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ダークコメット(仮)【バンダナコミック01応募シナリオ】

作者: ねると

・タイトル

ダークコメット(仮)


・ジャンル

SFメカ


・あらすじ

2026年8月。突如として海から未知の生命体 モレストゥムが大群で襲来。

人類の生活圏を大きく脅かす。

海底ケーブルの断絶とモレストゥムが噴出する電波妨害ガスにより、各国は連携を取りにくくなり、各国でモレストゥムに対応することになる。

呼応するように複数の都市に隕石が落下。東京南部にも隕石が落ちた影響もあり、政府機能が停止。

各地で自衛隊および私設組織等によってモレストゥム防衛戦が行われていた。

2030年4月。栃木県北部にある私設軍隊 ホープは、近接攻撃と有視界戦闘に特化した対モレストゥム戦闘メカ ミーア(Meer)を開発。

2034年5月。ミーアの量産体制が整い防戦一方であったモレストゥムへの反撃準備が整う。

両親をモレストゥムに殺された天那岐 来流は、モレストゥム殲滅を心に誓い、モレストゥム反撃作戦にミーアライダーとして参加するのだった。


・登場人物

天那岐あまなぎ 来流らいる:ミーアライダー。両親をモレストゥムに殺され、復讐を誓う16歳。

笹峰ささみね 玲華れいか:ミーアライダー。天那岐の幼馴染。

棡原ゆずりはら 祐清ゆうせい:ミーアライダー。天那岐の先輩。

勢合せいごう 諒太りょうた:ミーアライダー部隊長。天那岐の命の恩人。

権堂ごんどう たくみ:ミーアライダーのチームリーダー。

泉川いずみかわ 絆那はんな:モレストゥム研究者。

葉隠はがくれ 征十郎せいじゅうろう:対モレストゥム私設組織 ホープ議長。

村市むらいち 保加ほか:ミーア対策戦略長。


・シナリオ

◯2026年8月、東京お台場・休日(昼)

