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第2話 事故

「俺と別れてほしい」



……は?



ビジネス街にある真昼のコンビニ。


レジの行列に並んでいただけなのに、前にいた男に突然そんなことを言われた。



……誰、この人?


一方的に私と付き合っていると思い込んでいるヤバイ人?



……ん?


よく見るとこの人の目は私を見ていない。


微妙に視線が私の後ろにずれている。


私じゃ、ない?



ギリッ


今度は背後から歯の軋む音がした。


怖っ……いし、嫌な予感がする。



「最低! やっぱりトモミと寝たのね?」



目の前の男性は知らない人。


チラッと後ろを確認して見た女性も知らない顔。



黙っている男。


金切り声をあげる女。



どちらとも視線が合わない。


私、無関係だね。



……なんで私を挟んだこの状況で別れ話を始めるのかな。



背が低いけれど155cmはあるよ。


流石に「ここに誰かいるな~」くらいは分かると思う。


なんて迷惑な人たち!


特にこの状況で別れ話を切り出した男のほう!




「いい加減にしろ。こんなところで騒ぐな」


彼氏の言っていることは間違っていない。


いま二人は完全に見世物。


コンビニ中が二人に刮目してる。


私を含めた二割は迷惑そうにしているけれど、八割は楽しそうだよ。



「あなたがこんなところで別れるって言うからじゃない!」


彼女の言っていることも間違ってはいない。


しかし、彼女すごいな。


肺活量?

根性?


ずっと喚いてる。


キンキンと甲高い声、耳が痛い。




行列は全く進まない。


レジを挟んで立つ二人、財布を持つ客とピッて鳴るやつもっている店員がこの痴話喧嘩に夢中だから。


仕事してっ!


早くピッとして。



しかもさ、この二人の会話って全く進んでいないのよ。


さっきから同じフレーズをぐるぐる回っているだけ。


ほとんど話しているのは彼女。


彼氏のほうは彼女の息継ぎの間に「別れよう」と言うだけ。


壊れたレコードか!




……しかし、すごいな。


どう聞いても彼氏が浮気した。


それなのに、二股を責めつつも彼女は「別れよう」に応じない。


この彼氏、よほど稼ぎがいいのか?


それとも顔がいいのか?



身長差がある上に私の位置からは急角度過ぎて彼氏の顔は見えない。


でもちらほらと「イケメン」という声が聞こえる。



しかしこの彼氏、堂々としている。


浮気したって言われているのに、否定もせずに、慌てふためいていない。


「あの子、俺の妹」みたいな定番のあれも発動していない。



歴代の彼氏たちのオタオタする姿を見てきた私には新鮮。


いや、過去に堂々としている奴がいたわ。


初代彼氏(仮)。


他の女の子とキスしているところ(=浮気現場)を目撃し、別れた彼氏(仮)。


「説明しろ」と詰め寄る私に何も弁明しなかった。



あの頃の私、若かったなあ。


他の女の子とキスしていたのくらいで責めちゃって。



いまの私を見たらビックリするだろうなあ。


いまの私は彼氏が他の子といたしている現場に踏み込んでも、笑顔で「お邪魔します」と言えるくらい図太くなっている。


若いってすごいなあ。


過去の自分を思い出すと溜め息が……。



「ふう……」


ん?


彼氏、溜め息を吐いた?


いま、絶対に吐いた。


吐きたいのは私。


あなたは吐いちゃだめ。



「いい加減にしろよ」


「なによ!」


ほら、彼女がヒートアップしちゃったじゃない。



「やっぱりトモミと寝たのね?」


……ヒートアップしたけど、最初の台詞ね。


これ、いつまで続くの?




この非常識カップルの知り合いだと思われては困るからさ、赤の他人アピールのためにずーっとスマホを操作する振りをしていたのよ。


そうするとね、時計が目に入るの。


ほら。


また一分、昼の休憩時間が減った。


……もう限界!


もともと気が長くないのよ、私。



「あの、いい加減してくださ……って、ええ!?」



抗議しようと女性のほうを向いた私の目に入ったのは鞄の底。



「嘘でしょ!?」



陳列棚の間で鞄を振り回すなど正気の沙汰ではない。


いや、そうじゃない。


そうじゃなくて、どうして私!?


殴るなら彼氏を殴りなさいよ!!



「やめろ!」


彼氏の手が迫りくる鞄の底を私の鼻先でキャッチ。


……危なかった。




「すみません、大丈夫ですか?」


謝られた。


彼氏のほうに。


許すべき?



いや、この人にも言いたいことはあるけど、これ以上お昼の休みの時間を拘束されるのは――。



「未、玖?」


え?


なんで私の名前……あ、初めて目が合った。


あ、この顔――。



初代彼氏(仮)。



なんか雰囲気が違うけど。



「あ……」



……って、この状況ってまずくない!?



「あんたも顕仁(あきひと)の女なの?」


「「違う/違います」」


ひー、ハモった!


焼け石に水!


違う、火に油だ、これ!



「私をバカにしてっ!」


「おい、やめろ!!」



私に掴みかかろうとする彼女を止める初代彼氏(仮)。


名前は七尾顕仁(あきひと)



同じ予備校に通っていて、告白されて一度は断ったけれど二度目に……とにかく予備校の空きの教室で他の女の子と、恐らく舌まで入れてキスをしていた浮気男!



ガツンッ!!



「痛っ」



反射的に痛いと言ったけれど……脳が揺さぶられる感覚しかない。


痛みは分からない。


痛みがないってヤバいんじゃなかったっけ……死ぬの?



「未玖!!」



決めた!



転生の神様、生まれ変わるなら浮気男は死刑になる世界がいいです!

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