第十一章 天界、やり方が変わる
天界の変化は、奇跡ではなく――
書類から始まった。
「この項目、重複しています」
「こちらは後段でまとめて確認した方が早い」
「この手順は自動化できます」
魔物たちの助言は、実務的だった。
派手さはない。徳も罪も語らない。
ただ、
「無駄です」
その一言が、天界に刺さった。
書類のフォーマットが整理される。処理ルートが一本化される。差し戻しの理由が明文化される。
時には議論になるが、良くしようという建設的な議論。
結果――
目に見えて、業務が進み始めた。
「今日、三倍処理できました!」
若い天使たちは、素直に喜んだ。
「説明しやすい」
「案内で怒られなくなった」
彼らは知っていた。
やり方が変わっても、正しさは減らないことを。
だが、全員がそうではない。
「……魔物の言うことなど、聞けるか」
古株の天使が、雲を睨みつける。
「我々は何千年も、このやり方でやってきた」
「それを、下界と魔界の論理で変えろと?」
若手が口を開く。
「でも、列は減っています」
「たまたまだ」
「処理速度も——」
「一時的なものだ」
議論は、噛み合わない。
効率。伝統。
どちらも、天界にとっては正義だった。
廊下では、
「若いのは魔物に染まっている」
休憩室では、
「古い人は現場を見てない」
声が、少しずつ分かれていく。
天界に、世代間の分断が、静かに芽吹き始めていた。
魔物たちは、それを黙って見ている。
「……どこも、同じだな」
誰かが呟いた。
正しさを守る者と、回すことを選ぶ者。
天界は今、変われるかどうかの瀬戸際に立っていた。