   家族、恋人、友人達など様々な人々が暑い日差しの中、イベントを楽しんでいる。

   天那岐 来流(8)は母と手を繋ぎ、戦隊ヒーローの武器を模した玩具を持っている。

天那岐 来流「お父さん、ありがとう!」

天那岐 父「ちゃんと勉強頑張るんだぞ」

天那岐 来流「うん。来年はスマホ欲しい!」

天那岐 父「そうか。良い子にしてたら買ってあげるよ」

天那岐 母「まだ、来流にスマホは早いわよ」

天那岐 来流「えー、でもりょうちゃんは買って貰ったって」

天那岐 父「そうなのか」

天那岐 母「スマホじゃくてキッズ携帯のことよ」

天那岐 父「ああ、そうか。防犯という意味では携帯買った方が良いかもしれないな」

天那岐 母「そうねぇ。携帯なら」

天那岐 来流「やったぁ!」

   天那岐 来流が父に抱きつく。

天那岐 母「来流、家に帰ったら、ちゃんと夏休みの宿題やりましょうね」

天那岐 来流「えー」

天那岐 父「今、勉強頑張るって言っただろう」

   天那岐 父は笑顔で天那岐 来流を抱きしめ、顎を天那岐 来流にこすりつける。

天那岐 父「母さんの言う事を聞かない子はこうだ!」

天那岐 来流「わかったよう」

   3人の笑い声。

女性「キャーーー!!!」

男性「うわぁーーー!!!」

   絶叫。横道から複数人が飛び出してくる。

   天那岐 父は天那岐 来流を庇うような動き。

天那岐 父「危ないなあ」

天那岐 母「何かあったのかしら」

   3人が視線を向けた先には体調2メートルほどの巨大な虫のような生物が複数いた。

   横道から何かが飛んできて前方に落ちる。

通行人「えっ!何々、激ヤバなんだけど。バズ間違いないでしょ」

   通行人が逃げる人々をスマホで撮影しはじめる。

   横から巨虫が突撃し、通行人の首をはね、その首が3人の前に転がる。

天那岐 父「うげぇ」

天那岐 母「ひぃ」

天那岐 来流「(絶句)」

   天那岐 来流の眼の前で血が飛び散る。

   首の無い天那岐 父と母が倒れ込む。

天那岐 来流「お父さん、お母さん・・・」

   立ち尽くす天那岐 来流。

勢合「坊主何突っ立ってんだ!」

   勢合は巨虫に攻撃されそうになった天那岐 来流を抱え走る。

   天那岐 来流の手から戦隊ヒーローの武器を模した玩具が落ちる。

勢合「一体、何が起きてるんだ」

   周囲では悲鳴・怒号が飛び交う。

   けたたましくなるクラクション。

   行き交う人々と人間を襲う巨虫。

勢合「何だ、あれは・・・」

   遠方の空を見つめる勢合。その先に複数の隕石。

勢合「クソっ、意味がわからん」

   駐車場へ逃げ込み、勢合のバイクのところで天那岐 来流を降ろす。

勢合「ああ、どうすりゃ良いんだ。おいっ、大丈夫か坊主?」

天那岐 来流「・・・」

勢合「こりゃあ、ダメだな・・・」

勢合(心の声)「本当にお台場とは相性が悪い。財布を落としたのも、彼女と別れたのもお台場だ。仕事だから仕方無く来たが、やっぱりトラブルに巻き込まれた。それにしても、この坊主をどうするか。ここに置いていくわけにもいかないだろう。おそらく一緒にいたのは親だろうし。深く考えても仕様がない」

   勢合はバイクの椅子メットインスペースを開け、ヘルメットとロープを取り出した。

   ヘルメットを天那岐 来流に被せ、ロープで天那岐 来流と勢合をぐるぐると縛り付ける。

勢合「これで何とかなるか?」

   勢合はバイクに跨り、勢いよく駐車場を飛び出す。

勢合(心の声)「こんな状態じゃ、交通ルールを守ってる場合じゃないよな」

   勢合は車の脇をすり抜け、路肩を走り、お台場を脱出した。


***


   巨大な虫のような生物は日本だけでなく世界中で発生。

   モレストゥム(ラテン語で不愉快なもの、迷惑なものという意味)と呼称される。

   その後、海底ケーブルの断絶により、各国とのネットワーク通信が不能となり、電波のみの通信に限られる。

   また、モレストゥムが吐き出すガスが電波障害を発生させることが判明し、電波での通信も断続的となる。

   加えて、モレストゥム襲来時に世界に隕石が落下。

   大都市の多くが隕石によって被害を受け、各国の政府機能が麻痺。

   日本は各地自衛隊基地や私設組織などによってモレストゥムの侵攻を阻止しなくてはならなかった。


***


◯2034年4月、栃木 対モレストゥム私設組織 ホープ 議長室(昼)

   議長室の壁には様々な人物の写真や剥製が飾られている。少し大仰な机の椅子に座る葉隠。報告書を片手に持って立つ絆那。

葉隠「泉川くん、プロジェクトランセンデンスの進捗はどうかね」

   コーヒーを口に運び、ゆったりとした姿勢で話す葉隠。

絆那「現状ではこれ以上進めることは難しいです。あまりに足りないものが多すぎます」

葉隠「我々には時間が無いのだ。うまくできないものかねっ」

   口元に手を当てゴホッゴホッと咳をする葉隠。

絆那(心の声)「時間が無いのは、人類ではなく貴方でしょう」

   絆那は報告書から視線を葉隠に移す。

絆那「モレストゥムの構造や生態についてはかなり把握は進んでいます。けれど、研究機材が無いのは致命的です」

葉隠「ふーむ」

絆那「筑波大学であれば、あるいは・・・」

葉隠「そうか。泉川くんは筑波大学だったね。わかった。そのあたりは影山くんや権堂くんと話して何とかしよう」

絆那「ありがとうございます。研究室の情報が残っているかはわかりませんが、研究室があったのである程度知っていますから。あと、今後実験を続けていくにはさらに検体も必要です。三重らせん構造・・・」

葉隠「その話は何度も聞いたよ。柱が必要ということだろう。人類の未来のためだ。それも何か考えよう」

絆那(心の声)「人類ではなく自分のためだろう。まあ良い。オルガノイド計画Mには今はまだ葉隠の力は必要なのだ」

   葉隠は再びコーヒーを啜る。

葉隠「下がって良いよ。泉川くん」

絆那「失礼します」

   部屋を出ていく絆那。

葉隠(心の声)「ようやくここまで来たのだ。ようやく・・・。苦難を乗り越えてこそ、そこに価値が生まれる。諦めるわけにはいかん」

   葉隠は肘をつき、頭を拳の上にのせ、今後の対策について熟考しはじめた。


◯2034年5月、栃木・福島県境(朝)

