表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第四章 異形と祝祭のパレード

—幻想、毒、皮肉、美しきものの裏側—

<記憶>


苦味の雫が墜ちて逝く

墨色インクに似たそれは

ガラスのカラフェに

綴じ籠めて

絡めて纏めて箱の中

鍵を掛けて閉じ込めて

重ねて見かねて蔵の中

錠前掛けて締め切って

ぽろり ぽろぽろ

オルゴールか幻聴か

カラフェの中身が魅惑を着込んで踊り出す


* * *


<愚者の行列>


爛れる甘味と溢れる酸味を吐き違え

唯縄を食い込ませ岩をずり不毛を行く

蜃気楼に吸われる足の生えた知恵が

そうとも知らずに戯言に値を付け売り歩く

冴えた口先が事実の傷を切り焼き

又懐柔を許さず呑みの幻惑を押し付ける

湧き出す冒涜とすり抜ける親切を下し違え

唯鎧を集め馬鹿に跨り街を行く


* * *


<黙示録>


空蝉が鳴く

黒い波が漂う

咆哮が夜をつんざき

星の膿に誠を埋めて奔り出す

木偶にウドを突き刺し

オリオンの矢で南十字へ屠る

血潮を琥珀に籠め

露葉を盃に盛り

真白の虚城へ

喰らわば喰らえ

饗宴に狂した蟲共の

満ちぬ月影への蠢きが

屍の眼窩に映らずとも

石英の森と銀河の鏡は

貴き様の奥を射る


* * *


<咒歌>


花弁を統べる滴を摘み行き

罪の果実のレプリカ転がし

褥に敷き詰め死と蜜に酔い

明日より過去に首を折る


手折らば手折れ

散る香は傷に

永らわば声の枯れるまで


* * *


<デザートテーブル>


林檎<アップルパイ>

知恵の実

悪の実

大罪の果実


桃<コンポート>

厄祓い

邪気払い

無垢の果実


酒<アイスワイン>

酔う君主

賄賂の盃

退廃の樽


珈琲<エスプレッソ>

覚醒の煙

啓蒙の香り

搾取の口実


茶<ダージリン>

結ばれる航路

招かれる戦

繁栄の影


* * *


<不純>


甘味には塩を

ガラスに気泡を

薔薇には棘を

美には毒を

少年に血を

少女に死を


スポイトで一滴

垂らしませう


* * *


<少女舞踏>


在りもしない五臓六腑と

餓鬼娘は踊る


刺繍<タウリン>に贅を

レエス<アミノ酸>に意を

フリル<ビタミンE>に花を

ドレス<抗うつ剤>に沢を

コルセット<咳止め>に匠を

ボンネット<頭痛薬>に冠を

ジャボタイ<胃薬>に黒曜を

チョーカー<睡眠薬>に柘榴を


嵒首揃えて夜を斬り

骨の血潮を浴びて寝る


閻魔は誰そ彼 少女は嗤う

天馬は黄昏 男の逝く


音と光の波形の先に

必然とそびえる奏手金腕

人美と称し賞し讃え

笑止千万嘲る娘


弱音正に二束三文

声音強く弥勒説法

堪らず黙と胃液を吐く


 * * *


<家>


帰途に暗雲と雨

虹を信じている母親は

脳味噌に睡蓮を飼っている

襖の隙間を怒気が埋め

畳の縁は狂気に色づき

かつて飲み込んだ塊は

食道を駆け上がり

安全地帯は焦土と化して

酸を吐けば銃口が向き

鎮守の社は蛇の寝ぐらに取って代わられ

臭気に肌を粟立てたとて

微睡を妨げるわけにもいかぬのだろう


* * *


<蛆の産屋>


引き金は軽い

伊邪那美は簡単に黄泉還る

屑だ糞だと言霊五月蝿く

然して桃など蓬莱の枝の実でしかなく

細工師への賂も間に合わぬ

伊邪那岐は爪弾かれ

輝夜は月読に呑まれ

天照のかいなに漏れ出た葦は

泥に溺れ言霊を呪い

父の産屋を母の蛆が食い荒らす


* * *


<いろは唄>


染む桜燃えゆき

水仙に落ちたが

瑠璃の蕾は雛で

舟を漕げぬ

菖蒲よ、後ろへと回れ


そむさくらもえゆき

すいせんにおちたが

るりのつぼみはひなで

ふねをこげぬ

あやめよ、うしろへとまわれ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