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第1話 男運

「お見合い?」


パソコン画面一杯にお祖父(じい)ちゃんの満面の笑み。



未玖(みく)ももう二十八歳になるだろ?》


「その感覚は古いよ。現代(いま)は“まだ二十八歳”の時代」


《未玖の産んだひ孫の顔が見たいんだよ》



……聞いてないし。


しかも「ひ孫」。


孫が見られればいいというこの晩婚の時代になんて贅沢な望みを持っているのかな。



あれ、でも、二十八歳ってお母さんが私を産んだ年齢だ。


そう考えれば、まあ、あり?



見合い……。


自分で言うのもなんだけれど容姿は悪くないほう。


定期的に男性に告白されているし、“男性とのお付き合い”に関して将来の不安はあまりなかったりする。



しかし私は男運がない。


笑えるくらい男を見る目がなく、好きだと言われてお付き合いを初めても毎回男側の浮気で終わる。



最初の彼氏(仮)から、ずっと。




結婚と違って彼氏は記録には残らないが、“彼氏”となるとそれなりの関係を求められる。


実際に最初の彼氏(仮)は高校生のときだったけど、彼とはキスをしている。


その後、大学で付き合った彼氏とは体も重ねた。



それなりの関係を築けば記録には残らなくても心の履歴には残るもので、浮気をされればそれなりにショック。


私がまだその彼氏のことを好きではなかったとしても。



好きだと告白されたとき、相手のことを知らないことが多い。


だから「私も好きです」とは返せない。


だから「あなたのことを知りませんので」と応えると、二割ほどは話が白紙になるのだけど、残り八割は「俺のことを好きじゃなくてもいいから」となる。


つまり、彼氏たちとのお付き合いは「好きではない」から始まる。



不思議なことに「それでもいい」と言った彼氏たちは、浮気をするとその理由が「俺を好きじゃないから」という。


解せない。


私が好きではないことが不満で別れるなら分かる。


なぜ浮気する?



浮気するなら先に別れようよ。


その方がお互いのため……と、こんなことを毎回繰り返している。



おかげで「男の浮気を見抜く目」が養われた。


浮気しているかもって感じるセンサーが搭載された。


適度なお付き合いをへて精度が増した。



全く嬉しくない。


「男を見る目」を搭載したい。



そんな私の気持ちとは裏腹に、男の浮気現場を抑えるテクニックが向上した。


私の仕掛けた罠に、彼氏たちは浮気相手と十割の確率で引っかかった。



これも全く嬉しくない。



さらには、浮気現場を抑えられた男(浮気男)は高確率で浮気相手を親族と偽るという知識を得た。


親族として最も多用されるのが「姉妹」、ついで「従姉妹」。


そして浮気男たちは知らない。


上手く言い訳をしているつもりだろうが、浮気相手の女性の「なんですって?」という表情が「嘘です」と暴露している。




《未玖~、お見合いしよう。お前の産んだひ孫はさぞかし可愛いのだろうと、私の想像が止まらないんだよ》


それは妄想だ。



「お祖父ちゃん、私は結婚に向かないと思うの」


《どうしてだ?》


「男運がなくて漏れなく浮気されているのよ。流石に夫に浮気をされるのは避けたいわ」


言い方が悪かった。


お祖父ちゃんは私の歴代彼氏たち、および彼らの浮気、そして私の現場の押さえ方について聞きたがった。




《そいつにも浮気されたのか?》


「彼の言い訳は“オバ”だったわ。言い訳としては斬新だったし、過去一の修羅場を見たわ。オバと扱いを喜ぶ女性はいないし、彼女は彼より三歳くらい上だったのも悪かったわね。右、左、右と思いきり平手打ちされてた」



