表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/77

(5)

「それでさ、そいつってどんな奴なんだ?」


 いつもの気安い感じでそう聞いてきた。


(考えすぎ?)


 冷たいと感じたはずのその目は、今は好奇心をむき出しにして、楽しそうに輝いている。

 何だか、学校で友達と他愛もない話をする時みたいで、ちょっと嬉しい。

 サガラやザットとは、こういうノリにはならないから。


「意地悪で口うるさくて無神経な奴」


 嫌いな先生を評価するみたいに、思わず不満点が口を吐く。

 今はサガラのことを考えると、モヤモヤするんだもの。


「さんざんな言われようだな。てかさ、なんでそんな奴のとこにいるわけ? 無理してるなら、やっぱり俺のところにくればいいじゃん」

「別に無理はしてないよ……なんでか、あいつの家にいるの嫌じゃないんだよね」


 最初は無神経ですごく嫌な奴だって思ったし、すぐ出てってやるって考えていた。

 けど、いつの間にかあの場所は私にとって、居心地がいい場所に変わっていた。


「嫌な奴だけど、悪い奴じゃないんだよね。最近、素直じゃないただの意地っ張りってわかってきたし」


 今日だって、残した料理は後で食べるってわざわざ言って出かけたし。

 それは多分、“ごめん”という言葉の代わりなんだ。


「ふぅん」


 時夜が気のない感じで相槌をする。

 貶してほめて、結局どっちなんだよって思ったのかも。

 でも、それが私の本心だ。

 言葉にして、何だかすっきりしてきた。


 この世界に来て、サガラに拾われてジュリアに会って、ザットも加わって、毎日がそれなりに楽しい。

 いつの間にか、この世界での私の居場所は、サガラのいるあの家だって思うようになってた。


(そっか。そういうことなんだよね)


 私がモヤモヤしている理由。

 それは、サガラのことを何も知らないからじゃない。

 サガラが、私を拒絶しているように感じたからだ。

 近くにいるのに、何か大きな壁があって、そこから立ち入らせてくれない。

 急に突き放されたような感じがして、ショックだったんだ。


「もしかして、優美はそいつと付き合ってんの?」


 黙っていた時夜が急にボソッと呟くように訊ねる。


「はぁ!? な、なんでそうなっちゃうの!?」


 思ってもみなかった言葉に、動揺して声が上ずってしまう。


「違うのか?」


 時夜の問いにコクコクッと力いっぱい頷く。


「サガラと付き合うなんてありえないしっ」


 そうだ。そんなことありえない。

 ジュリアもなぜか誤解しているけれど、そもそも、出会ってすぐに恋愛対象外的なことも言われているわけだし。

 私だって、そんなこと考えたこともない。


「そっか。でも、早めに駆除した方がいいかもな」

「駆除って何の話?」

「いや、こっちの話。何でもないよ。それよりさ、俺サガラに会いたいんだけど」

「えぇ!? なんで?」

「挨拶しといた方がいいかなぁって思って。優美がこんなに想っている相手、一度見てみたいしさ」

「だから誤解だってばっ。誰があんな性格ねじ曲がった奴のことなんか……」

「誰がねじ曲がってるって?」


 唐突に真後ろから、聞き覚えがある声が降ってきた。


「へ?」


 殺気だったオーラを感じて、思わず恐る恐る後ろを振り返る。


「……」


 そこには、不機嫌全開モードのサガラが仁王立ちしていた。


「なっ。い、いつからそこにいたの!? てか、なんで毎回気配なく後ろにいるのよ!」


 お前は忍者か! って、ツッコミを入れかけて、この世界に忍者がいるか分からないので、その言葉は飲み込んでおく。


「お前がいちいち、俺の前にいるのが悪いんだろーが。つか、何一人でこんなとこに来てんだよ」


 自分勝手な理屈にムッとする。

 そもそも、サガラだって行先を言わずに出かけちゃうんだし、文句を言われる筋合いはない。

 そう思って口を開きかけたんだけど……。


「ユーミ! 帰ったらいないし、心配しましたぁ」

「うっ。ご、ごめん」


 瞳を潤ませ目の前にやってきたザットを見たら、急に罪悪感が芽生えて、思わず謝ってしまった。

 確かに、今まで一人で出かけたことがなかったし、そのうえ何も言わずにいないとなれば、心配もするだろう。

 ザットには悪いことをしちゃった。


 とりあえず二人を紹介しなきゃと思い、時夜を振り返る。


「……やっぱりか」


 時夜は後ろを振り返ることもせずに、ひとり心地で呟き、クスリと小さく笑う。


「チッ」


 その呟きを聞き、サガラは不快そうに眉を顰め、時夜の背中を睨みながら小さく舌打ちをする。


(な、なにこの雰囲気!?)


 明らかにその場の空気が冷たくなった。

 なぜかわからないけれど、張りつめたような緊張感がある。

 ザットも時夜を見る表情は険しい。

 あまりに冷たいその空気に私も言葉なく二人を交互に見る。


「帰るぞ」


 と、サガラは唐突にそう言い放つと、前に回り込み私の腕をつかむ。


「え? ち、ちょっと引っ張らないでよ!」


 有無を言わさない強い力で、そのまま引きずられるように歩き出す。


「ごめんね、時夜。また今度!」


 時夜に向かってそう叫ぶのが精いっぱいだった。

 時夜は笑顔でヒラヒラと手を振って答えてくれた。

 一瞬おかしな雰囲気だったけど、気を悪くしたってことでもないらしい。


「……」


 だけど、私の腕をつかんだまま早足で歩くサガラは、明らかに不機嫌だ。

 というか、妙に殺気立っている。

 けど、私だってそれに負けないくらいムカついている。


「意味わかんない。サガラ、ちゃんと説明してよ」

「……」


 私の問いに何も答えない。

 そのうえ、私の腕を掴むサガラの手は食い込むほどに強くて、それが更に苛立ちを強くする。


「腕が痛い」

「!」


 ボソッと呟くと、初めて気づいたとでもいうように、驚きの表情を浮かべたサガラは、腕から手を放す。


「何なの、一体!? 時夜……私と一緒にいた人と知り合いなの? それにしても、あんな態度、失礼じゃない」

「ですが……」

「いい。余計なこと言うな」


 何か言いかけたザットの言葉を遮り、続けて私に視線を向ける。


「あいつにはもう会うな」

「だから、理由を説明してよ」


 異世界で出会った同じ世界の住人。

 私にとっては大切な友達だ。

 それなのに、理由も言わず、ただ“会うな”なんて横暴すぎる。


「いいから言うことを聞け」

「なにそれ!? どうして話してくれないのよ。私ってそんなに信用ないの?」

「……」


 とうとうサガラは黙り込んでしまった。

 本気で説明する気がないらしい。


「サガラの馬鹿! 最低!!」


 あまりにもムカつきすぎて、思わず単純な罵倒が口をつく。

 それでも何も言わないサガラに、怒りも頂点に達した。

 すでに見えている家に向かって一目散に駆け出して、私はそのまま自室に入り、扉を思い切り閉めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