(3)
(そんな風に隠されると、逆に気になっちゃうんだけどなぁ)
確か前にも、サガラに濁されたことがある。
そんなにも口に出せない仕事なんだろうか?
ジュリアに聞いたら教えてくれるかな?
「……ダメだ。聞きづらいな」
前にあまり似ていない容姿について聞いたとき、ひどく悲しそうな顔をされたっけ。
そのことを思い出して却下を入れる。
他には、サガラの友達……なんて知らないし。あとは……。
「案外、恋人とかもいたりして」
ズキリ。
「あれ?」
なんか一瞬、胸の辺りが嫌な感じに痛んだ。不快な気持ち。
「変なの」
今は一人きり。
誰に聞かれる心配もないから、言葉に出してつぶやく。
「そもそも、私サガラのこと何にも知らない。一緒に住んでるのにさ」
サガラとも親しくなった気でいたけど、肝心なことは何一つ知らないんだ。
「せめて仕事くらい教えてくれてもいいじゃない」
一人のけものみたいで嫌な気分だ。
こうなったら、誰でもいいから聞いてみたい。
「でも、私の知り合いってすごく少ないもの」
あと親しいのは、前に市場で出会った時夜くらいなものだ。
いくらなんでも、時夜がサガラの仕事を知っているわけはない。
「でも、もしかしたらサガラのことは知っているかも?」
ふと、そんなことがひらめく。
この世界で黒髪に黒い瞳の容姿はとても珍しい。
というかほとんどいない。
そうであれば、サガラの存在は目立つはずだ。
何か小さなことでもいい。
何か聞けるかもしれない。
そう思ったらうずうずとしてきた。
「よしっ。聞きにいちゃおう!」
声に出せば、それが現実味を帯びる。
一人で外に出るなんて初めてのことだけど、市場までなら一人で行けるはずだ。
初めの頃は、一人で外に出ると、また変な奴に捕まるんじゃないかと、とてもそんな勇気はなかった。
けれど、最近はだいぶこの世界にも慣れて、恐怖心も薄らいだ。
それに、サガラにもらった、銀色の腕輪は翻訳機という機能のほかに“所有物”の証になるらしい。
もの扱いでちょっと抵抗はあるけれど、ようは腕輪がこの世界での身分証明というわけだ。
『俺のものに手を出す奇特な奴は、そういないと思うぞ』 なんて、サガラがドヤ顔で言っていたっけ。
『誰がサガラのものよ』 って不満げにいったら妙に慌てた様子で、『馬鹿か! ただの言葉のあやだっ。変な意味にとるなっ。馬鹿が!』 って、なぜか馬鹿を二回も言われた。
しかも変な意味ってよく分からないし、サガラの方がよっぽど変だった。
ともかく、この腕輪があれば、誰かに捕まることもないだろうし、大丈夫なはず……多分。
「いってきまーす」
誰もいないけれど、静かにそう言い放つと私は外へと飛び出したのだった。