第13話 襲撃 ※顕仁
お待たせしました。
連載再開します。
最後までできていませんが、10話くらいストックができたので順次公開します。
風呂から出たら未玖が寝ていた。
いつも俺が座る椅子の上で。
器用に小さく丸まって。
なにこの可愛い生き物。
こんな可愛い二十八歳がいるのか?
俺、姉ちゃんが二十八歳の誕生日を祝えって押しかけてきたとき「いい年して」って思ったぞ?
俺、この未玖なら何十回でも祝える。
……そうじゃない。
落ち着け。
このままここで寝かせるわけにいかない。
これが正解。
客間に布団を敷きにいくのが正しい行動。
客間で布団を敷いていたらスマホが震えた。
中兄ちゃん?
【今夜泊めて】って……げっ。
急いで中兄ちゃんに電話をかける。
《アキ、どうした? ビールなら買ったぞ、それとも何かオネダリか?》
弟とは、いえいい年して「おねだり」はない。
「いまどこ?」
《家の前》
!
「インターホンを押さないで!」
《何でだ?》
中兄ちゃんの戸惑う声を無視し、客間から急いで玄関に向かうと、鍵を静かに素早く開けて外に出る。
「よう、アキ」
《よう、アキ》
「中兄ちゃん、悪いけど今夜は帰って」
こんなこと言ったのは初めてだ。
「なに、部屋が汚い?」
「……いま、人が来てるから」
中兄ちゃんが目を見開いて、コンビニのビニール袋を落とした。
……驚かせたかな。
俺がこの家に人を招かないって兄ちゃんは知ってるし……。
「アキ……」
中兄ちゃんが俺の肩に手を置いた。
分かってくれ……はあ!?
なんで俺を押しのけるんだ?
「何で家に入ろうとしているんだよ!?」
「当たり前だろう?」
心底不思議そうに中兄ちゃんは首を傾げる。
「もしかして、いままずい?」
「そういう話の流れだったよな?」
「彼女、いま素っ裸? それなら寝室にはいかないようにする」
「いや、俺のベッドはリビングにあるし」
「ああ、そうか……まいったなあ」
「まいらないから。今夜は帰って……」
「今夜はお前と飲みたい気分なんだよ」
「その気分を変更しろよ」
「……顕仁? もしかして第二の彼女と修羅場してる?」
未玖?
なんで?
あ、玄関は未玖が寝ていた縁側の直ぐ傍だった。
カラッと玄関扉が開く。
「あの~、トモミさん? これには深い事情がありまして……って、男の人?」
ひょこっと扉から顔を出す未玖……可愛い。
いや、そうじゃなくて……。
「初めまして、具視です」
どうして中兄ちゃんの名前を知っているんだ?
「第二の彼女じゃなくって、彼氏? ん、この場合は第一になるの?」
は?
***
リビングから中兄ちゃんの笑い声が聞こえる。
さっきから何度も。
「兄ちゃん、デリバリー届いた」
「サンキュー。好きなのを選んで飲んでくださいね」
中兄ちゃんがデリバリーで頼んだノンアルコールカクテルを机の上にズラッと並べ、未玖は楽しそうに見比べてから一本選んだ。
「甘い物は好きですか?」
「はい、好きです」
「これからくる奴はうち一番のスイーツ好きなんで、美味しいやつだと思いますよ」
うち一番のスイーツ好き?
「大兄ちゃんも呼んだの?」
「うん。晴道も」
「何で?」
「? 運転手がいなきゃ連れて帰ってもらえない」
「それなら末兄ちゃんだけ呼べばいいだろ」
「兄ちゃんだけ除け者にしたら可哀そうだし、女の子がいるなら甘い物がほしいかなって」
フリーダム過ぎる。
未玖が楽しそうに笑っているのが救いだけど。
「こんばんわ~」
!!
「中兄ちゃん!?」
「? これで呼ばないのはないだろう?」
「そうだけど!」
「そうだろう?」
未玖が首を傾げる。
「うち一番のスイーツ好きはお兄さんでは?」
「あれは姉、姉の真琴……ごめん、未玖」
「なんで? 楽しいよ?」
「そう?」
未玖が俺の耳元に口を寄せる。
「知らない顕仁を見れて新鮮だし」
やっていることもセリフも凶悪なほど可愛い。
***
「なんか顔面偏差値がバグりそうな空間になっている」
一番最後にリビングにきた末兄ちゃんが「三番目の兄の晴道です」と未玖に頭を下げて首を傾げる。
「本当にアキと同じ年齢?」
未玖が頷くと末兄ちゃんは俺を見る。
「アキが老けてるのか」
「俺は平均値」
末兄ちゃんが持っていた箱を見せる。
「大兄、ケーキ忘れていたよ」
「ハルが持ってきてくれると信じていたよ。姉さん?」
末兄ちゃんの渡したケーキの箱を姉さんが奪う。
「私が切ってくるわ」
!?
