第五章 天界、入口が詰まる
天界では、会議だけが順調に進んでいた。
「本件は重要ですので、専門部会を設けましょう」
「その前に、設置の是非を検討する会議が必要です」
「議事録の様式が未確定です」
雲の廊下には、『検討中』『差し戻し』『次回以降』の札が、クリスマスの飾りのようにぶら下がっている。
一方、天界の門前。
そこには、行列ができていた。
善男善女――正しく働き、誰かを助け、規則を守り、嘘をつかず、偶然に頼らず生きた者たちだ。
「受付はどこでしょうか」
「順番はいつになりますか」
門番の天使は、困った顔で答える。
「ただいま、内部調整中でして……」
中に入れない。理由は明確だ。
最終受け入れ決裁が、下りない。
「神様がいないから?」
「はい」
列は伸びる。
「地上では、ちゃんとやればちゃんと報われました」
「だから、ここに来たんです」
その声に、門番は何も言えない。
天界内部では、別の会議が始まっていた。
「善人が溜まっている件について」
「問題です」
「しかし受け入れるには決裁が」
「神様不在では——」
「では、例外処理は?」
「例外は前例がない」
雲が、重く垂れ下がる。
その頃、門の外。
「……待つのも、正しさのうちでしょうか」
誰かが、ぽつりと呟いた。
列の後ろでは、不満が形になり始めていた。
怒鳴る者はいない。暴れる者もいない。
ただ、
「約束が違う」
という静かな声だけが、確実に増えていく。
天界は気づいていなかった。
善人の忍耐にも、限度があるということに。




