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前書きにかえて
都会では珈琲喫茶が流行っているようだが、ねえ君、珈琲はいささか醒めと理知の香りが強過ぎやしないかい。
イヤ、善し悪しの話じゃないよ、時と場合と好みの話さ。
一方ワインは、酔いと蠱惑が芳しい。
だから茶は、中庸を是としてきた東に好く馴染むと思うのだよ。
ほどよく覚め、機知より柔和。
酔いしれ見るのは幻想であり幻惑ではない。
静寂の中で湯を沸かす。
茶器を選りすぐり、温め、茶葉を入れ、湯を注ぎ、砂時計を返す。
ハハッ、虜になったという点では、中毒者であると認めよう。
このたゆたう時間の、なんと贅沢なことだろうね。
茶を淹れる。
縁側やテラスへ運び、通りと自然と人に耳を傾けながら、茶の香りを楽しみ、ただ飲む。
このときの私は空っぽなのだ。
音と色と感覚だけが、唯一の脳への刺激となる。
どうだい、贅沢だろう。
君ももうやがて、遠くないうちに、列車で街まで帰るのだろう。
最後にどうだい、一杯一緒に。




