第40話 レジェンド
朝食をとりながら話し合いは続けられ、ブラックラ家もダンジョン優先開拓に参加することが決まった。
これでお宝が見つかれば、誕生日パーティーにかかる費用の足しになるかもしれないし、場合によってはとんでもない儲けになることだってある。
というか、そんなお宝があれば俺が必ず見つけだすつもりだった。
宮廷に行くということでブラックラ公爵は出かけていった。
室内に残っているのは俺と姫さま、レミィとドロナックさんだけだ。
俺はさっそく地図を開き、画面をロウンドナダンジョンに合わせてみた。
だが、表示されるのはダンジョンの地表部分だけである。
現地に行かないと内部の様子はわからないのかな?
いや、そんなことはない。
よくみると画面の右側に階層の切り替えボタンがついているぞ。
こんなところも地図アプリにそっくりである。
「へぇ、ロウンドナダンジョンって二十五層もあるんですね」
階層切り替えボタンはB1~B25まであるから、きっとそういうことなのだろう。
何気ない一言だったのだが、姫さまとドロナックさんは驚いている。
「カミヤ……、その話は本当か……?」
「はい。あ、でも、内部の構造がわかるのは地下八層までですね。それより下は情報が出てきません。現地に行くか、魔力贈りをすればわかるかもしれませんが」
情報は少しずつ送られてきているけど、回線速度が上がらないスマホみたいに反応は鈍い。
いまここで精霊たちを酷使するのはよくないので、俺は八層より下の情報を閉じた。
「すまないが、七層の地図を見せてくれないだろうか?」
俺は画面を可視化して姫さまたちに向けた。
「すごい……。これさえあれば探索はかなり楽になるぞ」
「カミヤさま、これを描き写してもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。というか、ダンジョンには俺も同行したいのですが、よろしいでしょうか?」
一瞬だけ言葉を詰まらせた姫さまが大声を上げる。
「ならん!」
「どうして? 俺がいれば内部の構造は完璧に把握できますし、魔物の位置だって特定できますよ」
「それでもだ! ダンジョンは非常に危険な場所なのだ。まんがいちにもおぬしを失うようなことになれば……」
助けを求めてドロナックさんの方を見た。
だけど、ドロナックさんも難しい顔をしている。
「カミヤさまが姫さまとご一緒してくだされば、こんなに心強いことはありません。ですが、ダンジョンは非常に危険なことも事実です。カミヤさまはブラックラ家にとっては大恩人であり、いまでは欠かせない重要人物でもあります。私も判断に困るところです」
「あのですね、俺は魔物だけではなく、宝箱の位置も検索できるのです。財宝が存在するのなら確実にその場所を特定します。どうか俺を連れて行ってください」
誰もが口を閉ざし、重い沈黙が食堂を満たしていく。
静寂に耐えられなくなったレミィが口を開こうとしたとき、姫さまがポツリとつぶやいた。
「ティアミンに頼もう」
「ティアミンさんに!? しかし、それは……」
どうしたというんだ?
かつて見たことがないほど、スーパー執事さんがうろたえているぞ。
ティアミンという人物はそれほどすごい人なのだろうか?
「ティアミンさんというのはどういった方なのですか?」
「祖父の乳母をしていた人だ」
姫さまのおじいちゃんの乳母?
だったらかなり高齢なはずだな。
「おいくつくらいの人ですか?」
「たしか、今年一一八歳になるはずだ」
ご長寿番付に載るくらいじゃないか!
「そんなご老人に頼るってどういうことでしょうか?」
「ティアミンは祖父の乳母であり、ドロナック家の親衛隊長でもあった人だ。あの頃のドロナック家は隆盛を極めていたのだが、その半分はティアミンのおかげといっても言い過ぎではない」
そんなすごい人なんだ……。
「ですが、一一八歳の老人をダンジョンに連れて行くのですか? さすがにそれはまずいでしょう」
「いや、ティアミンなら大丈夫だと思う。それにティアミンは強化魔法や防護魔法が得意なのだ。彼女がいればカミヤが傷つくことはないと思う」
「それにしたって一一八歳のおばあちゃんですよ。ダンジョンまで歩けるかだってわからないじゃないですか」
だけど、ドロナックさんは苦し気に首を横に振る。
「ティアミンさんなら平気です。たとえオーガの小隊が現れても瞬殺でしょう」
「は……?」
「私を鍛えたのはティアミンさんです。剣だけの勝負ならいざ知らず、魔法も組み合わせられるといまだに勝てる気がしません」
ドロナックさんをして、そこまで言わせるばあちゃん!?
すごすぎだぞ……。
「問題はティアミンさんが協力してくれるかどうかです。歳のせいか気難しくなってしまいましたから」
「わらわから頼んでみよう」
主家のお姫さまの依頼なら断れないか。
「それなら大丈夫そうですね」
「いや、それはわからない。ティアミンの気が向かねば、わらわが頼んでも断られるだろう」
「そうなのですか!?」
「ブラックラ家を衰退させた父をティアミンはよく思っていない。私のこともな。ティアミンが認めているのは亡くなったお母さまとソフィア姉さまくらいのものだ」
気難しいおばあちゃんということか。
「とにかくティアミンのところへ行ってみよう。カミヤも一緒に来てくれ。二人を引き合わせたい」
「承知しました。ティアミンさんはロウンドナにお住まいですか?」
「そうだ。というより、この屋敷に住んでいる」
そうなの!?
もう何か月もここにいるけど、一度も見たことがないぞ。
「あの、ティアミンさんはどちらに」
「地下だ」
姫さまの人差し指が下を向いていた。