   10体のミーア(ロボット)が正座しているような格好で森の中で待機している。

   朝靄がかかっているものの、視界は悪くない。

   ミーアのスネ部分にはキャタピラが設置されており、その状態でこの場所まで移動してきた。

   それぞれのコクピットには緊張感が漂う。

天那岐(心の声)「ようやくだ。父さんと母さんの敵は俺が討つ。モレストゥムは俺が撃滅してやる」

棡原「天那岐、はじめての戦闘だ。気負いするなよ」

天那岐「大丈夫です」

棡原「声が怖いよ。もう少し、肩の力を抜いた方がいいぜ」

玲華「そうだよ、来流。すぐ周りが見えなくなるから」

   両手で視野が狭まるジェスチャー。

棡原「まあ、今回は内陸部だし、強さはランクCだから、窮地になることはないだろうだろうけど。はじめて実物のモレストゥムを見ると、思っている以上にデカて威圧感はあるから、ヤバいと思ったらすぐに下がれよ」

天那岐「はい」

棡原「あとは囲まれないことだな」

天那岐「わかってます」

棡原「ほんとにわかってんのかねぇ。笹峰、天那岐のサポート頼む」

玲華「はい!」


***

   双眼鏡でモレストゥムの群れを確認する斥候A。

   モレストゥムは蜘蛛のような図体に、前足がカマキリのようなカマの形状。

   周囲には民家があるが、すでに廃屋となってかなり時間が経っており、人の気配は無い。

隊員A「モレストゥムに変化無し。数は50体程度と思われます」

勢合「よし。ここまでは想定通りようだな。では、簡単に今回の作戦について復習しておく」

複数隊員「はい!」

勢合「本作戦は夜から早朝に活動が緩慢化するモレストゥムの弱点をつき、基地へ迫っている敵を先制奇襲攻撃で叩くことが目的だ。新兵がいるので、それぞれカバーして欲しい。新兵は絶対に無理をしないこと」

