資産家独居老人の道楽7
剛田甚左衛門と渋沢歳三の前には和洋中さまざまな料理が運ばれて来た。
剛田が選りすぐりの料理人たちを特急で呼び寄せて調理させたものだ。
「いや、剛田さん!こんなに美味しいものを初めて食べました」
「確かに今日は格段に美味いのう」
剛田は日本酒を飲んでいる。
獺祭という日本酒だ。
渋沢は赤ワインを飲んでいる。
剛田の勧めでロマネコンティをちびりと恐る恐る飲んで食事していた。
「剛田さん、こんなに貴重なワインを頂いてよろしいのですか?」
「立ち会えば渋沢殿に勝つのは至難の業じゃろうて。飲まずに置いておくのはもったいないからのう。ワシも少しもらおうかのう」
ソムリエが剛田の前にワイングラス置きロマネコンティを注ぐ。
「いや、本当にどれも美味しい…。というか美しい料理ですね」
「なかなか詩的な表現をするのう」
程なくすると水波がスッと現れた。
「どんな状況なのじゃ?」
「万事完了しました。渋沢さまのご家族をお連れしてよろしいですか?」
「よい、席を用意するのじゃ」
席が用意され水波に連れられた渋沢の妻と息子と娘が部屋に来た。
「あなた!」
渋沢の妻が歳三に抱きついて泣いた。子供たちも寄り添い泣いている。中学生と高校生くらいに見える。
場が落ち着くのを待ち剛田が声をかける。
「さあ、腹も減っておろう、遠慮なくたべるのじゃ」
剛田と渋沢は食事を終えて茶を飲んでいる。
「しかし奇縁じゃのう。この様な出会い方があるとは」
「そうですね。剛田さまにはなんとお礼を言えば良いのかわかりません」
「水波よ組織は全て殲滅できたのかのう?」
「いえ、半数以上には潜伏されてみつかりませんでした」
「よい、ご苦労」
それからしばらくして渋沢の家族も食事を終えてデザートを食べながらティータイムになった。
「さて、渋沢殿酔は冷めたかの?」
「剛田さま本当にご馳走でした。酔いは冷めております」
「うむ、少し待ってくれんかの」
剛田は席を外し部屋を出た。
しばらくすると日本刀を片手に部屋に戻って来た。
「剛田さま、その刀からただならぬ気配を感じます」
「大包平じゃ」
「レプリカでしょうか?」
「ここだけの話し本物なのじゃよ」
剛田はスラリと抜刀して見せた。
「やはり美しい刀ですねえ」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「まさか!大包平で立ち合いをしてくださるのですか?」
「お主ほどの剣客を相手にするなら大包平しかあるまいて」
「恐悦至極に存じます」
「さて、渋沢殿は酒は何が1番好きかの?」
「今日は晴天ですし、日高見が飲みたいです」
「おい、日高見を持ってきてくれんかの?ワシは吉野の八咫烏をくれ」
盃が2つ用意されて、それぞれに一口程度の酒が注がれる。
「さて、始めるかの」
そう剛田が言うと2人は盃を煽った。
「剛田さん!どうしても話したいことがあるの!」
「なんじゃ、アキ後にしてくれんかの?」
「後があるかわからないから今言いたいのよ!」
「アキよそれは死亡プラグが立つからやめてくれんかのう」
「それを言うなら死亡フラグでしょ!剛田さんの馬鹿!」
剛田甚左衛門の日本庭園は広い。
そこに2人は立っていた。
渋沢歳三は腰から剣を抜いた。
「なんじゃ、その刀は?」
「すみません、剛田さま。この刀は無銘なんです。江戸時代中期に打たれたものとだけ」
「うむ、凄まじい刀じゃのう」
剛田も大包平を抜く。
相対する2人。
渋沢歳三はおもむろに上段に構えた。
「蜻蛉の構えかのう」
お互いに1歩踏み出せば刀が届く距離であった。
庭に烏が1羽舞い降りて来た。
また1羽、また1羽、8羽の烏が集まり鳴くことも無く、じっと庭に佇んでいる。
「鳴いて烏の、飛んで烏の、落ち着くところがない」
剛田甚左衛門がそう呟くと8羽の烏がカアと鳴きながらいっせいに羽ばたいて飛び立って行った。
それを合図にするかのように2人は太刀を振り下ろしていた。
「ちぇすとー!!!」
渋沢歳三の声が響き渡る!
剛田甚左衛門は右からの袈裟懸けを放ちながら身体を右へと動かしていた。
ほんの刹那の刻である。
渋沢歳三の無銘の刀は剛田甚左衛門の左腕の肘から下を両断していた。
右腕1本になった剛田甚左衛門は渋沢歳三の左肩口から大包平を振り切る。
渋沢歳三の鎖骨の指5本下の辺りで大包平は止まった。
「あなた!!」
渋沢歳三の妻が叫ぶ!
