ぎ見る。
その顔には、いつになく余裕がない。
今まで、サガラは人と深く関わることを避けていた。
だから、こういった時の対処法が分からないのだ。
要領よく適当に誤魔化すことが出来ない。
かといって、すべてを話して、どう思われるのかも怖い。
「ユーミはきっと分かってくれると思います。離れていったりしないですよ」
「なっ。べ、別に俺はあいつが離れようがどうしようが気にしねーよ。ただ、話すのが面倒なんだよ。色々ややこしいだろっ。ただそれだけだ!」
「ふふっ。そうですね」
無駄に力説するサガラだが、上ずった声と真っ赤になった顔では、まったく説得力がない。
動揺まるわかりのサガラの姿に、ザットから思わず笑みが漏れる。
「てめぇっ、居候の分際でなに上から目線なんだ?」
「そ、それは言いがかりです」
飛んでいれば上から目線になるのは仕方のないことだ。
「ま、何にせよ。暫くは、ユーミから目を離すな。あいつに近づけるんじゃねーぞ」
サガラの視線の先は、もう見えないユーミへと続いている。
その瞳は不安げに揺れているようにみえる。
(何事もなければいいのですが……)
何となく感じる嵐の予感を押しとどめるように、ザットは心の中で呟いた。
「サガラ……闇の王」
ユーミたちが消えた方角を見つめて、時夜は悠然と笑み言葉を漏らす。
「いつまであの少女と戯れているつもりですか?」
凛とした女の声と共に、花びらが舞い落ちたかのように、女が時夜の後ろへと降り立つ。
女は全身を黒いマントに包み、フードを目深かにかぶっている。
「戯れ? 俺は本気だよ。あの子のこと、本気で落とすつもりだから」
この世界で出会った同じ世界の少女。
どうしようもなく荒んだ心が、優美がいるだけで癒される。
まるでこの世界に来る前の自分に戻れた気分になる。
「ならば、”能力”をつかえばいいでしょう?」
「彼女にはさ、俺の暗示効かないんだよね。そこもおもしろくて気に入ってる」
「……」
「それにさ、あいつのあの顔見た? あれは一見の価値ありだよ? あははっ」
込み上げてくる笑いは抑えようもなく、時夜は狂ったように声を上げて笑い出す。
「闇の王から、姫君を救い出す。俺が必ずね」
「あなたがそう決めたのなら」
ひとしきり笑い終え、冷たい声で放った言葉に、女はフードを取り深く頭を垂れる。
美しい黒髪に白い肌。
頭を上げたその瞳は黒い。
におい立つ花のように嫋やかで可憐な容姿。
だが、その表情に生気はなくまるで精巧な人形のようだった。