最強お姉ちゃんは…
若かりし頃に書いた作品です。
かなり拙いですが、当時一生懸命書いた作品です。
どうか、誰か一人でも感性に刺さりますと幸いです——。
上空に突如、闇色に染まった大穴が現れた。
その大穴から、角を宿した筋骨隆々の者や尻尾を生やした者、妙に魅惑的な者など多数の『魔物』が姿を見せる。
そんな光景を、一人の少女が艶のある長髪をなびかせ睨んでいた。
黒色のパイロットスーツに身を纏い、両腰にはサーベルを備えている。
途端、少女は耳に付けていたインカムを起動させ、口を開いた。
「——ゲート確認。——直ちに討伐に向かいます」
「——了解。——すぐに応援を向かわせます」
「——了解しました」
簡単なやり取りを交わし終えた少女は、両腰に備え付けているサーベルをゆっくりと引き抜く。
姿を露わした剣先。滑らかそうな銀箔を輝かせる。
『ぐげげげげげげ』
エンストした自動車のような不快な音を放ちながら、魔物たちが空から降りて来る。
それを見た少女は一瞬だけ瞼を開かせた。
「あ、……今日は親子丼にしよ……」
自分の方に向かってくる魔物達を見て、少女はそう呟いた。
「——魔導装置起動」
少女の言葉に呼応するかのように、身に纏っているパイロットスーツから神々しい光に包まれていく。
すると、少女は眼前に群がっている魔物たちへ、獲物を逃さまいとする獣のような目を作った。
「——ふん!」
見えない壁を蹴るように少女は足に力を込め、ジェット機のような勢いで魔物たちの中へと飛び込んでいく。
一対多数。
側から見れば明らかに無謀な様にみられた。
しかし、
結果は少女の圧勝だった。
少女は、両手に持つサーベルをしなやかに扱い、魔物たちの首を次々と華麗に切り裂いていったのだった。
時間にして、数分。
気がづけば、顔に多少の返り血が付いた少女が、両手に持つサベールを下ろして立ち尽くしていたのである。
「——もう、終わらせちゃったんですかー? みお先輩ー」
背後からかけられたどことなく気の抜けた声。
少女はゆっくりと首を後ろに回す。
そこに立っていたのは同じく黒色のパイロットスーツを身に付けている小柄な女の子だった。綺麗な青髪を左右で纏められており、クリッとした丸っこい目はまだ幼さを感じさせる。その姿を見た少女は「はぁー」と一つ息を吐いてから、険しい目を向けた。
「瑠奈。ここは遊び場じゃないの。もっと緊張感を持って来て」
「いやー、さっきまではしっかりと瑠奈の胸の中で持ってたんですよ? でも、先輩がすーぐ片付けちゃうからついついどっか行っちゃうんですよー」
瑠奈と呼ばれたその女の子は、左右に纏められた青髪を指先でいじりながらどこか楽観的に応えていた。
「わたしが悪いみたいな言い方しないでよ……」
「まぁー、ぶっちゃけそれもありますよー。だって、先輩は『最強』なんですから」
「……はぁ……」
少女はため息と同時に肩を落とす。
その時、少女達の下方からカーン、カーン、カーンと鐘の音が鳴り響いた。
それに気づいた瑠奈は「あー」と間の抜けた声を出しながらこう言った。
「……もう、五時ですね……」
「——は!」
瑠奈がこぼした言葉を聞いた途端、少女は何か思い出したかのように目を勢いよく開かせた。
一方、瑠奈はそれに気がつくことなく、顔を赤くさせ両手の人差し指をクルクルと空回せ始めていく。
「……ところで、先輩……あのー、ですね……もし、良かったらなんですけど……今夜、瑠奈と一緒に……」
顔と瞳が忙しく動く瑠奈。
「——それじゃ、お疲れさま瑠奈」
「え?」
突然の言葉に瑠奈が顔を少女に向ける。
しかし、目の前にはもう、少女の姿は無かった。
呆然と立ち尽くす瑠奈だったが、徐々に体をプルプルと震わせてき……
「あああああああああああああ! もう! また逃げられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
誰もいない上空で獰猛な叫び声を響かせた。
そんな時、瑠奈の耳に付いているインカムにノイズが走る。
「——瑠奈、今すぐ本部に来て事後報告を。よろしく」
