(5)
時夜と別れて、急いで残りの買い物に向かうため市場を目指す。
「あれ?」
「ユーミ」
広場を抜けたところで、先に帰ったはずのザットと出くわす。
何だか、浮かない顔をしているように見える。
「どうしたの? 先に帰ってていいよって言ったのに。もしかして待っていてくれたの?」
「はい。ユーミが心配でしたので」
私の問いにコクリと肯き、相変わらず何だか表情が暗い。
本当にどうしちゃったんだろう?
「帰り道ならちゃんと覚えているから大丈夫だよ。それより、何だかザットの方が具合悪そうだけど、大丈夫?」
「はい。あの、僕が心配なのは、先ほどの方のことです」
「時夜? あ、別に変な勧誘とかナンパとかじゃないんだよ。驚いたことに、私と同じ世界の人だったんだ」
「そう……なのですか。でも、何だか嫌な『気』を感じて」
ザットは精霊だからなのか、人の感情には敏感だ。
それにしても、あんなに屈託のない時夜から、嫌な『気』を感じるなんてどういうことなんだろう?
思わず、考え込んでしまう。
(あ、もしかしたら、時夜はこの世界の人にいい感情を持っていないのかな?)
私だって突然この世界に飛ばされて、サガラから説明を聞いた時、ホントふざけるなって思ったもの。
そうであっても不思議はない。
その感情が、ザットに伝わったって考えられる。
うん。それなら納得がいく。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「はい。でももう関わらない方がいいと思うのです」
ザットはすごく真剣な面持ちでそう言い放つ。
「そっか。うん。分かった。ほら、早く買い物済まして帰ろう」
あんまりザットが心配そうな顔をするから、『また会いたい』って言われているなんて、とても言えなかった。
思わず、会話を反らせてしまう。
「はい……! あ、あの、僕、先に帰ります! ユーミはゆっくりでいいですからっ」
ザットはなぜかモジモジとしながらそう言って、一目散に飛んでいってしまった。
「なにごと? 一緒に帰るから待っててくれたんじゃないわけ? 変なザット」
あまりにも不自然なザットの行動に首を傾げながら、踵を返すと、目の前に腕組をして仁王立ちしている黒い物体が一つ。
「サガラ! こんなところで何をしているの?」
そこにいたのはサガラだった。
「それはこっちの台詞だ! あんまり遅せーから、また迷子にでもなってやがるのかと思って、見に来てやったんだろーがっ」
かなり憮然とした顔でそう言い放つ。
「えーとっ。つまり、心配だから様子を見に来てくれたってこと?」
「ばっ。ち、違えーよっ。暇だったから来ただけだ!」
そうぶっきら棒に言い放ちそっぽを向く。
(サガラってもしかして心配性?)
サガラのその態度が面白くて、何だか笑いを誘われる。
「なに笑ってやがるっ」
私の様子を見て、サガラはムッとした様子でますます不機嫌そうな顔になる。
「何でもない。まだ買うものがあるの。サガラ買い物付きあってよ」
「はぁ!? 何で俺が」
「帰ったらおいしい夕飯作るから。久しぶりにいいでしょ?」
最近はザットと二人で買い物に行くことが多くて、サガラと二人でっていうのは久しぶりだ。
サガラの顔を覗き込んでお願いしてみる。
「し、仕方ねーな。サッサと行くぞ」
「へへっ。ありがと」
“おいしい夕飯”という単語に、サガラはやっと機嫌を直したらしく、市場へとスタスタと歩き出す。
「迎え来てくれてありがとね」
それに追いついて、私は言いそびれていた言葉を口にする。
「……別に」
私の言葉に不意打ちをくらったように驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの仏頂面で素っ気なく答え視線を外す。
その横顔が何だか赤かったのは夕日の所為だけじゃないはずだ。
そんなサガラの様子に、何だか妙にこそばゆい気持ちになる。
(最初は大嫌いな奴だったはずなのに。変なの)
わざわざ迎えに来てくれたことが、思った以上に嬉しいと感じている私がいるのだった。
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