複数隊員「了解です」

勢合「また、モレストゥムが電波妨害ガスを出すと通信ができなくなる。必ずチームで行動するように。撤退の合図は見逃すなよ!攻撃開始だ!」

   正座状態のミーアが立ち上がり、二足歩行で前進する。

   前方にモレストゥムの群れ。

   眼の前でモレストゥムに殺された両親の記憶がフラッシュバックする天那岐。

天那岐(心の声)「撃滅してやる」

   ミーア部隊から一気に飛び出し、先方を走る天那岐のミーア。

棡原「あのバカ、先行しすぎだ。気持ちはわからんでもないが」

   ミーアの足音でモレストゥムが気づく。

   天那岐は構わず突進し、ミーアが装備している鉄の板のような剣でモレストゥムに斬りかかる。

天那岐「うおぉぉぉ!」

   天那岐のミーアの鉄剣がモレストゥムの腕をぶった切る。

   モレストゥムの体液が飛び散り、モレストゥムの群れの動きが活発になった。

   天那岐は構わず突貫し、モレストゥムの胴体に鉄剣を突き刺す。

   天那岐のミーアへ他のモレストゥムが飛びかかってきて、天那岐のミーアが後ろに倒れ込む。

天那岐「うっ!」

   天那岐に取り付いたモレストゥムに玲華のミーアがタックル。

   ふっとばされるモレストゥム。

玲華「大丈夫、来流!」

天那岐「大丈夫だ。こんなところで終わるわけにはいかない」

   天那岐のミーアは立ち上がり、ブルドーザーの前についているような盾を前面に構え、再びモレストゥムの群れの中に突撃していく。

玲華「来流、ちょっと待って!」

   ミーアとモレストゥムの混戦状態。

   さらにモレストゥムの群れの奥の個体が、オシリを突き上げ、ガスを噴出する。

棡原「長距離通信がしにくくなるぞ!各自、隊長から離れすぎるなよ!」

   突貫した天那岐のミーアがモレストゥムに囲まれる。

   追いかける玲華のミーアであったが、複数のモレストゥムに阻まれ、天那岐の元に辿り着けない。

玲華「来流!」

   玲華の叫びは通信障害にかき消され、天那岐には届かない。

天那岐「うぉあああ!」

   モレストゥムを2体ほど倒した天那岐だったが、複数のモレストゥムが一斉に飛びかかり、ミーアの身動きが取れなくなる。

天那岐「この野郎!」

   天那岐は叫びながらミーアを操作するものの、機体の軋む音だけが響く。

天那岐「こんなところで終わるわけにはいかないんだ!」

   天那岐の叫びは虚しく消える。

   動けない状態のミーア。

   前面のモニターにモレストゥムが前足を振り上げ、攻撃してくる映像が映る。

天那岐(心の声)「くそっ、ダメなのか」

   目を瞑る天那岐。

   と、攻撃しようとしたモレストゥムが倒される。

勢合「まったく今年の新人は、なっちゃいないな」

   ミーア部隊隊長 勢合のミーアが、ブレーカーの先についている杭のような武器で、モレストゥムを突き刺していた。

天那岐「勢合さん・・・」

勢合「これでお前救うのは何度目だ?」

天那岐「俺は・・・」

勢合「気にするな。そういうお前の性格も考慮して、作戦は立ててる。ただ、命は無駄にするなよ」

天那岐「はい!」

   天那岐のミーアは立ち上がる。天那岐は冷静さを取り戻し、勢合とともにモレストゥムを倒しに向かう。


***

   その後、戦闘はミーア部隊はモレストゥムを殲滅し勝利する。

   モレストゥムには撤退という概念が存在しないため、必ず殲滅戦となる。

   モレストゥムの死骸が散乱。モレストゥムのおびただしい体液が、地面を濡らしていた。

   棡原のミーアが天那岐のミーアに近づく。

棡原「大丈夫か、来流」

天那岐「はい。隊長に助けられました」

棡原「俺も何度か助けられたことがあるよ。勢合さんは、ほんと戦場全体が良く見えてるっていうか。咄嗟の判断も早いし。勢合さんが隊長になってからは、誰も死んでないしな」

