第二章 天界、小田原評定に沈む
天界・第一会議殿。雲でできた長机をぐるりと囲み、天使たちが勢ぞろいしていた。
議題は一つ。
『神様捜索方針について』
「ではまず、現状確認から始めます」
書記天使が羽根ペンを構えた。
「神様がいなくなった事実は確認されたのか?」
「確認された」
「その確認は誰がした?」
「私だ」
「その確認手順や結論は書面に残っているか?」
「……残っていない」
ざわり、と雲が揺れる。
「では“いなくなった”と断定するのは尚早では?」
「いや、置手紙が——」
「置手紙が本当に神様直筆かどうかの鑑定は?」
「まだだ」
「ではまず鑑定班を立ち上げる必要があるな」
「その前にだ!」と、別の天使が立ち上がる。
「捜索の目的を明確にすべきだ。連れ戻すのか、それとも説得するのか」
「説得とは具体的に?」
「業務量の見直しを約束する」
「どの程度?」
「検討する」
「検討とは具体的に?」
「見直しするといっても、裁定の責任者を増やすのか?」
「役職が増えることになるぞ」
雲がもう一段、低くなる。
「待て。そもそも捜索を開始する権限は誰にある?」
「神様だ」
――沈黙。
「……つまり?」
「神様不在のため、捜索開始の最終決裁が下りない」
誰かが咳払いをした。
「では、暫定的に副神代理代行補佐心得を置いてはどうか」
「その任命権限は?」
「神様だ」
再び沈黙。
「整理しよう」
最年長の大天使が重々しく口を開いた。
「現状、神様はいない、神様の決裁が必要、神様を探すにも決裁が必要という三点が同時に成立している」
「詰んでませんか?」
若手天使の素朴な一言に、会議殿が凍りついた。
「その発言は議事録に残さないでくれ」
「なぜです?」
「後世に残ると困る」
その時、伝令天使が駆け込んできた。
「報告です! 地上から祈願が溜まりすぎて、処理待ちが山を越えました!」
「山を越えた?」
「はい、比喩ではなく物理的に」
誰かが頭を抱えた。
「……では本日の結論をまとめる」
大天使は、堂々と宣言した。
「神様捜索については、引き続き検討を続ける」
「捜索は?」
「次回議題だ」
こうして天界は、最速で結論を先送りするという神業を成し遂げたのであった。




