出会い
「あっ あたし今フード付きの赤いポンチョコートを着てる。フードの顔まわりと袖口に白いファーが付いてる。カワイイ…似合ってるかな?」
他の人には見えないそのポンチョコートとっても気に入ってしまった。
うん…?誰か見てる…その視線の主に気付く…少し驚いた様な表情…同じ神秘倶楽部の伊織先輩…もしかして見えてる…
そういえば伊織先輩がマント羽織っているのを見た事がある…でも先輩は気付いていなかったと思うのだけど…そう思いながら先輩を見ていると目線があった。
いつも先輩と目が合うと思うのだけど凄く懐かしい気がする。あたしは挨拶のお辞儀をすると、その場を離れた。人の少ない所に来ると後ろから先輩に呼び止められた。
「唯さん」
神秘クラブの殆どの先輩達が後輩達を名前呼びしている。あたしの場合男性先輩からは唯さん女性先輩からは唯ちゃんと呼ばれている。
「伊織先輩 どうしました?」
戸惑いがちに先輩が話しかけてきた。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
「何でしょう?」
「何か‥おかしな事言っているって‥おかしな人かもって思われるかもしれないけど、どうしても聞きたいんだ…さっきポンチョコート着てなかった?」
「赤のフード付き ファー付きのポンチョコートですよね?」
先輩が頷く。
「着てましたよ…あれがやっぱり見えてたんですね。」
「ああ…」
「あたし似合っていました?」
戸惑った様だったけど先輩は頷いてくれた。
「ありがとうございます。先輩もたまにマント羽織ってますよね…」
その質問に先輩は大きく瞠目した。
「ああ…最近解り出した。これは一体何の前触れなんだ。もし 知っているなら教えてくれないか…?」
「あたしに聞くよりこのまま真っ直ぐ帰ってお父様かお祖父様に聞かれた方が良いと思います。
あたしは天羽 唯この学院の高学科ニ年。目の前にいるのは帝学科四年の花京院 伊織先輩
この世界は不思議な事が沢山ある。それを認めない人は多い‥でも確かにある。不思議な現象‥不思議な出来事…皆んなが幸せな事を考えれば世界も皆んなの思いで幸せになる…そう思う。あたしはその不思議な世界の人間…皆んなには秘密だけどね…そして目の前にいるこの人はその力に目覚めたらしい同じ世界の人間…
「伊織先輩 本当にきょうは部を休んで真っ直ぐご自宅へ帰られた方がいいと思いますよ。」
「でも…あっ‥」
先輩は空を見る。先輩の周りに白い光が舞う
「気付きましたか?貴方を守るモノです。やがて型を成し先輩を護る者となります。自宅へ帰る様にと促しています。部の方には体調不良の伝言を頼まれたと伝えておきます。」
彼は今目覚めたのだとわかった。『自宅へ』という声が聞こえる。対処は自然に出来るだろうけどこの力は大きい…直ぐに自宅に戻って補助協力をして貰う方がいいと思った。
「先輩を自宅迄 送って…」
あたしは近くにいた友人兼護衛に声を掛けた。
次の日 伊織先輩はお休みだった。よくは見なかったが、伊織先輩の力はかなり大きかった。一度にあの大きな力が目覚めようとしていた。そして守るモノも一気に型を成そうとしていた…その分先輩の身体に負担がかかる。気力と体力が一気にもっていかれる。大変だっただろうなと思う。
この学院では倶楽部活動は高学科と帝学科と一緒に活動している。先程の伊織先輩は同じ神秘倶楽部の先輩である。伊織先輩は今まで見えてる様には思えなかった…突然の目覚めが目の前で起こった。目覚めは何度か見た事があるが、先輩があれだけの大きな力を持っているとは思わなかった。これから大変だろうなと思う。
「ああ 最近分かりだした。」
と先輩は言っていなかったか…普通は徐々に自分の力を自覚していく‥そして目覚める…なのに急に何故 目覚めが起こったの…?…あたし…そう思った時ドキッとした。もしかしてあたしと接触したから…?あたしの力が何らかの作用を起こし先輩は急に目覚めた。おそらくそれで間違いないだろう。あたしの中でもう一人のあたしが納得する。多分 伊織先輩はあたしと何らかの縁がある人‥近いうちに分かる‥誰かがそう教えてくれた。
翌々日先輩は倶楽部に姿を見せた。体調不良で二日間寝込んでいたと他の先輩から聞いた。意外に元気そうだったので少しホッとしたけど、顔色が悪かった。体力が回復していないのだろう。一度あたしの力を少し先輩に流して乱れている気流を正せば、体力も回復するし身体も楽になるんだけどなぁ…
倶楽部ではいくつかのグループに分かれていろんな現象を話し合ったりしている。あたしは伊織先輩のグループではないので、グループの大和先輩の所で話し合いに参加していた。
今の時代 知らない内に色々なモノをつけて体調が悪くなったり、顔がいつもと違っていたりする人もいる。また何かいいモノの守られて生き生きとしていたり、体調が回復したりする人もいる。その時は感謝を…お礼を
「有難うございます。」
と心で念じれば、その人の心も安らぎを覚えもっと楽しくなるのになと思う。そんな話し合いをしていた。
でもあたしはあたしの席から丁度伊織先輩が見えるのでその顔色が気になっていた。倶楽部の時間が終わりあたしは外に出た。先輩は車で来ているので駐車場迄の道は大概一人だった。その先輩に声をかけた。
「伊織先輩 顔色が悪い様なのでこの飴舐めて下さい。」
先輩の掌に体力を回復する力を流した飴を載せながら指先で少しだけ先輩の掌に触れ直に力を流した。そうして先輩にもう一度声をかける。
「その飴直ぐに舐めて下さいね。楽になりますから…」
同じ飴をあたしも口に入れる。それを見て先輩も笑顔でその飴を口に入れた。
あたしはそれを見届けてその場を離れた。
そんなある日 王子殿下のお妃選びのパーティーがあるから出席するようにと両親に勧められた。あたしは欠席を伝える。両親の大きな溜め息が聞こえた。
「今はまだいいけど 貴女はいずれ誰かと必ず結婚をしなければならない。貴女に結婚しないという選択肢は許されない。それは分かっているわよね。」
お母様が言った。
「はい…それは小さい頃から納得しています。」
あたしは答える。
「それならいいわ。でも卒業迄一年…婚約も結婚もしないで許されるのは、そこまでよ。でもねできるなら自分で選ぶことができるのが幸せよ。」
お母様はそう言ってお父様と腕を組んで出掛けて行った。あたしは仲の良い両親の後ろ姿を笑顔で見送った。




