第十三章 地上、老後が長すぎる
地上では、善男善女の平均寿命が、統計として無視できないほど伸びていた。
「また更新しました」
役所の職員が、淡々とグラフを差し替える。
右肩上がり。しかも下がる気配がない。
問題は、死ななくなったことではなく、老後が終わらなくなったことだった。
「年金の支給期間が想定を超えています」
「医療費も比例して増加しています」
病院は混み合う。だが緊急性は低い。
「命に別状はない」
「ただ、完治もしない」
そんな患者が、静かにベッドを占め続ける。
社会は、対応を迫られた。
定年の延長。高齢労働者の再雇用。
「経験はあります」「判断も慎重です」
評価する声がある一方で、
「……まだ、働かなければならないのか」
という声も、確かにあった。
「正しく生きてきた」
「無茶もせず、誰かを傷つけず」
「誰かを騙したりもしなかった」
それでも、終わりが来ない。
「老後は、休む時間だと思っていた」
誰かの呟きが、多くの人の胸に落ちる。
地上は今、努力が報われる世界の次に来る、持続可能性という問いに直面していた。
長く生きることは、祝福だ。
だが――
長すぎる人生は、制度を先に疲れさせる。
遠く魔界の城。
「善人が、生きすぎている」
魔神の言葉に、神様は答えない。
「これは罰か?」
「それとも、成功か?」
神様は、ゆっくりと首を振った。
「……どちらでもない」
そう言って、空を見上げる。
「設計が、追いついていないだけだ」
地上では今日も、終わるはずだった老後が、静かに、延びていく。