「取り乱すな!」
塩澤琢磨が大慌てで白い紐をもって剛田甚左衛門の止血をする。
「見事じゃ」
「剛田さまには敵いません」
「何か言い遺すことはあるかの?」
「家族のことが気がかりでなりません」
「それはワシに任せてくれんかの」
「剛田さまに感謝という言葉では表しきれない念でいっぱいです」
「いやまったくかまわんのじゃよ」
「剛田さま最期にひとつ願いがあります」
「申してみるがよい」
「日高見をどんぶり1杯頂けませんか?」
「お安い御用じゃのう」
どんぶりに波々と注がれた日高見が渋沢歳三に渡される。
渋沢歳三はグイッとどんぶりの日高見を飲み干し、左肩口に切り込まれた大包平を自らの手で引き抜いた。
肩口から天に届くかのように噴き上がる血飛沫を浴びながら渋沢歳三は絶命した。
「本物の漢じゃったのう」
そう呟いた剛田甚左衛門は倒れ込んだ。
慌てて剛田を支える塩澤は大声で叫んだ!!
「メディーーック!!」
ストレッチャーに乗せられた剛田甚左衛門は医務室へと運び込まれた。
「輸血の準備を!!」
そして手術室に運ばれて赤く手術中という明かりが灯った。
それからしばらくして剛田甚左衛門は病室に移動したのだが、アキが何度行っても面会謝絶だった。
それは1か月も続いたのであった。
ワシは知らない天井を見ていた。
左腕の感覚があるようでない。ないようである。
不思議な感じだ。
黒澤惹句と独田中松が何か話しかけてくる。
眠い。
寝よう。
誰かがワシの左腕をいじくりまわしている。
どうでもいい。
ワシは眠いのじゃ。
そんな日が何日続いたかわからなくなったころ。
ワシはスッキリと目が覚めて、腹が減って仕方がなく運ばれて来る食事を食べれるだけ食べた。
渋沢歳三。
ワシの左腕を見事に奪った漢。
ワシは自分の左腕を見る。
「なんじゃこれは?」
なんと!無くしたはずの左腕があるのじゃ!
独田中松が色々と説明してくるが、頭に入ったのはたったひとつ。
義手の名がコブラということだけじゃった。
それから独田中松があーだのこーだの説明してくる。
ワシは聞いて覚えようとするのじゃが、よくわからん。
「剛田さん、もう一度言いますよ。右腕で左腕の義手をこう持って少し回転させます」
「こういう感じじゃのう」
「そのまま義手を引き抜いてください」
ワシが言われたとおりに義手を引き抜くと腕から短剣が生えていたのじゃ。
「なんじゃこれは?」
「これは高周波ブレードです」
「ふむ」
「この根元にスイッチが隠れているので右手で押してください」
「ふむ」
確かに微かに振動してるのう。これが何の役に立つのじゃろうか?
「そのままにしていて、この刀に高周波ブレードの刃を当ててください」
「ふむ」
するとどうじゃ!刀に高周波ブレードがスッーと入って行って刀を両断したのじゃ!
「これは凄いのう!!」
「次にですね、このコブラ最大の隠し兵器がこちらで…。」
もう独田の話してることはさっぱりわからん。
「やってみるかのう」
人間の等身大のモデルが置かれて、ワシは言われるとおりに右手に持った義手コブラのスイッチを押した。
バンッ!!
ドンッ!!
「これは面白いのう!どうやって発明したのじゃ?」
「これはですね!スーパー………。」
やはり独田言うことは良くわからん。
わからんがワシは近接戦闘特化型になったと言うことは理解出来る。
ようやく退院じゃ。
ワシが部屋を出るとアキが泣いていた。
「どうしたのじゃ?」
「何度面会を頼んでも、会わせられないって言われるから…。」
「ワシは生きておる。何を慌ててるのかのう」
「剛田さん…。聞いて!私妊娠したの!!」
「なんで早くいわんのじゃ!!びっくりするわい!!」
「後にしろって言ったの剛田さんじゃないの!」
「そうじゃったかのう」
「死亡プラグが立つからとか言ったの覚えてないの?」
「アキよ…。それを言うなら死亡フラグじゃろう」
何故かアキは呆れたような顔をしていたのじゃ。
なんでなのかのう。
さて、渋沢歳三のために庭に立派な墓を建てなければのう。
そして渋沢家族の安全をどう保とうかのう。
考えることは沢山じゃ。
待てよ。
アキが妊娠したと言うことは、初めてのワシの子ではないか!
「アキよ!!本当に感謝じゃ!!快気祝いでもするかのう」