不憫だと同情されたのはこの三人目まで。


四人目からは人智を超えた何かを見るような目をお祖父ちゃんから向けられた。



《美玖、前世で何かやらかしたのか?》


「多分」


多くの男を弄んで捨てた稀代の悪女だったのかも。



「生贄になっていくつかの村を水没から守れば、来世は年俸億の有名スポーツ選手と結婚できるかな?」


《いまどき生贄の募集はないだろうなあ》



……生贄になることは止めないのか。




《未玖、結婚はしたくないのか?》


「したいとは思う」



結婚願望がないとは思っていない。


だから懲りずに男の人とお付き合いをしているんだし。


できなければ、それでもいいとは思っているけど。


お一人様が苦なタイプではないし。


でも誰かと感情を共有したいってときがある。




《それなら祖父ちゃんの目を信じてみないか?》


……確かに。


その方法はありかもしれない。


私の男を見る目は信じられないし。



《浮気される確率も低いぞ。家同士の繋がりが恋愛結婚より強いからな》


お祖父ちゃんがいま調べた情報によると、恋愛結婚の離婚率は約四割であるのに対して、見合い結婚の離婚率はその四分の一の約一割らしい。



《感情的な恋愛結婚よりも、条件や打算のある結婚のほうが結婚後のギャップがなくっていいんだろう》


ギャプはないが、夢もないな。



まあ、結婚後のトラブルのもとになるギャップがないのはいい。


お互いのことを知るのが前提のお付き合いというのもいい。



よく考えよう。


今までの彼氏たちは私のことは知っているという態だったけれど、その私って彼らの勝手な思い込み、つまり妄想なのではないだろうか。


お祖父ちゃんの「未玖のひ孫は可愛い」と同じ。


あれは「祖父ちゃん大好き」と言われる妄想で生まれた言葉だ。


「じじい、小遣い寄越せ」とガンを飛ばしてくるひ孫を妄想しているとはとても思えない。



でも、かりに小遣いをせびるひ孫になったとして。


「未玖のひ孫は可愛い」が前提なのだから、お祖父ちゃんは可愛がるべきだ。



この方程式が見合い結婚にも成立する。


条件をすり合わせて結婚するのだから、条件に合わないことをすれば周りからフルボッコ。


私なら「浮気は許さない」という条件を付けるから、浮気すればお母さんたちとお祖父ちゃんが力の限りボッコボコにしてくれるだろう。



うん、悪くはない。



《見合いしたからと言って絶対に結婚するわけじゃない。互いの条件や価値観が合わなければ「この話はなかったことで」で終わる話だ》


それならリスクは低い。


会うだけ会ってみよう。



「お祖父ちゃん、私、お見合いする」


《おお、本当か! 四回も素晴らしい女性と結婚した俺の目を信じて大船に乗った気持ちでいてくれ》


……ん?


四回?


それ……信じて大丈夫?


そう言えばお祖父ちゃん、三回離婚しているじゃん。



しかも直近の離婚理由はお祖父ちゃんの浮気。


そんなお祖父ちゃんの「見る目」って粗悪……。



「お祖父ちゃん! やっぱり止め……《よし! 先方に連絡したぞ》……早ぁ」


……早過ぎるだろう。


さっきのプレゼンといい、この行動力といい、仕事ができる人は違うね。




「お祖父ちゃん、お相手の女性関係はしっかり、隅々まで、重箱の隅をつつくように徹底的に調べてね」


《任せろ》


任せられない!



「プロを雇って。 調査会社や探偵を使って、プロが調べて」


《そんな必要はない。安心しろ、そんな男じゃないから》



プロはプロだから「プロ」って言われるのよ。


プロの目~……ん?



「そんな男じゃないって、お祖父ちゃんの知っている人なの?」


《まあ、それなりに》


その「それなり」が一番危ないと思うの。



事件の報道がそうでしょう?


犯人についてご近所さんにインタビューすれば「そんな人には見えなかった」のオンパレード。


やっぱり思い込みは危険なのよ。



……あ。


もしかして政略的なお見合い?



お祖父ちゃんもいろいろ事情があるだろうし……。


仕方がない。


お祖父ちゃんのことは好きだから一肌脱ぎますか。


嫌なら断ればいいんだし。



……でも、一応釘はさしておこう。



「変な男と見合いさせたらお祖父ちゃんのお葬式には出ないからね」


《それは嫌だ! 祖父ちゃん、頑張る!》



頑張ってほしい。


まだ見ぬひ孫ではなく目の前の()のために。



「お見合い、するならいつくらい?」


《どうしてだ?》


「美容院にいくタイミングを計ってる」


《前向きでいいぞ》


「必要経費と思って、お祖父ちゃん、援助頼みます」


《抜け目なくっていいぞ》



……この人、小遣いせびるひ孫でも可愛がるな。




《気合い入っているところ悪いが、見合いのセッティングに半年はかかると思うぞ》


長っ。


「そんなに時間かかるの? お見合いってそういうもの?」


《先方のご家族は直ぐ乗り気になるだろうが、本人がな……少し説得が必要かもしれん》


理由(わけ)あり?


もしかしてお付き合いしている恋人がいるとか?



「お見合いのために恋人と別れさせるとかはやめてね」


《そんな悪役みたいなことはしない。ただ聞いた話では昔付き合っていた女性への気持ちが整理できていないらしい》



気持ちの整理かあ。


忘れる必要はないと思う。


記憶喪失にでもならない限り「忘れる」は無理だと思うし、忘れられない付き合いをしてきたというのも誠意ある行動と高評価できる。


でも「整理できていない」は浮気の温床になりかねん。



「再会からの焼け木杭に火なんて昼ドラに巻き込まれたくないから、お見合いするなら整理ができてからだよ」


《……分かってる》


その間はなに?


頼むよ、お祖父ちゃん。




「半年以内に見合いの日取りが決まらなかったら、この話はなかったことにしてね」


《……祖父ちゃん、頑張る》



電話は終わったけれど、お祖父ちゃんのあの様子ではお見合いの成立は難しそうだ。



「でもお祖父ちゃんだしな。力技でお見合いを成立させそう」


相手の意思確認は自分でしっかりしよう。


男を見る目はないけど。



見る目なんだよね、結局は。



「……大丈夫かな」

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