淡々と告げられ、プツッ。と切られた。
「……はぁ〜、……もう、当たり前のように瑠奈の役目になってるじゃん……」
瑠奈は肩を落としながら、上空から下方に広がる総魔市一帯を見下ろす。少女が一目散に降りて行った先である。
「……みお先輩は、どうしてあんなにすぐ帰っちゃうんです……?」
別に仕事が終わればすぐ帰ろうが帰らなかろうが問題はないのだが。それでも瑠奈は、戦闘の時、普段見せないような血相に変えて戦う姿についモヤモヤしてしまうのだ。
「……まぁ、先輩のことだがら他に重大な任務でもあたってるのかも……」
そう言うと、瑠奈の心の中で何かがガッチリとハマったようで、優しい微笑みを浮かべるのであった……。
上空からジェット機のような勢いで地上へ降りた少女、諏訪原美緒。
顔には先の戦闘で浴びた魔物の返り血をつけ、黒のパイロットスーツを身に纏っている彼女は、血相を浮かべながら必死に街中を駆けている。
額から溢れ出ている汗が何度も美緒の目に入ってくるが、それでも美緒は腕で拭いながらも足を止めることはなかった。
住宅街を抜け、車一台分しか通れないような細道を駆け抜けて先。
『諏訪原』の表札がある二階建ての一軒家が見えてきた。
美緒は玄関に鍵を差し込み、ドアノブを捻り家の中へ入っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
自宅に入って早々に両膝に手を乗せながら肩を大きく揺らす美緒。
そのまま視線だけを横に向けると、壁につけられた時計が五時十二分を示しているを確認した。
「……ギリギリになっちゃうなー」
そう漏らした美緒はすぐに、靴を脱いで玄関通路を奥に進んで行く。
美緒はそのまま脱衣所に入り、自身の血を浴びた服と顔を洗うことに。
美緒は全身が泡で埋まるほどくまなく洗い、その間に自身の来ていたスーツは洗剤に浸けていた。体を一頻り洗い終えた美緒はそのままスーツを洗濯にぶち込んで自分の身支度を整える。
その後、ドライヤーで髪を乾かし、自宅だというのにしきり前髪をいじったり、洗面台の鏡でいろんな角度から自分の容姿をチェックして。
「……よしっ」
一つ頷いた美緒は、やっと洗面台から出ると、そのままリビングへ向かう。
美緒はそのまま台所に立つと、夕食の準備を始めていく。
まず冷蔵庫を開け、中を確認する。
すると。
「やっぱり、卵がヤバイ」
卵が入ったパックを手に取り、美緒は少し眉根を寄せた。賞味期限が明日までだったのだ。
「……親子丼にしよ」
先の戦闘中に思いついた料理『親子丼』を作ろうと決めた美緒は、手際良く下準備を進めていく。
その途中。
「……ただいま、お姉ちゃん」
リビングの入り口からかけられた声に、美緒は顔を明るくさせ首を回した。
そこに立っていたのは、桃色の髪を後ろで括り、地元の総魔中学の制服を着ている美緒の妹、諏訪原日夏だった。
「おかえり! ひーちゃ……日夏……」
美緒は思わず口に出してしまうも、すぐに名前を呼び直した。
そんな美緒の姿を日夏は一瞬、鋭い目を向けてくるもすぐに「ん」と頷いて背を向けて歩いて行った。
美緒はほっと息を吐くも、「あ!」と声をあげた。
「日夏! ……今日は、親子丼だよ!」
「うん。……部屋で待ってる」
「あ、」
「なに?」
「いや、……できたら呼びにいくからね……って……」
「うん。お願い」
そう言い終えると、日夏はスタスタと階段を上がっていってしまった。
「…………」
美緒はしばらくその場に立ち尽くす。
すると。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜」
と、盛大にため息を吐いてその場に蹲み込んだ。
「……日夏との距離が縮まらないな……」
抱えた両膝に顔を埋めながら美緒は口を尖らせていた。
「ぅぅ……どうしたらいいんだろう……」
すでに目の端に涙を溜めながら美緒は呻く。
「……ひな、つ……ひくっ……大好きだよ〜……うぅぅ……」
『最強』と謳われている諏訪原美緒——
彼女は大好きなただの『シスコン』であった……。