冴羽瑠奈は想い悩む
冴羽瑠奈は、デスクライトを灯しながら机に向かっていた。
ピンク色の壁紙や可愛いらしい装飾品で囲まれた一室は、柔らかな雰囲気を纏っておりいかにも女の子といった空間に仕上がっている。
「はぁー……」
瑠奈はノートに走らせていたペンを止め、ため息を吐いた。
「先輩の好きな人…………」
昼の一件以来、瑠奈はずっとその事ばかり考えている。おかげで、上司に何度も叱咤されてしまったが、今の瑠奈には大して心に響かないでいた。
諏訪原美緒は、冴羽瑠奈にとって色々な感情が芽生えている存在である。
憧れ。
羨望。
尊敬。
と言った後輩としての感情に一人の女の子としての『好意』も抱いているのであった。
唯一絶対の孤高の存在。そんな諏訪原美緒が、まさかの恋愛相手を感じさせる一面を見せたのだ。それがたとえ恋愛感情じゃなくても、瑠奈からすれば気になっている相手というだけで悩みの種としては十分である。
「ぐぬぬぬ…………」
相手は一体どんな人だろうか。
男でも女でも、諏訪原美緒の傍らで笑顔を振りまいている誰かを想像しただけで、今にも体中が破壊衝動に苛まれていく。
そうして、考えている内に瑠奈は何か覚悟決めた武士のように、表情を変化させた。
「……瑠奈が先輩の一番なんですから」
その呟きは、誰かに向けて威嚇するかのように低く重い声音だった。
「今こそ頑張りどころよ冴羽瑠奈……」
そう呟きと共に、瑠奈は見開きで置かれているノートに再度、ペンを走らせていく。
さっきまで見せていた、上の空の顔つきは無くなり。逆に今は勇猛果敢な戦士のように目を尖らせていた。