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異世界で精霊使いになったけど、俺の使えるスキルは地図だけでした  作者: 長野文三郎


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第5話 請われて飛び出す地図画面

本日二本目


「あの、すみません」

「…………」


 隣の席に座っていた俺に突然話しかけられて、二人は無表情に見つめ返してきた。

 こちらを警戒しているのかもしれない。

 やや気後れしてしまったけど、もう話しかけてしまったのだ。

 ビワールの生えている場所について、伝えられることは伝えてしまおう。


「いきなり話しかけてごめんなさい。ただ、ビワールの話が聞こえてきたものですから、ちょっとお耳に入れておいた方がいいかな、と思いまして……」


 爺と呼ばれていた紳士が静かに口を開いた。


「どのようなお話でしょう?」

「えっと、クレスタの森にもスイフト山にもビワールはありません。行くのでしたらカムリの森です」


 二人は無言のまま穴が開くほど俺を見つめている。

 気まずい沈黙がややあってから、紳士の方が反応を見せた。


「ほぉ、あなたはそこでビワールを見たことがあるのですか?」


 見たことはない。

 だが、あることはわかるんだよね。

 地図スキルの実力は9200レーメン分のコインを拾ったことで証明済みだ。


「私はちょっと変わったスキルを持っておりまして……」

「スキル? 特殊な魔法かなにかでしょうか?」

「あ、そんな感じです」


 実際に地図を見せて説明した方が早いな。

 よし、地図画面を見てもらうとしよう。


「これを見てください」


 俺は地図画面を開き、二人に見えるように方向を変えた。


「この赤いマークがビワールのあるところです」

「…………」


 あれ、反応がないな?

 驚きのあまり言葉を失っているのか?

 ややあってお姫さまの方が初めて口を開いた。


「爺、この者は大丈夫か? 先ほどからずっと挙動不審ではあったが、治癒士のところへ連れていってやった方がよいのではないだろうか?」


 紳士の方も悲し気に首を横に振っている。


「いえ、姫さま。このような者の病は治癒士でも治せませんでしょう」


 え、俺が病人扱いされている?

 あ、もしかして二人には地図が見えていないのか!

 そういえば、俺が地図を開いていても街中で気にする人はいなかったな。

 そうか、だとしたら不審者扱いされたとしても仕方がない。

 虚空に向かって指を動かし続けていたんだから……。


「姫さま、そろそろ部屋に戻りましょうか?」

「うむ、そうであるな」


 って、このままじゃ非常にバツが悪い。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 なんとかならないかな。

 お、地図画面の隅に歯車マークの設定ボタンがあるな。

 ここをタッチして……、あった!

『他者への可視化』


 これをオンにすれば……。


「え……?」


 お、二人が俺の手元を見ているぞ。


「爺、これは我が国の地図であるか?」

「そのようでございますな」


 ふう、これでようやく説明ができるぜ。


「おっしゃるとおり、これはロウンド王国の地図です。そして赤いマーカーが指し示しているのがビワールのあるところ。この国にあるのはこの五か所だけです。お二人が話していたクレスタの森にもスイフト山にもビワールはありません。行くとしたらカムリの森をお勧めします。ここからいちばん近いですから」


 俺が説明している間も二人はじっと地図を見つめていたが、しばらくすると紳士の方が俺の方を見て丁寧に頭をさげた。


「先ほどは失礼いたしました。わたくしはフェリ・ドロナックと申します」

「あ、自分は神谷正太です」


 自分の名前を名乗ったところでお姫さまの方を見たのだけど、かるく頷いただけで名乗ってはもらえなかった。

 身分を明かしたくないのかもしれない。


「カミヤさま、少し場所を変えませんか。我々の部屋でワインでも飲みながら少しお話させていただければありがたいのですが」


 きっとビワールについて聞きたいことがあるのだろう。

 それに、安い宿にいるとはいえ男装のお姫さまはかなり身分が高いようだ。

 人目をはばかることがあるのかもしれない。

 どう見たってこの二人は訳ありだ。

 夜は地図スキルでいろいろと検索して遊ぼうと思っていただけだから、断る理由はない。

 それに、俺はお酒も好きな方だ。


「わかりました。お部屋にうかがいましょう」

「ありがとうございます。姫さま、よろしいですね?」


 やはり姫さまは一言も話さず、コクリと小さく頷くだけだった。



 通された部屋は俺の部屋より大きかった。

 ダブルベッドにソファーとテーブル。

 小さな机と椅子もついていた。

 姫さまはソファーに浅く腰掛け、俺には椅子があてがわれる。

 ドロナックさんは立ったままのようだ。


「どうぞ、お召し上がりください」

「いただきます」


 やや酸味の強いワインだったけど香りはよかった。

 この世界においては高級な部類に入るのかな?

 まあ、俺はグルメじゃない。

 どの世界で飲んでも、ワインの良し悪しなんてわからない人間だ。

 ようは俺自身が美味しく感じるかどうかが肝心だと思っている。

 そういう意味において、このワインは上々だった。

 グラスに口をつけていると、ドロナックさんが姫さまの耳元でなにかを囁いた。

 姫さまもウンウンと頷いている。


「うむ、うむ……。そうであるな」


 やがて、話は終わったようで姫さまがこちらを向いた。


「カミヤよ、よく来てくれた。礼を言うぞ」

「いえいえ、そんなことは……」


 なかなか態度の大きなお姫さまだな。

 まあ、お姫さまだから仕方がないのか。


「わらわはブラックラ公爵家の長女、パレス・ブラックラだ。見知りおけ」

「これはご丁寧に……」


 あんまり丁寧じゃないけど、そう言っておいた方がよさそうだ。

 公爵家ってことは王族だよな?

 だったらこの態度だって仕方がないか。

 でも、王族がなんでこんな安い宿に泊まっているんだ?

 俺の部屋よりは広いけど、この部屋だってスイートルームとはいかないぞ。


「うむ、以後直答を許す。質問に答えてくれればありがたい」


 直答を許すってことは会話をしてもいいってことだな。

 許される前に話しちゃったけど、気にしていないみたいだからまあいいか。


「承知しました。それで私にお話とはなんについてでしょう?」

「それはもちろんビワールについてだ。わらわはどうしても自分の手でビワールを持ち帰らなければならぬのだ。いまは手元不如意であるが、ビワールを手に入れたら必ず褒美をとらす。協力してほしい」


 ずいぶんと必死だな。

 おそらく事情があるのだろう。


「わかりました。ビワールの生えている場所ならお教えしますのでご安心を」

「おお、ありがたい。それではさっそく先ほどの地図をもう一度見せてくれぬか」

「承知いたしました。御覧に入れましょう」


 請われて飛び出す地図画面。

 俺はなるべく優雅な手つきを取り繕い、もったいぶった様子で地図を二人に見せるのだった。


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