表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第三章 うつろいと寄る辺なさ

—時間、変容、揺れる自我と世界の間で—

<SOS>


桜の

小川に

せせらぎを


五月雨

御忍び

背な預け


蝉の

織りなす

セピア音


酒宴や

お月見

世俗を忘れ


染まった

落ち葉は

刹那色


雪原

奥山

炭を絶やさず


過ぎゆく

重みに

世界を見る


四季の

折々

雪月花


それらの

終わりを

信じることができますか


* * *


<仮面の少女>


濃霧に化けた鬼の牙

毒華と垂れた蛇の爪

虚言と断ずる羊飼い

枷と踊る仮面の少女は

地を這い血を吐き鎖を引きずり

酸に狂った供物を返し

暴かれることもない誤謬へと

滴る海を籠めて寝る

見破るのは唯狼一人

百合の手向がその答え


  * * *


<慈悲の在処>


侘しき雨夜に人の語る

相敬愛し思慮深く

嘆き仰せど時遅く

贄抑えやらず手に余り

独楼籠りて口堅く

襤褸の御堂で耳塞ぎ

故に諸刃と成りぬれば

剣の錆へと朽ち行かむ


駆けよ欠けども翔けぬけよ

賭けよ架けれど懸けぬけよ

右の藍は賽を振り

諦念と共に馬蹄を聞く

端より花に翅はない

慈悲など微々すら男<ヒト>にはない


* * *


<交錯>


触れて切れるべくもなく

重たげに頭を垂れる柳は

人を驚かすよりも先にぼんやり眠る


遅咲きの十月桜にいちょうの黄色が色を差す


牡丹も菊も咲き乱れ狂い啼き

夜の岸辺に辿り着く


散った髪飾りは遠くに消えた


* * *


<冬の影>


硬雪の 陽により溶け逝く右頬を

崩さば別れ 生まれ出ずるは金平糖

方形結晶の乱反射

甘露の朧が雪原を膿む

白き真昼の夢が舞う

白磁の月、瑠璃の海原、紺碧の森

失われた歳月

ザラメを踏み砕き散らす

砂利と交じった菓子は氷のままでは居られず

玲瓏な記憶は戻らない


* * *


<憧憬>


せめぎ合った果てにある矛盾空洞

洞穴


孤高の終に狼が吠える

命を探して吠える

僕らの領分を通り越した

果てしない姿


暁に夢を視ても

山の頂上に光を見る

茜雲に終わりを見る


* * * 


<永安夢>


月光に焼かれた胡蝶の鱗粉

水面をたゆたい沈澱し

焦がれて伸ばした真白の指に

慈雨と垂れた花の蜜

香に匂い立つ星雫

別離の川に渉り舟

永安夢に雲間に昇り

朝と待っては哀惜の空


* * *


<井の中の蛙>


大海を知る蛙は井の中を目指す

地上より低くとも

光が届かなくとも

一度堕ちて仕舞えば

外敵は居らず

浮力だけで漂い

感傷に浸れることを知っている

外の爽快さを覚えていてもなお

怠惰と憐憫を前にしては

この壁面を登る労力には値せぬ

荒波に疲れた蛙は井戸に住む

井の中の蛙は大海を知っている


***


<海氷>


荒波の鼓動に

叫びを吐いて

塩水をかぶりながら

水圧に手を伸ばす

呼吸は許されていない

井の中ですら潰れる

二足歩行の類人猿は

大海に溺れる所以がある

どうせなら

凍りついて仕舞えばいい

冷感と痛覚が混濁し

潮と血が凝固し

冷凍と死が交錯する


***


<輪>


とめどなく

宇宙を越える

玉雫の

輪廻


伝った

林檎は

青く、青く


籠の中

夢中になって

不細工な指を

伸ばす


輪舞


壊れた回転音盤が

鳴り出した


* * *


<生路>


生物の交配が遺伝子の実験場ならば

欠如及び過多は必然

人類尺度における優劣は

生物尺度における可能性であり

そこにおける平等を求めるならば

我々は分裂で増殖するより他にない

得手/不得手

長/短

どのような状況下でも数個体は生き残るよう

種の全滅を避けるため人類が選んだ術


だから僕は

苦手なことが多くて馬鹿にされようと

出来ないことが多くて怒られようと

それがいつか何かを生むと信じて

生きて行こう


ーーそう言い聞かせて


明日も、明後日も、


長い旅路を


行こう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