「お手伝いします」と未玖がその後を追うのを俺たちは呆然と見送る。
「兄さん、姉さんに包丁を持たせて大丈夫なの?」
「いい格好しいの姉さんがでしゃばると思ってカット済みのケーキを買ってきた」
台所から「未玖ちゃん、好きなの選んで」という姉さんの声がした。
良かっ……。
「あの子がアキがずっと探していた“ミク”か」
「え?」
「あんな可愛い子なら忘れられなくても当然だよな」
「は?」
「アキは酔うと決まって“ミク”の話をするんだよ。大丈夫? 同僚にドン引きされてない」
「ドン引きするほどなのか?」
「弟だから、ちゃんと生温かい目で見守っている」
「見守る前に教えてよ」
「交通標語に使えそうだね」
そう笑う末兄ちゃんはぽやぽやしているが刑事だ。
そう言えば……。
「末兄ちゃん、警察手帳もってる?」
「あるよ。緊急時や突発的な事件に対応するために必要だからね。どうして? あ、“こういう者です”ってやつ見たい?」
「それは美玖が見たいかも。今日も興奮してた」
「未玖ちゃんのためなら何百回だってするよ。そう言えば二人とも今日警察のお世話になったんだっけ」
確かに言われる側は微妙な気持ちになるな。
「気のせいかもしれないんだけど、さっきからこの家の周りをウロウロしている奴がいる気がして」
「加害者の元カノ?」
「いや、男。もしかしたら未玖のストーカー二号かもしれなくて」
「“二号”? 一号は?」
流石は末兄ちゃん。
そっちに突っ込むか。
「一号は盗聴好きで、二号は尾行が好きらしいから」
「なるほど」
吃驚仰天。
それで理解したよ。
「ちょっと待て。号数よりもストーカーがいるほうが問題じゃないか?」
常識人の大兄ちゃんと同じ感覚で嬉しい。
「問題だけど、実害がないと警察は何もできないんだよね」
「実害があったら大変じゃないか。それに一号と二号は合わせ技を使うことがある」
大兄ちゃん、それは仮面をつけたライダーの話。
世代があっていないが、うちの兄弟は父さんの影響でこの話が好きだ。
「それじゃあ最強の三号がいるのか?」
「いないし……きっと」
「三号かあ、彼は本当に最強なんだろうか」
「最強については諸説あるからな」
「お待たせしました」
未玖が戻ってきたことにも気づかず、会話に熱中してしまった。
「仮面をつけたライダーの話ですか? 私は海の上をバイクで走る仮面の人が好きです」
ケーキを持ったまま未玖がニコニコと話しに混じる。
「未玖ちゃんも知ってるの?」
「お義父さんが好きで、見てたらそれなりに」
父たち世代の男たちは好きな人が多いんだな。
「テレビで放送されていた原作はあまり知らないんですけれど、スピンオフの漫画ではまってしまって」
ああ、あれ。
「なにそれ?」
「ご存じありませんか?」
未玖がスマホを操作して、その画面を末兄ちゃんに見せる。
「なにこれ。知らない。メッセージアプリの友だち登録をしよう。そしてタイトル送って」
ちょっと待て。
「末兄ちゃん。それ俺も読んでるからあとで送る」
「頼むね。今度宿直のときに読むわ、楽しみだな」
「宿直?」
「俺、刑事さん。こういう者です」
警察手帳を見せた末兄ちゃんにやはり未玖は盛り上がり、末兄ちゃんは立て続けに三回もアンコールに応えていた。
「動画を撮って……あれ?」
未玖が首を傾げる。
「どうした?」
「メッセージアプリに知らない人から友だち申請がきたの」
「末兄ちゃん?」
「兄を疑うよりもストーカーとかを疑いなさい。未玖ちゃん、コンビニでケガしたときにスマホは? 操作中だったりした?」
未玖が頷く。
「戻りが遅くなりそうだと同僚にメッセージを送っていて……」
「アキ、スマホはお前が拾ったの? それとも誰かが拾った?」
未玖のスマホ?
俺は拾ってない。
未玖のスマホ……。
―― こわい女だなあ。
そう言ってスマホと鞄を俺に渡した男がいた……。
「もしかしてあれがストーカー二号……「違うみたい」……え?」
未玖が俺に見せたスマホ画面には、【ストーカー1号です】?
……は?
