(2)
サガラが出かけて、大皿に残った料理を見て思わずため息が漏れてしまう。
「ユーミ、大丈夫ですか?」
心配そうな顔をしたザットがおずおずと私に声をかける。
「へ? 私は平気。それよりさ、あの大食らいのサガラがこんなに残すなんて、ホントどうしたんだろ」
私の言葉に、ザットがフヨフヨと羽をはためかせながら、首をかしげる。
「僕にしてみたら、今のサガラの方が驚きなのですが」
「どういうこと?」
「僕、サガラがおうちで食事をされている姿を、今までみたことなかったんです。台所に火が点るどころか、ここに食べ物が置いてあること自体、ユーミが来るまでみたことがなかったです」
「うーん。全部外で食事を済ませてたんだ」
なんて不健康&不経済。確かにサガラが料理する姿なんて想像できないけど。
「いえ。もちろんそういう日もあるでしょうが、仕事で一日一緒に行動する時、何も食べない場合もよくありましたし。あまり多く食べる印象がなくて」
「うそっ。そうなの?」
ここに来てから、サガラは出された食事はもちろん、人のおやつにまで手を出してくる。
てっきりもとから、大食らいで食への執着が強いのだと思っていた。
「多分サガラは、ユーミの料理が好きなのだと思います。だからたくさん食べるんですよ」
ニッコリ可愛い笑顔でザットは嬉しいことを言ってくれる。
「つまり、私の世界の料理が口に合ったってことよね」
「もちろんそれもありますが、ユーミが作ることが重要だと思うのです」
「私が? あぁ。味付けがサガラ好みってことか」
「えっと、ちょっと違うような。好みではなくても、ユーミの手料理ならサガラはたくさん食べると思うのです」
「?」
ザットはなぜか赤い顔をして、ゴニョゴニョと口の中で呟いている。
どうにも要領を得ない。
つまりどういうことなんだろう?
「す、すみませんっ。変なことをいってしまって。あの、わからなくていいです! これは僕が勝手に思っていることで、ごめんなさい!」
考え込む私に、ザットはなぜかあたふたとそう言い募る。
ダメだわ。ザットの言いたいことがまったくわからない。
「つまり、あまり食べなくてもサガラは平気だっていうことです。あまり心配しないでくださいね」
「そっか。ありがとう、ザット」
なるほど。サガラのことを気にしている私を、ザットは心配してくれたらしい。
やっぱりザットはすごくいい子だ。
もう少し大きかったら、思わずギュッと抱きしめていたところだ。
手のひらサイズしかないから、抱きしめるのは無理だから、人差し指でザットの頭を撫でる。
そうすると、えへへっと照れ笑いを浮かべて、その仕草がまた可愛い。
「あの僕、サガラのところに行ってきます。様子がいつもと違うのは確かですし。ちょっと様子を見てきますね」
「じゃあ、私も……」
「すみません。それはダメなんです。仕事中だと思いますし、ユーミは危ないですから」
「危険な仕事なの?」
剣を持っているんだから、なんとなく予想はしていたけれど、はっきり“危険”という言葉が出ると、少しドキリとする。
「あ、いえ。そんなことは……あのあの、いってきます!」
私の問いにあやふやに答えると、ザットは窓から外へと飛び出していってしまった。