   玲華のミーアも近づいてくる。

玲華「来流、大丈夫?」

天那岐「ああ」

玲華「ほんと心配したんだよ」

天那岐「すまん。でも、もう大丈夫だ」

   ドッと汗をかく天那岐。

天那岐(心の声)「ようやく、ようやくだ。父さん、母さん・・・」


***

隊員B「通信状態90%回復。生体反応ありません。周囲に敵影無し」

勢合「よし、勝てたようだな!」

隊員たち「うぉーーー!」

   ミーアから隊員たちが出てくる。

勢合「さて、みんな準備はいいか!」

   勢合が両手を広げる。

勢合「撃滅戦歌ぁ!」

   勢合が大声で叫び、両手をテンポ良く振りはじめる。

   それに合わせ、集まった隊員が手拍子をする。

勢合「数多の敵を屠りぬき、我らここに勝利せり。失われた者たちの、思いを背負い、我らここに勝利せり。撃滅!撃滅!撃滅!我らの明日のため」

   勢合とともに何人かの隊員が合唱する。

棡原「いつものことながら、熱いねぇ」

天那岐「そうですね」

棡原「まっ、悪いことじゃないけど、これだけは性に合わないんだよなあ」

   勢合の周りに集まった隊員を少し離れた場所から、棡原と天那岐、玲華は見ている。


***

   撃滅戦歌を歌い終え、拍手がこだまする。

勢合「さあ、後片付けを始めるか」

隊員「了解です」

   集まった隊員は散り散りになり、モレストゥムのサンプルを集め始めた。

棡原「俺達もはじめるか」

玲華「何をするんですか?」

棡原「ああ、そうか。お前らは初めてか。モレストゥムのサンプル集めだよ。泉川先生が研究に使う用のね」

玲華「ああ、そういえば、作戦前に言われました」

棡原「最初はちょっとグロいけど、慣れればそうでも無いよ。まあ、慣れたくもないけど」

天那岐「俺はあっちの方を見てきます」

棡原「よろしく」

玲華「わた・・・」

棡原「笹峰はあっちの方を頼むわ。ちゃっちゃと終わらせて、帰りたいからさ」

玲華「はい」

   棡原、天那岐、玲華が分かれてサンプル集めをする。

玲華(心の声)「確かにこれは・・・」

   戦闘中は気分が高揚していて気づかなかったが、改めて良く見ると、気持ちの良いものではなかった。


***


   戦場だった場所の端で、一人離れてサンプルを集める天那岐。

   視界の端に何かが動いたように感じた。

天那岐(心の声)「モレストゥムの生き残りか?」

   葉っぱが揺れている。

   天那岐は慎重に木々の方へ歩いていく。

   葉っぱをかき分け進むが何もいなかった。

天那岐(心の声)「気のせいか。風で揺れただけかもしれない」

   とその時、首筋にモゾモゾとした感触が走る。

天那岐「うわっ」

   手を首にやると、その何かは首筋から背中の方に周り、服の中に入った。

   そして激痛。

天那岐「痛っ」

   天那岐は思わず転げ回る。

   周囲は木々で、他の隊員からは見えない。

   激痛はすぐに治まったのだが、少しずつ意識が遠のいていく。


***


   パチパチと頬を叩く音。

棡原「おいっ、来流、生きてるか?」

   ゆっくりと目を開ける天那岐。

天那岐「祐清さん・・・」

棡原「疲れたのはわかるけど、寝るのは早いぜ」

   棡原が手を差し伸べる。

   その手を掴み起き上がる天那岐。

天那岐(心の声)「何があったんだ?虫に刺されて痛かったのは覚えているが・・・」

棡原「何ボーッとしてんだよ。サンプルは集めたか?」

天那岐「あっ、いえ」

棡原「おいおい、どうしたんだ?まあいいや、もう帰還するってよ」

天那岐「わかりました」

   天那岐は棡原についていく。


***


◯2034年5月、栃木 対モレストゥム私設組織 ホープ 会議室(昼)

   飾り気のない会議室。テーブルには、葉隠、権堂、保加が座っている。

葉隠「昨日の戦闘は大勝だったようだね」

権堂「はい。ランクCのモレストゥムでしたから」

   低い声で落ち着いた口調で話す権堂。

保加「すべては予定通りです。機先を制すれば、現状の戦力で襲来するモレストゥムには十分に対処できるでしょう」

葉隠「頼もしいよ。さて、今後の計画だが・・・」

保加「それについても私の方から説明させていただきます」

   保加は立ち上がり、壁に備え付けられたディスプレイの前にいく。

保加「当初計画通り、首都奪還を最優先目標とし、2つの作戦計画を立案いたしました」

葉隠「ふむ」

保加「作戦Aは4号線を南下、宇都宮奪還後、古河駐屯地を経て、東京へ進行するルートです。作戦Bは宇都宮奪還後、つくばへ抜け、霞ヶ浦駐屯地を経て、6号線から東京へ進行するルートとなります」

   ディスプレイに2つの進行ルートが表示される。

保加「作戦Aは単純でわかりやすく、東京へ到達するのが最も早いのがメリットです。作戦Bはつくばを経ることで筑波大学、JAXA筑波宇宙センターなどの情報を得ることがメリットとなります」

葉隠「私としては、作戦Bで進めたいのだが、権堂くんはどうかね?」

権堂「自分は、議長の決定に従います」

保加「作戦Bの場合、東京へ到達するのに時間がかかってしまうというデメリットがあります。また、モレストゥムは沿岸部に近いほど、数が多い傾向にあり、部隊としての被害も大きくなる可能性があるため、私としては作戦Aを推したいのですが」

葉隠「村市くんの意見もわかるがね、筑波大学やJAXA筑波宇宙センターのメリットの方が大きいように思えるが」

保加「得られる情報が確定的ではないため、一概には言えませんが、東京に情報が一極集中していたことは事実です。そのため、得られる情報は東京の方が多いでしょう。さらに、東京には電波塔があります。モレストゥムに電波障害されているとは言え、情報を発信できるのはかなり大きなアドバンテージと思えますが」

葉隠「東京が壊滅的な状況になっていれば、情報が得られるかどうかもわからないだろう」

保加「そのような意見も最もです。私個人としては、情報戦においてデータセンターの把握が最優先事項だと考えています。災害対策もされていますし、データセンターにはデータが残っている可能性が高いでしょう。また、ダークコメットなど観測データについては・・・」

