4章 異変(1)
「うそ……。そんなっ」
いつも通りの朝。
いつも通りの食卓。
それなのに、今日はありえない事態が起きている。
私は口元を抑えて、ただその光景を眺めるしかできない。
「……」
異常であるその大元は無言のまま、ただ軽く息を吐いた。
目の前には、ほぼ手つかずの食事が置かれている。
「サガラ、具合が悪いのですか?」
あまりの異常事態に、ザットも心配そうな顔でヒラリと飛び上がり、サガラの顔を覗き込む。
「別に」
「何が“別に”よっ。だって全然ごはん食べてないじゃない! もしかして、何か変なもの拾って食べたとか? それとも夜中に何かつまみぐいしたの?」
サガラが出された食事を残すなんて、今までで初めてだ。
いつもなら、大皿一杯平らげて、更にデザートまで要求するくらいなのに。
「んなわけあるか。お前は俺を何だと思ってやがるんだ?」
「じゃあ、どうしたのよ」
「俺はお前と違って、常にノー天気じゃねーんだ。考えなきゃなんねーことも色々とあんだよ」
ということを、ものすごく見下した目をして言われた。思わず持っていたおたまを投げつけそうになったけど、寸でのところで我慢する。
病人には優しく優しく。
心の中で唱えながら、サガラのおでこに手を当てる。
「うーん。熱は……」
「触るなっ!!」
「!?」
ビリビリするくらい大きな声で怒鳴られ、おでこに触れていた手をおもいっきりはらい落された。
ビックリした。
それ以上にショックだった。
確かにフイに触れたりした私がいけなかったのかもしれない。
だけど、そんなにも強く拒絶されるとは思わなかった。
「サガラ、今のは……」
ザットに非難めいた言葉を向けられ、サガラがハッとした顔で私を見た。
「ごめん」
反射的に謝ってしまった。
だって、サガラが何だかひどく青ざめて、途方に暮れたような顔をしていたから。
「……出かけてくる」
すぐに私から視線をそらして、サガラは立ち上がるとマントと剣を掴んで扉に向かう。
「大丈夫なの?」
何だかそのままというのも気まずくて、もう一度声をかけてみる。
柄にもなく、緊張して声が上ずってしまった。
「平気だ。その料理、夜に食うから」
振り向いてはくれなかったけれど、その声がいつもの調子でホッとする。
「早く帰ってきなよ」
「……さぁな」
やっぱり振り向くこともなく、サガラは外に出て行った。
「やっぱり変だよね?」
「変ですよね」
残ったザットと私は訳が分からず、顔を見合わせたのだった。
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