「ね、違うでしょ?」
「そうじゃなくて、どうして友だちに追加しているんだ?」
「もしかしたら知っている人かもしれないじゃない?」
そうだけど。
「とにかくブロックを……「待って、アキ」……姉さん?」
姉さんが未玖の手を取った。
「下手なことをしてストーカーを刺激するのはよくないわ。私はよく知らないけれどスマホを外部操作するアプリとかもあるんでしょ?」
ん?
「未玖ちゃんはそういうのに詳しい?」
「いいえ、あまり……」
「ご家族の皆さんが帰ってくるまであと二週間はかかるのよね?」
未玖が頷き、不安げにスマホを見る。
それなら……。
「それならこのままアキの家にいたらどうかしら」
「「え?」」
俺と未玖の声がハモる。
「私もマンション暮らしだから分かるのだけど、マンションって意外と人の目がないじゃない。住人のあとについていけばエントランスも簡単に通過できるし。通路に潜んで部屋に押し入られたという話も聞くし」
「そうなんですか?」
「正面から堂々とくれば悲鳴でもあげて対応もできるけど、咄嗟だとやっぱりね。恐怖もあるし、突き飛ばされたりしたら……抵抗もできないじゃない?」
「お姉さん、もしかして……」
未玖にニコッと笑いかけて姉さんは「ね?」と首を傾げる。
「未玖ちゃんにそんなことがあったら嫌だわ。未玖ちゃんのマンションはこの家から近いと聞いたし、それならここからでも会社に通えるじゃない?」
***
「姉さん、どういうつもり?」
未玖が返事をする前に未玖のお母さんから電話があり、未玖は縁側から庭に出て話をしている。
裏木戸は鍵が締まっているし、ここからも見えるから大丈夫だろう。
「ストーカーに狙われるなんて、未玖ちゃんが心配じゃないの?」
「それは心配だけど、俺が聞いているのは別の話。分かっているだろ?」
京都を舞台に科学で捜査するドラマに憧れて、その手の技術者になり警察のサイバー捜査にも協力している姉ちゃん。
何が「私はよく知らないけれどスマホを外部操作するアプリとかもあるんでしょ」だ。
「どうしてストーカーを騙って未玖ちゃんにメッセージを送ったりしたの?」
「何のことかしら」
末兄ちゃんの追及に姉ちゃんはにっこり笑ったが……。
「姉ちゃん、アカウントを調べるよ」
「ごめんなさい」
あっさり白旗をあげた。
「なんでそんなことをしたんだよ」
「だって未玖ちゃん可愛いんだもの」
は?
「私はね、ああいう妹が欲しかったの。それなのに産まれたのは弟四人、義妹に期待すればキリッとした美人系。どうしてゆるふわ系美少女が一人もいないのよ」
「あのなあ、未玖はゆるふわ系美少女の見た目だけど中身は違うぞ」
「だからいいんじゃない。“お姉様ぁ”とか甘えてきたり、二言目には“かわいー”しか言わない妹は嫌よ。あくまでもゆるふわ系は外見だけにして欲しいの」
なんて我侭な姉だ。
「つまり姉ちゃんにとって未玖ちゃんは理想的な義妹なんだな」
「三人の義妹も大好きよ。でも考えてみて。一人くらいうちに可愛い系がいたっていいじゃない?」
姉ちゃんの言葉に中兄ちゃんが「確かに」と押される。
「まだ若いんだから二人のペースに任せても」
「義人、そんな悠長なことが言えない状況なのよ」
姉ちゃんがキッと俺を睨む。
「三ヵ月の期間限定のお付き合いなんですって?」
「何で俺を睨むんだよ。三ヵ月って提案したのは未玖だぞ」
「そうなの? アキって昔からとっかえひっかえだったから、てっきり三ヵ月でポイしているのかと」
弟をなんだと思っているんだ。
「姉ちゃん、覚えてないの? 美玖ちゃんってあの“ミク”だよ。アキが酔っては惚気めいた愚痴を言っていた、姉ちゃんも高校探しを手伝ったじゃないか」
末兄ちゃんの言葉に姉ちゃんはしばし考え「あ」と思い出した。
「やだ、そうならそうと言いなさいよ。他の子とキスしているのを見られてぶん殴られたやつね。え、それじゃあ三ヵ月は未玖ちゃんの復讐? ますます良いわ。アキ、頑張って落としなさい」
「俺だって落としたいよ」
思わず馬鹿正直なことを言ってしまったため、姉兄の勢いが増す。
「アキ、未玖ちゃんはどうして三ヶ月って言っているんだ? その根拠は何だ? お前と昔付き合っていた期間か?」
「それもあるかもしれないけど、見合いするんだってさ」
……間が痛いぞ。
「「「「はあ!?」」」」




