第四章 魔界、仕事が楽になる
魔界では、変化は数字として現れた。
「入界者、三割減です」
帳簿を抱えた下級悪魔が報告する。
「減った?」
「はい。しかも内訳が綺麗です」
別の悪魔が補足した。
「言い訳型が消えました」
かつて魔界にやって来る魂は、実に多様だった。
「運が悪かっただけだ」「魔が差した」「たまたま居合わせた」「神がそう仕向けた」
――そう言って、裁定台の前で粘る者たち。
だが今は違う。
「やりました」「知っててやりました」「得になるからやりました」
以上。
「……話が早い」
裁定官の悪魔は、ハンコを一つ押すだけで次に進める。
『神のサイコロ』が止まった結果、偶然に守られていた者は来なくなり、偶然に紛れていた悪だけが、はっきりと浮かび上がった。
「罪の裁定が要らん」
「意図が明確だ」
「証拠提出も自白も揃っている」
魔界の業務フローは、嘘のように改善した。
待ち時間は半分。差し戻しは激減。再審請求はほぼゼロ。
「こんなにスムーズでいいのか?」
魔神は、珍しく眉をひそめた。
「悪は、もっと面倒なものだったはずだ」
部下の悪魔が答える。
「偶然がないと、悪は覚悟を決めて来ます」
別の悪魔が言う。
「『たまたま』がないので、迷いがありません」
魔神は腕を組んだ。
「つまり――」
「はい」
「本当の悪人しか、ここへは来ない」
その頃、地上では“運が悪かった”と言えない者たちが、別の選択を始めていた。
正しく生きるか。悪く生きるか。
どちらにせよ、自分で決めるしかない。
魔神は、城の高窓から下界を見下ろし、静かに呟いた。
「神よ」
返事はない。
「……いや、今は“無職”だったな」
魔界の時計は、正確に進んでいた。