   葉隠が保加の発言を手で制する。

葉隠「村市くんの考えは十分わったよ。ただ、今回は作戦Bで進めよう」

   少しの沈黙。保加は多少不服そうな気配を醸し出す。

保加「承知しました」

葉隠「権堂くんもそれで良いかね」

権堂「はい。私は問題ありません」

保加「つくばルートについては294号を下って468号から進入する形になると思います・・・」

   葉隠が再び保加を手で制する。

葉隠「細かな作戦については、君に任せるよ。権堂くんと話してくれたまえ」

保加「承知しました。それでは失礼いたします」

   保加はそそくさと立ち上がり、会議室を出ていく。

葉隠「村市くんは多少感情的になるところがある。権堂くん、うまくやってくれたまえ」

権堂「了解しました」

葉隠「それとだ、泉川くんとも少し話しておいてくれたまえ。彼女はつくばには詳しいからね」

権堂「はい。それでは失礼いたします」

   権堂も立ち上がり、会議室から出ていく。

葉隠(心の声)「村市くんの言い分はわかるが、今は首都奪還よりも優先すべき事項がある」

   ゴホッゴホッ。葉隠は口に手をやる。

   手袋には血がついていた。

葉隠(心の声)「あとどのぐらい時間が残っているか・・・」



***


2034年5月、栃木 対モレストゥム私設組織 ホープ 天那岐自室

   他の隊員と別れ、自室に戻る天那岐。そのままベッドに倒れ込む。

天那岐(心の声)「疲れた。ここからがはじまりだ」

   天那岐は手を戦闘中に痛みを感じた首筋に持っていく。

天那岐(心の声)「あの痛みは何だったのか」

   と、体中に激痛が走る。

天那岐「うぉっ」

   ひとしきり苦しみに悶えると痛みが引いていく。天那岐は服を脱ぎ、自分の身体を確認すると体中に紫色の模様。血管が浮き出ているようにも見えた。

天那岐「何だ・・・これは」

   コンコン!

玲華「来流、いる?」

   天那岐は慌てて浴室の方へ向かいながら返事をする。

天那岐「今、ちょっとシャワーを浴びてるんだ」

玲華「わかった。また後で来るね」

天那岐「ああ」

   天那岐は改めて全身を見る。

天那岐(心の声)「俺の身体、どうしちまったんだ?これがバレたら、俺はミーアに乗れなくなるかもしれない・・・」


***


・ざっくり年表

2025年8月:第1波ダークコメット太平洋、大西洋、インド洋に落下。

2026年8月:モレストゥム襲来。第2波ダークコメット落下。天那岐両親死亡。

2034年5月:モレストゥム奇襲戦。天那岐に特殊個体寄生。

2034年7月:宇都宮奪還作戦。天那岐覚醒。玲華死亡。

2034年7月:天那岐の異変の研究開始。

2034年8月:筑波大学到達。ダークコメットの情報。モレストゥムの弱点判明。

2034年8月:霞ヶ浦駐屯地奪取。銃器解禁。

2034年11月:千葉奪還作戦。モレストゥム弱点物質入手。

2034年2月:首都奪還作戦。

2035年1月:太平洋モレストゥム本拠侵攻。第3波ダークコメット落下。


・用語解説など

モレストゥム:2025年8月、ダークコメットに乗って地球襲来。海中で繁殖も食べていた魚が減ったことで、地上へ進出。

ダークコメット:太陽光を反射しない隕石。発見が難しい。ダークコメットは太陽系外か火星か、または次元転移パラレルワールドの可能性。

モレストゥムガス:電波を妨害するガス。レーダーや通信に異常発生。結果、有視界戦闘がメインになる。

ミーア:重機のパーツを組み合わせた二足歩行ロボット。スネ前面がキャタピラになっており、正座することで重機として使用可能。自衛隊駐屯地奪取後、銃器が解禁され、より戦闘に特化していく。

プロジェクトトランセンデンス:葉隠 征十郎が計画。トランセンデンスは超越という意味の英単語。モレストゥムの三重らせん構造遺伝子を人間に組み込み、人類を進化させる人類超越進化計画。延命を目論む。

モレストゥムの弱点:ヨウ素系化合物。ヨウ素は千葉とチリで多く産出。千葉奪取計画が結果として功を奏す。

オルガノイドM計画:泉川 絆那が計画。オルガノイドとは幹細胞で作られたミニチュア臓器。オルガノイドM計画では、幹細胞にモレストゥムを使い、従来のオルガノイドの欠点である短命の改善を改善し、オルガノイドMを生み出すことを目論む。オルガノイドMによる新生命誕生が目的。

特殊個体:福島沖から上陸したモレストゥムの一種。長期的な放射能汚染により、一部遺伝子が変化。天那岐に寄生し、天那岐の身体的能力を開花させる。

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